学び!と美術
学び!と美術

2024年9月、弊社問い合わせ窓口に一通のメールが届きました。Gakkenの編集者の方からです。なんと、図画工作の教科書に載っている題材「すきまちゃんの すきな すきま」(※1)を基に絵本をつくりたいというご提案が!
それから1年。絵本づくりは着々と進み、いよいよ2026年2月に発行されます。
今回は上記メールの送り主であり、絵本の編集を担当した田中百合さんに、「すきまちゃん」の魅力を語っていただきます。
いつもは塩対応な娘が……
おととし(2023年)の秋ぐらいに、小学校1年生だった娘が「すきまちゃん」を二人、持って帰ってきたんです。いつもは塩対応なんですけど(笑)、ちょっと得意気に見せにきたんですね。
すご〜くかわいくて、「なに、これ!!」って聞いたら、「『すきまちゃん』って言うんだよ」とうれしそうに教えてくれました。
一人は帽子をかぶっておめかししてニコニコしてて、もう一人はなんかびっくりしたような顔をしてますよね。同じにつくってもよさそうなものだけど、ちょっと違う顔にしてるんです。お洋服もそれぞれフェルトと紙を使ってつくってる。きっとつくりながら「この子はこんな性格でこんなことが好きで……」っていろいろ考えてたのかなって。
娘さんが持って帰ってきた二人の「すきまちゃん」。おうちも、床が丁寧に色分けされていて、時計や冷蔵庫も付けられています。
そこで初めて教科書を見て、「『すきまちゃんが すきな すきま』ってなんてかわいいのー!」って感動しました。「これは絵本になる!」と自分の中で大盛り上がりしまして……。で、問い合わせフォームから連絡させていただいたというわけです。
そのあと「すきまちゃん」の発案者でもある南育子先生に絵本にする許可をいただき、いろいろやり取りをするようになりました。
子どもは「知ってる!」がうれしい
長年、絵本づくりに携わってきて、全然知らないものよりもちょっと知っているものに子どもが喜ぶ様子を見てきました。「知っていることが本に出てる、うれしい!」みたいな瞬間を知っているので、そういうものを絵本にしたいなって思っていました。
だから絵はリアルな学校にこだわりました。
自分が小学生だった頃とは学校もだいぶ変わっていますしね。今回は南先生と勤務されている業平小学校さんのご協力の下、図工室や音楽室などの様子とか、学校にどんな隙間があるのかとかを取材させていただきました。文をかく山本和子さんと絵をかくにしむらゆうきさんと3人でいろいろ見て回ることができて、ほんとありがたかったです。
物語も当初は、「最後にみんなでおうちをつくって、みんなの『すきまちゃん』が住めるようになりました、チャンチャン」って終わろうかと考えてたんです。でも南先生が「1年生だとここまでやるのはちょっと難しいかも」と。「絵本ならいいかな」とも言ってくださったんだけど、最終的に変えました。というのは、
いかに読んだ子どもが絵本の中に自分がいるような気になれるのかをすごく大切にしました。
あと、図工をリスペクトしているので、言葉一つひとつに気を付けました。
田中さんの校正。「南先生と山本さんとにしむらさんがずっと並走してくださったから、言葉も絵もいい方向へ向かっていけたんです。」
例えば、最初は「すきまちゃんのつくりかた」とか「できあがり」っていうふうにしてたんですね。でも雑談しているときに先生が
子どもと子どもの周りにいる人に喜んでほしい
個人的にはこの絵本の中では夜の部分が好きなんです。夜に「すきまちゃん」たちが学校の中を動き回っていたらさぞ楽しいだろうって(笑)。
この絵本は未就学児も対象にしているんです。年長さんがもうすぐ小学生ってなったときに、わくわくできて、さらっと小学校のことも分かるような本になるといいなって思っています。
子どもがどこかに自分を投影して最初から最後まで集中して読んで、「これ、つくってみたい」とか「授業でやったよ」とか、「うちの隙間はどこかな」って探してくれたりとかしてくれたら、すごくうれしい。とにかく子どもにウケてほしい。芸人さんみたいですけど、すべりたくない(笑)。
子どもと子どもの周りにいる人も喜んでほしい。だから、表紙ひとつとってもいろいろなパターンで検討します。
企画を考えるときは、子どもが喜ぶといいな、子どもの周りにいる人が喜ぶといいなってことをものすごく考えます。
「題材を手渡す」という思いに感動
絵本の企画を立て始めた頃、南先生から図工の研修会の案内をいただいたので、参加させてもらいました。そこで先生方がおっしゃっていた「題材を手渡す」という言い方にすごく感動したんです。
今まで授業って先生が上から指導して、子どもはそれを学ぶみたいに思っていたんですけど、そこにいた先生方は「この題材をどういうふうに手渡すと、子どもにいい感じに伝わるだろうか」ということにすごく心を砕かれていた。
わたしは今は市販の絵本をつくっていますが、その前はずっと直販で園に配る月刊の絵本を編集していたんですね。幼児期って月齢を追って子どもの成長や興味に合致していないと、すぐ「スン」としちゃう。
そういう経験を積み重ねてきたので、小学校でも子どもの目線に合わせて、子どもが自ら「やりたい!」ってなるように、手渡し方をすごく考えながら授業をつくっていることに感動しました。気が付いてから改めて教科書を読んでみたら、教科書もそういうふうに書いてあるって気付いて、また感動して。
とはいえ題材によっては上手下手が出てしまうときもあると思うんですね。だけど、
本の見返しにいろんな「すきまちゃん」が載っていたら楽しそうというアイデア。
しかも、
なんか世界が明るくなるというか。
「すきまちゃん」。あー、かわいい。見れば見るほどかわいい!!(笑)

■書籍情報
すきまちゃんのすきなすきま
原案:南育子
作:山本和子
絵:にしむらゆうき
発売日:2026年2月12日(木)
サイズ:B5判
値段:1500円+税
ISBN:978-4-05-206262-9
※1:隙間テープなどを利用してつくった「すきまちゃん」が喜びそうな隙間を探して、いろいろな隙間の面白さを味わう題材。令和6年度版『図画工作』1・2上p54-55に掲載。
編集者。2005年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。同年4月(株)学習研究社(現(株)Gakken)入社。幼児向け絵本を中心に企画編集に携わる。9歳の娘がいる。好きな食べ物は餃子。趣味はお茶碗づくり。
