学び!とICT

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主体的・対話的に深く学ぶために 第5回 ~スキルを発揮して学ぶ単元・授業づくり~
2023.03.07
学び!とICT <Vol.09>
主体的・対話的に深く学ぶために 第5回 ~スキルを発揮して学ぶ単元・授業づくり~
桃山教育学院大学 木村明憲

 これまで、子どもたちが主体的・対話的で深く学ぶ上で、情報活用・思考・自己調整といったスキルを育成することの重要性について述べてきました。今回からの後半4回の連載では、子どもたちがそれらのスキルを習得した後、スキルを発揮して学ぶためにどのような授業を行う必要があるのかについて、書き進めて行きます。

図1 学習スキルの育成と発揮

学習スキルの育成と発揮のプロセス

 図1は学習スキルの育成・発揮過程について整理した図です。学習スキルを育成するとは、子どもたちが習得しようとしているスキルを意識して学習に取り組んでいる状況であると考えます。また、子どもたちが主体的にスキルを発揮して学ぶ状況は、学習活動の中で無意識にスキルを発揮し、学びを進めている状況であると考えます。
 このような定義のもとに子どもたちのスキルを育成するには、まず、「(子どもたちが)スキルを身につける必要性を感じる」必要性があると考えます。例えば、タブレットPCを活用する上でタイピングスキルを高めることは非常に重要なことです。しかし、学習者である子どもたち自身が、「タイピングが早くなることが学習する上でとても大切なことである」という必要性を感じなければ、スキルは向上しにくいということです。次に、「身につけるべきスキルが何かを理解する」ことです。先程のタイピングを例に挙げるとすると、タイピングにおいて身につけるべきスキルとは、キーボードのどこに何のキーがあるのかの知識と、文字入力を行う上でのローマ字についての知識、そして、入力した文章を頭の中でローマ字に変換し、適切な文字のキーを素早く押していくという技能であると考えます。このように高めたいスキルがどのような要素になっているのかを考えることで、身につけたいスキルについて理解することができると考えます。そして、最後に「身につけたいスキルを意識して実行する」さらに「スキルを意識して何度も繰り返し練習する」ことです。何事も「これでよいのか」「この方法でうまくなるのか」ということを意識(メタ認知)しながら取り組まなければ、卓越したスキルは形成されません。このように意識をしながら様々な教科・領域で身につけたい・高めたいスキルを繰り返し経験することがスキルを育成する上で非常に重要なことなのです。
 教師は、子どもたちのスキルを育成するために、指導・支援を行います。それと同時に、子どもたちがスキルを発揮して学ぶために、そのように学ぶことができるような単元・授業を構想することが重要になってきます。スキルを発揮して学ぶことができる単元・授業とは、子どもたちが自ら自己調整的・探究的に学ぶことであると考えます。表1は、子どもたちが学習スキルを発揮しながら主体的に学びを進めるプロセスを整理した表です。この表では、子どもたちがスキルを発揮しながら主体的に学ぶプロセスを「自己調整」のプロセスと「探究」のプロセスとして整理しました。教師がこのようなプロセスをもとに単元・授業を構想することにより、子どもたちはそれぞれのプロセスで、習得したスキルを発揮して主体的に学びを進めていくことができるのだと考えます。

表1 スキルを発揮して学ぶ学習プロセス

 表上段の自己調整は、自己調整学習の理論を基に、「見通す(予見)」「実行する(遂行)」「振り返る(内省)」のプロセス を示しています。このプロセスは単元のプロセスであるとともに、1時間の授業のプロセスでもあります。自己調整学習とは、自分自身や自らの学習をメタ認知しながら、スキルを発揮して学ぶ学習です。そのため、表に示している通り、単元のような長期の学習も、1時間の授業のような短期の学習も、子どもたちがこのようなプロセスでスキルを発揮し、学習を調整していくことができると考えます。
 表下段の探究は、学習指導要領に示されている探究プロセス「課題の設定」「整理・分析」「まとめ・表現」 です。総合的な学習の時間においては、探究プロセスを基に学習を進めることが最適であると考えます。ただ、教科学習において子どもたちが探究的に学ぶためには、探究プロセスを細分化し、教科の見方・考え方を働かせながら学ぶ、場面を設定する必要があります。そのような視点から考え出したプロセスが「単元縦断型プロセス」 です。子どもたちは、「探究・単元縦断型プロセス」で構想された単元で学ぶことで、情報活用スキルや思考スキルを発揮して主体的・対話的で深く学ぶ授業が実現するのです。
 これらのプロセスを複合して単元・授業を構想することにより、図1にあるように、まず同じ教科、他教科でスキルを発揮して学ぶことができるようになり、次に、委員会やクラブ活動などその他の学校での学びでスキルを発揮することができるようになる。そして、学校や家庭での日常生活においてスキルを発揮して、生活することができるようになるのです。

木村 明憲(きむら あきのり)
桃山学院教育大学 講師 博士(情報学)
専門分野は教育工学、情報教育
主な著書に『主体性を育む学びの型: 自己調整、探究のスキルを高めるプロセス』、『単元縦断✕教科横断―主体的な学びを引き出す9つのステップ』(さくら社)

【参考文献】

  • 木村明憲『主体性を育む学びの型: 自己調整、探求のスキルを高めるプロセス』さくら社、2022