学び!とESD

学び!とESD

ドイツの森の幼稚園:新しい学びや育ちの捉え方・評価の在り方を求めて
2021.03.15
学び!とESD <Vol.15>
ドイツの森の幼稚園:新しい学びや育ちの捉え方・評価の在り方を求めて
木戸 啓絵(聖心女子大学大学院永田研究室・岐阜聖徳学園大学短期大学部専任講師)

乳幼児期からはじめるESD

 ユネスコの文書では、「ESDは、就学前から始める必要があり、一生涯にわたって意味のあるものでなければならない」とされています(UNESCO 2006)。そこで今回は、乳幼児期に焦点を当てたESDについてドイツの森の幼稚園の事例を取り上げながら考えていきたいと思います。ドイツは自然に親しむ人々が多く、環境に対する意識の高さが人々のライフスタイルや社会のさまざまな分野の政策にも反映されています。そのような社会的な背景のなかで、保護者や地域のニーズを受けて「森の幼稚園」が全国各地に広がり、その数はおよそ1,500園にのぼると言われています(Miklitz 2015)。

森には持続可能性がいっぱい!

動物と子どもたち ドイツの森の幼稚園では、日常生活や遊びの中にある身近な自然現象や生き物をテーマに持続可能性へとつながるさまざまな活動が展開されています。どの活動でも、自然の中で子どもたちが、生き物や自然の現象について五感をフルに使って探索することが大切にされています。さらに、園での体験や学びが子どもたちの家庭生活や地域社会と連関することで、地球にやさしい価値観がおのずと子どもたちの中に培われます。同時に、家庭や地域においても持続可能なライフスタイルが広がり、大人たちの価値観の変容も促されます。森の幼稚園の実践は、テーマ、規模、活動期間などの違いはありますが、そこから共通して見えてくる特徴は以下のようにまとめられます。

出典:「ESDの国際実施計画のための枠組み」(UNESCO 2006)で示されているESDのキーワードをもとに筆者作成

子どもの学びや育ちの捉え方~新しい評価の在り方を求めて~

 次に、これらのESDの特徴を踏まえて、さらに子どもの学びや育ちをどのように捉えていくかという評価の点についても考えていきたいと思います。自然体験を通して、私たち大人が子どもたちに願っているのはどのようなことでしょうか。生き物や自然現象について知識を習得することでしょうか。あるいは、社会的なスキルを獲得することでしょうか。もちろん、活動の中でそうした知識やスキルが結果的に身につくことはあるでしょう。しかし、子どもの学びや育ちは、どれだけ知識を習得したか、どれだけスキルを獲得したかという点だけでは測りえない性格のものなのではないでしょうか。
 本連載の第13号では、イギリスの公立学校であるアシュレイ小学校(Ashley Primary School)の事例が取り上げられています。そのなかで、子どもたちの学習成果は保護者や地域の人々と共有され、持続可能な未来の創り手である子どもたちは公的な場で「祝福」されることが紹介されています。これは小学校の事例ですが、就学前教育においてもESDの実践を深めていく際にはこのような評価の考え方がとても重要になります。言い換えるならば、ESDでは、望ましい子どもの姿を事前に想定して、それに照らし合わせるような方法で子どもの学びや育ちを捉える、という従来の視点とは異なる評価の在り方が求められているのではないでしょうか。すなわち、大人が事前に設定した基準をクリアしたかどうかで子どもを評価するのではなく、共に身近な問題に向き合い足元から持続可能な生活の営みを考え実践していくなかで得た学びを共に喜び合い味わうという、そうした評価の在り方が求められているともいえるでしょう。このような評価については、目標準拠型の評価とは異なる視点をもつ「鑑識眼に基づく評価」(松下2002、佐伯2019)の考え方も一つのヒントとなるでしょう。

