学び!とICT

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主体的・対話的に深く学ぶために 第4回 ~学習を調整するためのスキルを鍛える~
2023.02.03
学び!とICT <Vol.08>
主体的・対話的に深く学ぶために 第4回 ~学習を調整するためのスキルを鍛える~
桃山教育学院大学 木村明憲

主体的に学習に取り組む態度

 2017年告示の学習指導要領では、資質・能力の三本柱として「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」が示されました。その中で、「学びに向かう力・人間性等」は、「主体的に学習に取り組む態度」として「観点別評価を通じて見取ることができる部分」と「個人内評価を通じて見取ることができる部分」があると示されています。さらに、これらの評価の在り方について「粘り強い取組を行おうとする側面」と「自らの学習を調整しようとする側面」で評価される必要があると示されています(文部科学省 2019)。ここで示された、「自らの学習を調整しようとする側面」については、SCHUNK and ZIMMARMAN(1998)が示した自己調整学習の考え方が参考になります。SCHUNK and ZIMMARMAN(1998)は、自己調整学習のフェーズを3段階で示しています。これを学校現場に馴染む言葉に置き換えると、「見通す」「実行する」「振り返る」と表現できると考えます。ここでは、これらのフェーズで子どもたちが発揮する自己調整スキルを明らかにした上で、子どもたちの自己調整スキルの育成と発揮について考えていきたいと思います。

図1 自己調整学習者を育てるセルフラーニングカード

子どもたちが自己調整学習者になるために

 図1は、子どもたちが自己調整学習者になるために作成した「セルフラーニングカード(YouTubeでの解説) 」です。このカードは、自己調整学習のフェーズ(大きなまとまり)を左端に「見通す」「実行する」「振り返る」と示しています。そして、それらのフェーズをプロセス(少し小さなまとまり)として「目標」「計画」「確認」「調節」「評価」「帰属」「適用」と示しています。これらはプロセスであるとともに、そのプロセスで学習者が発揮するスキルであると考えます。このような自己調整学習の流れを1時間の授業や単元に当てはめ、日常の教科学習の中で意識していくことで、子どもたちは少しずつ調整することの意味を理解し、主体的に学習を調整する自己調整学習者へと成長していくのです。

自己調整学習のプロセスとスキル

 「見通す」フェーズのはじめは「目標」のプロセスです。ここでは子どもたちは「目標設定スキル」を発揮して学びます。「目標設定スキル」とは、課題を基にこれから学ぶ学習の問いを導き出す力であると考えます。これから実行する授業や単元の問いを導き出し、学習目標を明確にすることで、その授業・単元でどのようなことに取り組めばよいかということが明らかになるのです。「セルフラーニングカード」では、問いを導き出すための例として、「問いを広げる」「問いを順序立てる」「問いをしぼる」の3つのステップと、それらのステップで考えを深めるための支援となるシンキングツールを示しています。次に、「見通す」フェーズの次のプロセスである「計画」のプロセスについてです。ここでは、学習の計画を立て、その後の学習の見通しを具体的にします。「セルフラーニングカード」では、学習計画表(レギュレイトフォーム)を例にあげて示していますが、学習目標をTo doリストにまとめたり、タブレットPCのカレンダーに学習の予定を入力したりすることも学習を調整する上で効果的な方法であると考えます。

 次に、「実行する」フェーズでは、「見通す」フェーズで明らかにした目標や計画を基に、自らの学習をメタ認知し、学習を確認したり、調節したりします。図2は、Nelson & Narens(1994)に筆者(木村)が加筆したメタ認知過程と認知過程の図です。

