学び!とシネマ

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ワン・セカンド 永遠の24フレーム
2022.05.18
学び!とシネマ <Vol.194>
ワン・セカンド 永遠の24フレーム
二井 康雄(ふたい・やすお)

© Huanxi Media Group Limited

 「ニュー・シネマ・パラダイス」をはじめ、映画への愛を語った映画は、数多く作られているが、「ワン・セカンド 永遠の24フレーム」(ツイン配給)は、中国の巨匠、チャン・イーモウ監督が、限りなく愛する映画への熱い想いを語りかける。
 タイトルの「ワン・セカンド」は、1秒のことである。サブタイトルの「24フレーム」は、映画の1秒間は、フィルムのコマにして24フレームあることを意味している。
 舞台は1969年ころの中国。文化大革命の真っただ中、中国の西北部にある強制労働所を脱走した男(チャン・イー)が、砂漠を歩いている。
 男は、強制労働に従事することになり、妻と別れ、娘とも疎遠になる。男は、娘の姿が、あるニュース映画に1秒間だけ写っていたことを知り、その映画を見たいと思う。
 ただそれだけのために、男は強制労働所を脱走し、娘の出ているニュース映画が、どこで上映されるかを探し続けている。
 男はやっと、ある小さな村で、ニュース映画が上映されることをつきとめる。
 ところが、娘の出ているはずのニュース映画のフィルムを、子ども(リウ・ハオツン)が盗むところを男は目撃する。その子どもは、まだ幼い女の子で、弟のために、どうしても映画のフィルムが必要なことが分かってくる。女の子には名前はなく、亡くなった父親リウの娘だったことから、ただ「リウの娘」と呼ばれていることも明らかになる。
© Huanxi Media Group Limited リウの娘から取り戻されたフィルムは、上映する村に運ばれるが、なんと運搬係の不手際で、ケースからはみ出した大量のフィルムは、泥にまみれて、汚れてしまう。なんと、男の探していたフィルムも、この中に含まれている。
 村の映画館の映写技師で責任者でもあるファン(ファン・ウェイ)は、映画を早く見たがっている村民たちを説得して、フィルムの洗浄にとりかかる。
 娘の映像を見たいだけの男もまた、村人たちと共に、この洗浄作業を手伝うことになる。
 村の映画館は、村民たちの数少ない娯楽を提供している貴重な場である。映画上映は、年に数回、あるかないかの一大イベントなのだ。この日も、ニュース映画だけでなく、劇映画の「英雄子女」が上映される予定である。
 そんな一地域の事情や、映画のフィルムをめぐる登場人物たちのそれぞれの事情が、少しずつ露わになっていく。
 老獪そのものの作劇術である。チャン・イーモウは、多くの傑作を撮り、北京で開催された夏、冬の五輪の演出でも有名である。
 そのチャン・イーモウが、自らの多くの経験を辿るような映画を撮りたいと思うのももっともなこと。そして、この「ワン・セカンド」で、実現してみせた。
 映画は、教育にも似て、学習にもなるが、反面、洗脳の道具になる媒体でもある。国威高揚にも利用される。だから、映画を見る側は、その映画がどんな背景で作られ、なにを訴えたいかを理解することが重要である。
© Huanxi Media Group Limited 「ワン・セカンド」もまた、そもそも文化大革命がどのような事件だったかを理解する必要があるだろう。多くの文献があるから、各自、学習されたい。
 「ワン・セカンド」では、娘の姿をひと目でも見たいと願う男や、辛い過去を抱える映写技師ファン、弟のために奔走するリウの娘の、それぞれの背景が巧みに編集されて表現される。
 チャン・イーモウは、中国という国への批判を忘れたとも言う人もいるが、このほどの映画について、こう述べている。「我々には夢があり、それを追い求めていくことで、今日の困難は困難として、明日はより良くなると信じることができる。人と映画の関係性や映写技師の上映会の日の興奮や人には言えない苦悩を通して、こういったことを伝えられると考えた。本作は映画の物語であり、物語や登場人物たちを通して、人の心情を表現したいと思った」。多くの映画を撮り続けている監督自身の、映画への並々ならぬ愛が伝わってくるではないか。
 圧巻は、みんなでフィルムの洗浄をするシーンだろうか。すべて、チャン・イーモウの経験に基づいているそうだ。
 「ニュー・シネマ・パラダイス」の成人したトトが、ラストシーンで映像を見続けるように、「ワン・セカンド」の男もまた、娘の24フレーム、たった1秒間を見続けることになる。
 映画の持つ多くの意味を、改めて考えさせてくれる。これは、映画への愛に満ちた、チャン・イーモウの力作だろう。

2022年5月20日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

『ワン・セカンド 永遠の24フレーム』公式Webサイト

監督・脚本:チャン・イ―モウ 『妻への家路』
出演:チャン・イー 『オペレーション:レッド・シー』、リウ・ハオツン、ファン・ウェイ 『愛しの故郷』
2020年/中国/中国語/103分/シネスコ/原題:一秒钟/字幕翻訳:神部明世
配給:ツイン