学び!と美術

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お手本を見せるとまねしてしまう…。~畑本先生と考えよう!図工の時間「気になる」子ども【第2回】~
2025.08.08
学び!と美術 <Vol.156>
お手本を見せるとまねしてしまう…。~畑本先生と考えよう!図工の時間「気になる」子ども【第2回】~
兵庫県神戸市立東垂水小学校 再任用教諭 畑本真澄

発想が浮かばず固まっている、手先が不器用でうまくできない、やる気がなく机につっぷしている…。図工の時間、そんな「気になる子ども」はいませんか?次へ進めるような声かけをしたいけれど、ぴったりな言葉が浮かんでこない…。そんな悩みを抱えている先生もいらっしゃるかもしれません。

「気になる」子どもは、なぜそのような言動をしているのでしょうか?現象として見えている子どもの姿の裏側には、「本当は頑張りたい、でもうまくできない」という心が隠れているかもしれません。

本連載では、現場の先生から寄せられた「気になる」子どもに関するお悩みについて、畑本先生といっしょに子ども目線で考えたいと思います。

作品例やお手本を見せると引っ張られてしまい、「まね」で終わってしまう子どもがいるのではないかと心配です。見せないほうがよいのでしょうか。見せるとしたら、どんなところに着目させるとよいでしょうか。

作品例を見せるときに、「こういう作品をつくろう」と子どもたちに伝わってしまっていませんか?見せる場合は、題材のねらいに合った問いかけをすることが必要です。

見せることで、何に気付いてほしいのか

活動の見通しをもたせたいときや、発想のヒントにできるように、作品例を見せることが有効な場合はもちろんあると思います。ただ、「今日はこれをつくるよ」と伝わってしまうと、当然子どもたちは「そうか、こういうのをつくるんだな」と思ってしまいます。

「見せる/見せない」が重要なのではなく、「なんのために見せるのか」をしっかり考えましょう。見せることで、子どもたちにどんなことに気付いてほしいのかが大切です。

私も、授業のはじめに教科書の作品を子どもたちと一緒に見ることがよくあります。
そのときは、「どんなことを考えながらかいたのかな」「どんな工夫をしているのかな」など、その題材で発揮してほしい資質・能力につながるような質問をします。
そうすることで、子どもたちが「こんなことを頑張りたいな」と思えるようにしています。

教科書を例に:「こんなことあったよ」

たとえば、教科書の「こんなことあったよ」(1・2下p.26-27)を例に考えてみましょう。2つくらい作品を取り上げて、子どもたちといっしょに見ながらお話しするといいかもしれません。

★子どもたちとお話ししながら絵を見よう

◎「すいすいペンギン」を見ながら

T「お友だちのかいた絵を見てみよう。どんな楽しいことがあったのかな
C「ペンギンだ!私も見たことあるよ」
C「すべり台をすべって水中に飛び込んでる」
T「ほんとだね。なんでペンギンさんをかこうと思ったのかな
C「ペンギンのいろんな動きが面白かったからじゃないかな」
T「そうかもしれないね。ほかにも見つけたことはあるかな
C「みんなで見ているよ。きっと友だちといっしょに見たんだ」

◎「かぞくでりょかんでおひるねをしたよ」を見ながら

T「じゃあこっちの絵はどうかな?どんなことがあったのかな
C「旅館に泊まって、寝たときが楽しかったから、かいたんじゃないかな」
Tなんで楽しそうって分かったの?
C「顔がなんだかうれしそうだから」
T「ほんとだね。周りはどうかな?
C「リュックやかばんだ。旅行に必要ないろんな荷物が入ってるんだ」
T「きっとそうだね。この黒いのは何かな?
C「テレビだ!電話もある」
C「知ってる!旅館に泊まったとき、テレビがあったよ」
C「布団にもなにかかいてある。かわいい布団だね」

…こんなふうに、子どもたちは見つけたことをお話しするのが大好きです。

この題材で大切にしたいのは、「楽しかった」「おもしろかった」「頑張った」といった子どもたちの「気持ち」そのものです。

作品例を見せるときは、作者の「気持ち」が絵のどんなところから感じられるか、子どもたちといっしょに見付けることを楽しんでみましょう。「どんなことが楽しかったと思う?」と問いかけたり、「周りにもなにかかいてあるね」とメインではないところにも気付けるよう促すとよいと思います。先生が気付いていなかったことを子どもたちが見付けてくれることもたくさんあります。

絵を見ながらお話しする中で、子どもたちは自分が実際に体験したあんなことやこんなことを思い出し、「私はあれをかきたい!」とうずうずしてきます。そうなれば、ほとんどの子どもは「作品例のとおりにかこう」とはならないのです。

「まね」から始まってもいい

「友だちのまねばかりしている」と不安に思う先生もいらっしゃるかもしれません。まず、「まねする」こと自体は決して悪いことではありません。友だちの発想やアイデアをよく観察できている証拠ですね。

また、なんとなく「まねしている」ように見えても、お花の色だけ変えているとか、ちょうちょをかき足しているとか、よく見ると「その子らしさ」が絵に出てきていることがあります。それをめざとく見付けて、「ちょうちょがいるんだね」「そんなことも考えてたんだね」など、認める声かけをどんどんしていくと、もっと自分の思い付いたことをかきたいという気持ちになっていくはずです。

最初はまねから始まってもだんだん変わっていくので、それを見付けてほめる声かけをどんどんするとよいでしょう。

■message
「まね」は、自分を表に出すことへの不安が根底にある場合が多いと感じています。

たとえば、「同じキャラクターばかりかく子どもがいて気になる」というお悩みを抱えている先生もいらっしゃるかもしれません。もしかすると、「そのキャラクターならかける」という安心感があるのかもしれません。きっと、そのキャラクターをかくことで周りからほめられた経験があるのだと思います。

図工の時間は、「それいいね」「すてきだね」「そんなこと考えたの?すごい!」とお互いを認め合う言葉がたくさん聞こえてくるといいですね。そういう雰囲気づくりが、すべての活動のベースになります。

先生や友だちから認めてもらう声かけをたくさんもらうことで、子どもは「自分の思ったことをかいていいんだ」と自信をもてるようになっていきます。

畑本 真澄(はたもと・ますみ)
富山県富山市生まれ。図工専科教諭として、神戸市の図工教育に長年に渡り貢献。これまでに、神戸市立小磯記念美術館教育普及担当指導主事、神戸市小学校研修図工グループ研究部長、第71回兵庫県造形教育研究大会神戸大会研究局などを務める。初任校は肢体不自由の養護学校であった。特別支援教育コーディネーターも勤め、通常学級における特別支援教育の実践に取り組んでいる。一人一人の育ちの中で幼稚園・小学校・中学校の造形教育のつながりを大切にしている。好きなことは、季節の料理と電車。