図2 メタ認知過程と認知過程

 この図の通り、「実行する」プロセスでは、子どもたちが学習を進めながら、時おり対象レベルからメタレベルにあがり、自らの学習活動をモニタリング(確認)することが大切であると考えます。確認する際は、実行している活動が「目標からズレていないか?」「学習方法は適切か?」「残りの学習時間で課題が解決し、目標が達成するのか?」の3ステップで確認します。そのような確認を通して、目標からのズレや方法が不適切であると感じたり、残りの学習時間で課題が解決しないと感じたりした際に学習のコントロール(調節)を行うのです。このように、「実行する」フェーズで学習を確認したり、調節したりすることは直ぐにできるものではありません。図3のようなフローチャートを配付し、確認タイムをつくるなどして、学習を確認したり、調節したりする活動をくり返し経験し、これらのスキルを高めていくことが大切です。

図3 学習調整フローチャート

 最後に「振り返る」フェーズでは、これまで行ってきた学習を「評価」し、なぜそのような結果になったのかの理由を考えます。このように評価の理由を考えることを「帰属」と言います。そして、評価や帰属したことによって明らかになった学習の成果や課題を次の時間や今後の学習にどのように活かす(「適用」)ことができるのかを考えるのです。「セルフラーニングカード」では、「評価」のプロセスを課題・目標と結果を比較し、「うまくいったこと(成果)」「うまくいかなかったこと(課題)」を明らかにすることを提案しています。このような視点で振り返りを記述すると、「内容」についての振り返りと「方法」についての振り返りが記述されます。これまでは「内容」についての振り返りが重要視されてきましたが、子どもたちが自ら学びを進めていく力を高めるためには、「方法」について振り返ることも大切なことです。次に、「帰属」のプロセスでは、うまくいったこと・うまくいかなかったことの理由や原因を考えます。「なぜ、うまくいったのか」「なぜ、うまくいかなかったのか」ということを考えることにより、次の授業・学習は「どのように取り組めばよいのか」「何を頑張ればよいのか」という、今後の学習目標の候補を見出すことができるのです。これらをリスト化(表1)しておくと、目標を設定する際にこれまでの学習の成果や課題を基に目標を立てることができます。最後に「適用」のプロセスです。ここでは、今後の学習、次の授業で活かせるところを考えたり、具体的に活かすことを決めたり、活かす場面を考えたりします。活かせることを考えるのは、表1の「活かせるところ」の枠のように、「うまくいったこと」「うまくいった理由」を基に考えると具体的な活かせる場面を思い浮かべることができるのではないでしょうか。このプロセスは、本時の学習の振り返りと、次の授業・学習をつなげる非常に重要なプロセスなのです。

表1 学習振り返りリスト例

子どもたちが自己調整学習者になるための指導

 提案した「セルフラーニングカード」は、カードに示されたプロセスやスキルを子どもたちが意識して学ぶことにより、自己調整プロセスを理解したりスキルを習得したりすることにつながると考えています。したがって、カードを配付するだけでは効果はありません。また、カードを基に2、3回実践を実施しても効果は見られないでしょう。大切なことは、様々な教科・単元で、子どもたちが「学習を調整している」という意識をもって、活動に取り組むことです。能力は、習得したい力を意識化し、何度も繰り返し経験することで身についていきます。情報活用スキルや思考スキルとともに、子どもたちの自己調整スキルを高め、主体的に学習を自己調整する指導が広がることを期待します。

木村 明憲(きむら あきのり)
桃山学院教育大学 講師 博士(情報学)
専門分野は教育工学、情報教育
主な著書に『主体性を育む学びの型:自己調整、探究のスキルを高めるプロセス』、『単元縦断✕教科横断―主体的な学びを引き出す9つのステップ』(さくら社)

【参考文献】

  • 文部科学省(2017)小学校学習指導要領
  • 文部科学省(2019)児童生徒の学習評価の在り方について(報告)
  • SCHUNK、D.H and ZIMMERMAN、B.J(1998)Self-Regulated Learning ―From Teaching to Self-Reflective Practice―. The Guilford Press
  • 自己調整学習研究会 編『 自己調整学習:理論と実践の新たな展開へ』北大路書房、2012

【参考動画】

※執筆者・木村先生よりお知らせ
上記の内容に関連した書籍が2023年2月上旬刊行予定です。
『自己調整学習〜主体的な学習者を育む方法と実践〜』明治図書