学び!と美術

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思いはあるのに技能が追いつかない…。不器用な子どもにどう指導する?~畑本先生と考えよう!図工の時間「気になる」子ども【第4回】~
2025.11.10
学び!と美術 <Vol.159>
思いはあるのに技能が追いつかない…。不器用な子どもにどう指導する?~畑本先生と考えよう!図工の時間「気になる」子ども【第4回】~
兵庫県神戸市立東垂水小学校 再任用教諭 畑本真澄

やりたいことが思い浮かばず固まっている、手先が不器用でうまくできない、やる気がなく机につっぷしている…。図工の時間、そんな「気になる子ども」はいませんか?次へ進めるような声かけをしたいけれど、ぴったりな言葉が浮かんでこない…。そんな悩みを抱えている先生もいらっしゃるかもしれません。

「気になる」子どもは、なぜそのような言動をしているのでしょうか?現象として見えている子どもの姿の裏側には、「本当は頑張りたい、でもうまくできない」という心が隠れているかもしれません。

本連載では、現場の先生から寄せられた「気になる」子どもに関するお悩みについて、畑本先生といっしょに子ども目線で考えたいと思います。

表したい思いはあるのに、手先や指先が不器用で、技能面で追いつかずいら立っている様子の子どもがいます。どのように支援すればよいでしょうか。

用具の使い方を言葉や映像だけで伝えようとしていませんか?先生が用具に手を添えていっしょにやるなどして、感覚を体で覚えられるように伝えましょう。

「ちょうどいいぐらい」が分からない

大人も同じだと思うのですが、用具を使うときの体の動かし方や感覚は、実際にやってみて「なるほど、こういう感じか」と分かるものです。「ちょうどいい力加減」を言葉だけで説明するのは難しいです。

子どもたちも同じで、特に初めて出会う用具であれば「どのくらいがちょうどいいのか」が分からないことがよくあります。微調整の具合が難しいのです。

例えば彫刻刀であれば、持ち手と反対の手を添えて刃を押し進める感覚や、彫りやすい「深さ」というのがありますが、自分でやってみないとその感覚はなかなか分かりません。

彫る角度が深すぎて刃が前に進まないと、無理に彫ろうとして力を入れすぎてしまうことがあります。反対に、刃が怖くて力を入れられずうまくいかない、という場合もあります。

そうなると表したいことが思うように表せず、「彫刻刀は嫌い!」「怖い」となってしまいます。

そんなときは、先生が手を彫刻刀に添えて一緒に刃を動かし、「このぐらいの角度で」ということを身体感覚とともに伝えるようにしましょう。

「ほら、できたね!」
「いい音で彫れたね」
「さっきと比べてどう?」
「きれいな彫り跡になったね」

…と声かけしながら、「ちょうどいい角度で彫れば、力を入れなくてもちゃんと前に進むんだ」ということが分かるように伝えましょう。

そうすれば子どもたちは、「そうか、この感じでいいんだ」と分かり、今度は自分でやってみよう、と安心して活動へ進むことができます。

左右の手の使い方と力加減

図工で使う用具は、右手と左手が違う動きをするものが多くあります。

例えばはさみやカッターを使うとき、どうしても子どもは「切る」ほうの手に意識が向きがちです。

例えばはさみで紙を切るとき、はさみを切りたい方向に動かして切ろうとしている子どもがいます。でも実は、紙を動かしながら切ったほうがスムーズに切ることができます。

また、カッターで紙を切るときは、カッターを持っていないほうの手で紙をしっかりと押さえることが大切です。

このように、意識が向きづらいほうの手にコツがある場合も少なくありません。

また、「力を入れれば切れる」と思っている子もいます。
「カッターはやさしく軽く持つといいよ」「しっかり材料を押さえるといいよ」など、左右の手の使い方や力加減、意識が向きづらいほうの手に注目させる声かけも大切です。

