学び!とESD

学び!とESD

コロナ禍の学びを考える ―持続可能な未来へのCONNECTEDkind(コネクティッド・カインド)(その2)
2021.05.17
学び!とESD <Vol.17>
コロナ禍の学びを考える ―持続可能な未来へのCONNECTEDkind(コネクティッド・カインド)(その2)
永田 佳之(ながた・よしゆき)

 前号では、パンデミックの時代に産み落とされた「学び」であるCONNECTEDkindを通して、人々が自然や他者、そして夢や希望、さらには個人や社会の「影」とつながり、持続可能な未来への感性を育むアプローチを紹介しました。
 持続可能な未来の創造というスケールの大きな目標を掲げるESDに必要なのはビジョンであると同時に、まさにCONNECTEDkindのような〈適切なアプローチ〉です(ESDにおけるアプローチの重要性については参考文献を参照)。今回は、この手法を用いた大学での授業による試みを紹介します。
 まず、学生たちの作品を紹介する前に、前号に引き続き、CONNECTEDkindの創始者であるラウラ・ベレーヴィチャさんの作品を見てみたいと思います。写真1は影が斜め下に伸びた赤い落ち葉ですが、この自然物と影からラウラさんが想像したのはベレー帽の少女でした(写真2)。写真3は同じ落ち葉ですが、影の形状が異なります。そこから想い描かれたのは気持ち良さげにシャンパンを飲む人物でした(写真4)。写真5は影が横に伸びた同じ落ち葉ですが、描かれたのは葉巻をくわえた女性です(写真6)。

写真1写真2 ベレー帽をかぶる女性
©Laura Belevica

写真3写真4 シャンパンを飲む人
©Laura Belevica

写真5写真6 葉巻をくわえる女性
©Laura Belevica

写真7 学校帰りに雪道を歩く子ども
©Laura Belevica
写真8 子犬と丘を登る女性
©Laura Belevica
写真9 ドライヤーで髪を乾かす人
©Laura Belevica

写真10 恐れをなしている犬
©Laura Belevica
写真11 裾をめくり小川に足を入れようとする女性
©Laura Belevica
写真12 魔法のマントで空を飛んで得意になっている猫
©Laura Belevica

 このように同じ自然物からでも実に多様な作品が生まれます。それぞれに個性があり、影の向きや形状が変わると想像するものも違ってくるのです。写真7~12は、ここまで紹介した作品以外のラウラさんによる作品一覧です。
 さて、コロナ禍においてCONNECTEDkindは国境をこえて若者に希望を与えています。筆者の授業でも学生たちが毎週のようにCONNECTEDkindを楽しんでいます。
 コロナ禍で筆者が催した「自主授業」では、有り難いことに「森の案内人」として知られる小西貴士さんも参加されていました。プロの写真家でもある小西さんはご自身の写真を使うことを提案して下さり、毎週、素晴らしい写真に預かることがかないました。
 写真13は、一例ですが、「綿毛」を影と共に撮影した1枚です。これをもとに、筆者の大学院のクラスでCONNECTEDkindを試してみたところ、バレリーナ(写真14)を描いた者もいれば、映画「メアリー・ポピンズ」の一場面(写真15)を想像した学生や、ソーシャル・ディスタンスを取りつつも天使によってコネクトされている恋仲の熊を描いた者もいました(写真16)。

写真13(タンポポの綿毛)写真14 バレリーナ写真15 メアリーポピンズの一場面写真16 恋仲の熊をつなぐ天使

 CONNECTEDkindは大人数の授業でも楽しめます。筆者が受け持つ社会学概論という講義は社会の「影」への想像力を養うことに重きを置いていただけに、内容的にも相応しい授業でした。ほぼ毎週、総勢50人の学生たちに授業の数日前にお題として1枚の写真を送り、それぞれに紙やスマートフォン上で作品を描くことを課題とし、毎回、オンライン授業の初めに個性あふれる作品を5人前後のグループで見せ合い、皆、繰り返し自分が想像したものと他者が想像したものとの違いを楽しみました。
 前号「その1」でも述べたように、CONNECTEDkindでは、絵を描くことの上手・下手という価値判断をすることなく、不思議と「みんなちがってみんないい」という雰囲気になります。写真17は、社会学概論のクラスでほぼ毎週、作られた作品集をPadletというソフトで公開したものです。学生たちは実に楽しんでこの活動に取り組んだことが伝わってきます。
 このレッスンが学生たちのメンタルなウェルビーイングに寄与したことは、幾人かの学生の感想からもうかがえます。ある学生は「自然のものからここまで想像して新たなものを作ることがこんなにも楽しいとは、CONNECTEDkindのおかげで初めて気づくことができました。もっと世界中の人に体験してもらいたいです。」という感想を述べています。また、「コロナ禍であるからこそ、周りの人達とのコネクションを大切にしていくことが必要であることを、CONNECTEDkindを通じて知ることができました。そして、色々と考えることがある中で、絵を描いている時間はそのことに没頭しリラックスすることができたので感謝しています!」という感想からも分かるとおり、コロナ禍であったからこそ、その効用はひときわ発揮されたようです。

写真17 50人のクラスで生まれた作品群(一部)

 ラウラさんはCONNECTEDkindの一つひとつの作品を「雫」(DROPLET)と名付けています。その理由を尋ねてみると、「1年前、自分が暮らす米国ロスアンジェルスでもコロナ感染者が急増すると同時に、アジア系の人々への差別も広がり、瞬く間に不寛容な社会になりました。この惨状を目の当たりにした時、CONNECTEDkindの小さな雫のような作品がkindness(親切さ)と共に広がり、やがては親切心に満ちた大海(社会)となることを願ったのです。」という返答でした。
 CONNECTEDkindの基底には、平和への切なる願いがあるのです。皆さんも、ぜひ試してみてはいかがでしょう。

【補記】
ラウラさんはラトビアの民話をもとにした物語の絵本も描いています(『春までぐっすり』 文:三木卓、絵:ラウラ・ベレーヴィチャ、かまくら春秋社)
https://kamashun.shop-pro.jp/?pid=156300161

【参考文献】

  • 永田佳之「ESDの実践へと導く4つのアプローチ」(日本国際理解教育学会編『国際理解教育 Vol.18』所収、44-51頁、明石書店、2012年
  • 小西貴士『チキュウニウマレテキタ(子どもとSDGsをひらくシリーズ)』風鳴舎、2020年