学び!とICT

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主体的・対話的に深く学ぶために 第3回 ~考えるためのスキルを鍛える~
2022.12.26
学び!とICT <Vol.07>
主体的・対話的に深く学ぶために 第3回 ~考えるためのスキルを鍛える~
桃山教育学院大学 木村明憲

思考スキルとシンキングツール

 子どもたちが主体的に学びを進めたり、他者と協働して学びを深めたりする上で、考えるためのスキル(思考スキル)を鍛える必要があります。泰山ほか(2014)は、教科共通の思考スキルとして19のスキルを挙げています。また、黒上(2017)は、15の思考スキルを挙げ、それらの思考スキルとシンキングツールとの対応を明らかにした上で、シンキングツールを活用してどのように思考スキルを育成していけばよいかについて提案しています。さらに、小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編(文部科学省2017)は、思考スキルを「考えるための技法」と呼び、10の技法を例示しています。このように、子どもたちが主体的に考えを深めたり、広げたりするためには『考えるためのスキル』である思考スキルを高めていくことが重要なのです。

シンキングツールの活用が思考スキルを高める

 黒上(2017)が提案するように、思考スキルを高める上で、シンキングツールを活用することが効果的であると考えます。しかし、「シンキングツールを活用していれば思考スキルが高まる。」というものではありません。思考スキルが高まり子どもたちが主体的に考えを深めたり広げたりする理想の姿は、課題や目標を解決・達成するために発揮する思考スキルが何かを理解した上で、適切なシンキングツールを選択して学習を進めている姿であると考えます。このように子どもたちが自らシンキングツールを選択するためには、思考スキルとシンキングツールの関係を理解し、シンキングツールの活用方法を習得している必要があるのです。このような指導は、容易なことではありません。なぜなら、指導者が全てのシンキングツールの活用方法と思考スキルとの関係を把握し、シンキングツールの活用方法を理解しなければならないからです。そこで私は、これらのことを子どもたちに指導しやすくするために、情報活用スキルカードに思考スキルとシンキングツールの対応表を掲載することにしました(図1)。子どもたちがこのような対応表を常に携帯することにより、思考スキルとシンキングツールの対応を指導しやすくなります。子どもたちも常に思考スキルやシンキングツールを目にすることで、これらが身近なものになっていくことでしょう。また、課題や目標を解決・達成するための思考スキルを示し、子どもたちが表を見ながら適切なシンキングツールを選択するような学習活動を行うこともできるようになります。つまり、情報活用スキルカードがあることで、子どもたちはそのカードを手がかりに思考スキルとシンキングツールの対応を理解し、自ら選択して活用することができる足がかりになるのです。

図1 情報活用スキルカードと思考スキル・シンキングツール
情報活用スキルカードのダウンロードはこちらから

スキルの指導は、意識をして繰り返す

 私は、子どもたちがシンキングツールを闇雲に活用しても思考スキルは高まらないと考えています。思考スキルを高めるためには、思考スキルとシンキングツールの関係を理解し、「比較するためにベン図を使っている」「構造化するためにピラミッドチャートを使う」といったように、何のためにシンキングツールを活用しているのかを意識しながら繰り返し活用することが大切なのです。スキルを高める上で「意識をしながら繰り返す」ということは鉄則です。これはスポーツを例にあげれば明白かと思います。どのようなスポーツでもどのように練習すればうまくなるのか、スキルが高まるのかを考え、指導者のアドバイスや他者のプレーを頭に浮かべながら改善すべき点を意識して繰り返し練習することで少しずつうまくプレーすることができるようになります。これは、学習におけるスキルも同じであり、思考スキルにおいても言えることです。

シンキングツールの指導は「助走」「習得」「活用」

図2 シンキングツールの指導ステップ

 このようなことを踏まえた上で、子どもたちの思考スキルを高めるためのシンキングツールの指導段階として「助走→習得→活用」の3ステップを提案します(図2)。まず、シンキングツール指導の「助走」は、情報活用スキルカードなどの、思考スキルとシンキングツールの対応がわかる教材を子どもたちに配付することです。このような教材が配付されると、多くの子どもたちがシンキングツールに興味を示すことでしょう。そして、シンキングツールの使い方を予想し、授業や家庭学習などで使ってみる子も出てくるのではないでしょうか。シンキングツール指導の「助走」段階は、子どもたちのシンキングツールに対する興味を高め、それらの図を子どもたちの身近な存在にしていくことです。
 次に「習得」段階です。「習得」段階では、教科・領域の授業の中でシンキングツールと思考スキルについてしっかりと指導します。指導すべきことは、

  • 活用するシンキングツールと思考スキルの関係
  • シンキングツールのどこに何を書くのか
  • シンキングツールを使うとどのようなことが起こるのか、わかるのか
  • シンキングツールに書いた後、どうするのか

の4点です。このような指導を教科・領域の文脈に合うように行っていくことで、子どもたちはシンキングツールについての理解を深めていきます。
 最後にシンキングツールの「活用」段階です。「活用」段階では、様々な教科・領域の授業、クラブや委員会活動、家庭での自主学習など様々な場面で思考スキルを意識しながらシンキングツールを活用していきます。このように様々な場面で活用することにより、シンキングツールを教科横断的に活用することができるようにあり、様々な場面で思考スキルを発揮して学ぶことができるようになるのです。

思考スキルを高めるThink Training

図3 思考力を高めるThink Training
詳細はこちらへ

 思考スキルを育成するために作成したもう一つの教材としてThink Trainingがあります(図3)。これらは、シンキングツールを活用して思考スキルを高めるための教材です。この教材に取り組むことで、シンキングツールと思考スキルの関係や、シンキングツールのどこに何を書けばよいのかということを理解することができます。練習問題となっていますので、学校での帯時間や家庭学習で活用するのが効果的です。この教材に取り組むことで、「これは、ピラミッドチャートが使えませんか」「私は、フィッシュボーンチャートで整理できると思います」といった声が子どもたちからあがるようになるでしょう。図4、5はThink Trainingに掲載されている教材例です。写真を変えることで授業内容に合った教材に加工することもできます。子どもたちの思考力を育成するための一助となれば幸いです。

図4 多面的に見て考えを深めるThink Training

図5 考えを広げ、問いを導き出すThink Training

木村 明憲(きむら あきのり)
桃山学院教育大学 講師 博士(情報学)
専門分野は教育工学、情報教育
主な著書に『主体性を育む学びの型:自己調整、探究のスキルを高めるプロセス』、『単元縦断✕教科横断―主体的な学びを引き出す9つのステップ』(さくら社)

【参考文献】

  • 泰山裕、小島亜華里、黒上晴夫(2014)「体系的な情報教育に向けた教科共通の思考スキルの検討 : 学習指導要領とその解説の分析から」『日本教育工学会論文誌』37巻第4号、p375-386
  • 黒上晴夫(2017)「初等中等教育におけるシンキングツールの活用」『情報の科学と技術』67巻10号、p521-526
  • 文部科学省(2017)『小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編』