子どもと大人の関係性

 上に述べた新たな評価の在り方を考えるにあたって重要になるのが、子どもの周りにいる大人の在り方や、大人が子どもをどのような存在として捉えるかという点です。教育や保育の現場においてはさまざまな評価の場面が存在していますが、そのなかでも「大人は評価する立場(教える側)であり、子どもは評価を受ける立場(教わる側)である」といった考え方が今も根強く残っているのではないでしょうか。しかし、ドイツのユネスコ国内委員会の文書(Deutsche UNESCO-Kommission e.V. 2014)では「子どもは、生まれながらにして有能で主体的な存在であり、大人とともに持続可能な社会を構築していく存在」であると記されています。また、保育者には「子ども時代を尊重し、子どもに寄り添い共に歩む存在」であることが望まれています。さらにESDでは、子どもが世界と関わり、世界を発見し、世界を自分の中に取り込んでいくことを保障することこそ「子どもの権利」であると位置付けられています。つまり、「評価する側(教える側)・評価される側(教わる側)」といった固定された関係性を超えて、新たな学びや育ちの捉え方が求められているのではないでしょうか。

森の幼稚園から学ぶ

お祭りの様子 ドイツの森の幼稚園における日々の生活や活動では、身近な動植物の生態学的なつながりや自然との共生について、子どもたちは体験を通して認識していきます。自然とともにある生活の中にはさまざまな持続可能性につながるテーマが存在しており、生命の循環や存在の意味など根源的な問いに触れる場面も少なくありません。また、森の幼稚園の生活の場となる自然の中には、既成のおもちゃも最新の情報機器もなければ、水道やトイレなどの設備が整っているわけでもありません。しかし、子どもたちはファンタジーを働かせ創造的に遊びを生み出し、現代社会でもはや見えなくなってしまったさまざまなプロセスを身をもって経験します。不自由さやシンプルさのなかにある豊かさに目が向けられています。大人が設定した学びや育ちのプロセスや評価の基準を、今日あらためて問い直すプロセスが求められているのではないでしょうか。
 2021年現在、感染症や気候変動、貧困や紛争など地球規模の問題が山積しています。そうした時代のなかで、私たちがこれからも持続していきたい社会や目指していきたい未来では、いったいどのような教育や文化が必要とされているでしょうか。これまでの当たり前を疑い、大人はいったん立ち止まって考えていく必要がありそうです。

*ドイツでは、自然と森の幼稚園(Natur-und Waldkindergarten)などさまざまな名称で広まっていますが、ここではそれらの総称として「森の幼稚園」を使います。

**写真はすべてドイツ・プレーツ市の森の幼稚園(Naturkindergarten. Die Wühlmäuse e.V.)代表ヴィル氏より提供を受けたものです。掲載については、子どもたちの保護者からも許可を得ています。

【引用・参考文献】

  • Deutsche UNESCO-Kommission e.V. (2014) Bildung für eine nachhaltige Entwicklung im Elementarbereich – Kitas setzen Impulse für den gesellschaftlichen Wandel. Deutsche UNESCO-Kommission e.V.
  • I.Miklitz(2015)Der Waldkindergarten:Dimensionen eines pädagogischen Ansatzes, Cornelsen.
  • UNESCO (2006) Framework for the UNDESD International Implementation Scheme. UNESCO.
  • 木戸啓絵(2019)「ドイツの〈森の幼稚園〉における気候変動教育:その理念等をめぐって」及び「Colum 9  気候変動教育に関わる森の幼稚園での取り組み~ブルーベリープロジェクト~」永田佳之編著『気候変動の時代を生きる: 持続可能な未来へ導く教育フロンティア』山川出版社
  • 木戸啓絵(2021)「持続可能な社会を生きる―ドイツの森の幼稚園」『子どもと自然保育Bookしあわせみつけた 自然と共に生きよう~素敵な発見、出逢いから~』上田女子短期大学
  • 佐伯胖(2019)「「教える」ということの意味」汐見稔幸・奈須正裕(監修)佐久間亜紀・佐伯胖(編著)『現代の教師論』ミネルヴァ書房
  • 松下良平「教育的鑑識眼研究序説―自律的な学びのために」(2002年)天野正輝(編)『教育評価論の歴史と現代的課題』晃洋書房
  • リチャード・ダン著,永田佳之(監修・監訳)(2020年)『ハーモニーの教育―ポスト・コロナ時代における世界の新たな見方と学び方』山川出版社
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