学び!と共生社会

学び!と共生社会

カリキュラム・マネジメントとインクルーシブ教育
2020.05.27
学び!と共生社会 <Vol.04>
カリキュラム・マネジメントとインクルーシブ教育
大内 進(おおうち・すすむ)

 新学習指導要領には、カリキュラム・マネジメントという用語が登場しました。
 新学習指導要領では、学びの主体が子どもであることを明確にした上で、「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」の3つの資質・能力をバランスよく育むことを求めています。これらを実現するためには、教育課程の編成や実施に力を注ぐだけでなく、それを評価し改善していくことが一層大切になります。これを具現化するものとして「カリキュラム・マネジメント」が必要ということになります。また、教科横断的に教育課程全体で取り組むという点からも「カリキュラム・マネジメント」は重要な意味を持っています。天笠氏は、「教科を超えて,教科と教科がつながりながら,あるいは,互いに教科と教科が連携しながら目指す資質・能力をより育てていくのだという,こういうところに願いを込めて,カリキュラム・マネジメントという言葉に託して提起されている」と述べています(*1)
 現代の学校には教科横断的に取り組んでいかなければいけない課題がたくさんあります。インクルーシブ教育システムの構築は、教科横断的な課題も含めてすべての学校教育活動に通底する課題の一つだといえます。新小学校学習指導要領解説(第3章2(1)①)には次のような記述が認められます。
 「『障害者の権利に関する条約』に掲げられている教育の理念の実現に向けて,障害のある児童の就学先決定の仕組みの改正なども踏まえ,通常の学級にも,障害のある児童のみならず,教育上特別の支援を必要とする児童が在籍している可能性があることを前提に,全ての教職員が特別支援教育の目的や意義について十分に理解することが不可欠である。そこで,今回の改訂では,特別支援教育に関する教育課程編成の基本的な考え方や個に応じた指導を充実させるための教育課程実施上の留意事項などが一体的に分かるよう,学習指導要領の示し方について充実を図ることとした。」
 新学習指導要領の総則「第4児童の発達の支援」に、「ア 障害のある児童〔生徒〕などについては、特別支援学校等の助言又は援助を活用しつつ、個々の児童〔生徒〕の障害の状態等に応じた指導内容や指導方法の工夫を組織的かつ計画的に行うものとする。」として、特別支援学校学習指導要領に示されている自立活動、個別の教育支援計画、個別の指導計画の活用なども扱われています。さらに、各教科の学習指導要領解説には、それぞれに応じた具体的な配慮の例も紹介されています(*2)。  こうした配慮は、教科毎に他とは無関係に行われたり、指導者によって対応が異なったりたりすることは望ましいことではありません。したがって、インクルーシブ教育システムの構築の推進に際しては、どの課題にも増して、カリキュラム・マネジメントの視点から組織的に取り組んでいくことが大事だということになります。

 具体的には、

  • 学校の教育目標を踏まえた教科横断的な視点で「インクルーシブ教育システムの構築」が含まれているか。
  • 組織配列した教育内容の中に「インクルーシブ教育システム構築」の要素が含まれているか。
  • 教育課程の編成、実施、評価、改善という一連のPDCAサイクルの中に「インクルーシブ教育システム」への配慮がなされているか。
  • 外部の資源も含めた人的・物的資源の活用、教材・教具・施設・設備に関しても「インクルーシブ教育システムの構築」への対応が含まれているか。

 こうした観点から常に教育課程の見直しを行うことにより、障害を含めて様々なニーズのある児童生徒の一人一人に対する支援の「質」の一層の充実が図られ、個人の価値を尊重する態度や自他の敬愛と協力を重んずるといった態度の育成も促進されていくことが期待されます。

*1:平成30年度国立教育政策研究所公開シンポジウム「資質・能力の育成に向けたカリキュラム・マネジメントの推進」
http://www.nier.go.jp/06_jigyou/symposium/sympo_h30/pdf/report_20190116.pdf
*2:教科等での配慮を整理したものについては、例えば国立特別支援教育研究所のサイトなどで確認することができます。
http://www.nise.go.jp/nc/wysiwyg/file/download/1/2369