6年間を通して繰り返し使う

用具は繰り返し使うことで、感覚を体で覚えていくことができます。

一つの題材で終わりではなく、6年間を通して繰り返し使うことで身に付けられように計画しましょう。

例えば6年生の題材「1まいの板から」(5・6下p.32)では、3~5年生で学んできた金づち・のこぎり・電動糸のこぎりの技能を総動員して取り組みます。

描画材も同様で、繰り返し使うことで技能が身に付き、自分の表したい感じに表せるようになっていきます。すでに使ったことがある描画材は、子どもが使いたいときにすぐに手に取れるように準備しておくとよいでしょう。

例えば高学年の絵の題材で、

  • 物語から想像を広げて絵に表す題材(5・6下p.34「言葉から想像を広げて」)
  • 生活の中で心に残っていることを絵に表す題材(5・6上p.24「あの時あの場所わたしの思い」)

…のように、絵の具をメインとする題材でも、低中学年で学習しているそのほかの描画材も用意しておくとよいでしょう。クレヨン、コンテ、パステル、色鉛筆、金網、歯ブラシなどです。

手に取れる場所にあることで、「そうだ、あれが合いそうだな」と自分のイメージに合う表し方を思い付くことにもつながります。

とくに高学年では、自分の表したいことに合った用具や表し方を自分で考え、選ぶことが大切です。そうした経験を6年間を通して自然に積んでいけるような環境を整えましょう。

用具と出会うワクワクに寄り添う

私がのこぎりを使った授業をしたとき、子どもたちは「ひし形に切りたい」「ハート形に切れるかな」など、まっすぐ切る以外の切り方にもチャレンジしたいという声がたくさん出てきました。

大人の感覚からすると「それはちょっと難しいんじゃ…」と心配になることもあるかもしれません。けれど、子どもたちは初めて出会う用具にワクワクしていますから、いきなり否定するのではなく、「それはすごいアイデアだね。チャレンジしてみる?」と気持ちを応援してあげたいですね。

自分でやってみて、「この用具を使うとこんなことができる。でもこれは難しい」と用具の特性を実感を通して学んでいくことも大切です。

安全面に十分気を付けながら、子どもたちの挑戦を見守りましょう。

■message コロナ禍を経て変化した子どもたちを取り巻く環境

手をかざすだけで水が出たり、ワンタッチで絵の具のフタが開けられたり…。日常生活のさまざまな場面で、両手を使う動作が減ってきています。コロナ禍を経て、その傾向はますます加速したように思います。

また、熱中症対策で外遊びを制限される日が増え、全身を使って遊んだり運動したりする機会も減っています。成長期の子どもたちにはとても重要なことです。

子どもたちの体は、学年が上がるにつれて発達していきます。体の軸が安定していくとともに、肩・ひじ・手首・指先までがスムーズに連動し、左右で異なる動きに対応したり力の入れ具合を調節したりできるようになっていきます。

図工では、低学年ははさみやカッター、中学年は金づちやのこぎり…というように、各学年の体の発達に合わせて、その時期に適した用具を学んでいけるように設定されています。

危ないから、不器用だからやらせない…ではなく、安全面に気を付けながら、子どもが「表したい形」や「いいなと思う形」にどんどんチャレンジできるようにしましょう。

実際にやってみることで、子どもたちは「今まで使ったことのない体の使い方」を掴んでいくはずです。

畑本 真澄(はたもと・ますみ)
富山県富山市生まれ。図工専科教諭として、神戸市の図工教育に長年に渡り貢献。これまでに、神戸市立小磯記念美術館教育普及担当指導主事、神戸市小学校研修図工グループ研究部長、第71回兵庫県造形教育研究大会神戸大会研究局などを務める。初任校は肢体不自由の養護学校であった。特別支援教育コーディネーターも勤め、通常学級における特別支援教育の実践に取り組んでいる。一人一人の育ちの中で幼稚園・小学校・中学校の造形教育のつながりを大切にしている。好きなことは、季節の料理と電車。