学び!と共生社会

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インクルーシブ教育システムの構築と就学先決定の仕組み
2020.11.25
学び!と共生社会 <Vol.10>
インクルーシブ教育システムの構築と就学先決定の仕組み
大内 進(おおうち・すすむ)

 新型コロナウイルス感染拡大の第3波が心配されるこの頃ですが、来年度の新入学に向けた就学の手続は粛々と進められていることと推察します。今回は障害がある児童生徒の就学先決定の仕組みについて確認しておきたいと思います。
 障害のある児童生徒の就学先決定の仕組みについては、学校教育法施行令に規定されているのですが、「インクルーシブ教育システムの構築」への潮流の中で大きく変容してきました。その流れは大きく3つに区分することができます。

「特殊教育」の時代の就学先の決定

 平成14年の学校教育法施行令改正以前までは、障害があると認定された者については、就学の手続の段階から例外なく特別支援学校に就学することとされていました。就学先の決定を巡る当事者や保護者から起こされるトラブルや訴訟等も少なくありませんでした。障害がある児童生徒が小・中学校に入学した事例もありますが、それらは地域の教育委員会の判断によるものでした。

「特殊教育」から脱皮の時期における「認定就学制度」の導入

 平成13年に、文部科学省内に設置された調査研究協力者会議が「21世紀の特殊教育の在り方について~一人一人のニーズに応じた特別な支援の在り方について~ (最終報告)」(*1)を答申しました。これを受けて、平成14年に学校教育法施行令が改正されたのですが、ここで「認定就学者」という仕組みが導入されました(*2)。これは、小・中学校の施設設備も整っている等の特別の事情がある場合には、例外的に特別支援学校ではなく「認定就学者」として小中学校へ就学することを可能にしようとするものでした。この改正によって、就学基準に該当する障害がある児童生徒であっても、法的根拠に裏付けられて小・中学校に就学できる道が開けたということになります。

「認定特別支援学校就学者」の導入

 「障害者の権利に関する条約」の批准に向けた国内法の整備の見直しの一環として、平成23年7月に改正された障害者基本法の第16条第1項には、いわゆる「インクルーシブ教育」の推進が謳われています(*3)。さらには、中央教育審議会初等中等教育分科会報告「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」においても「障害のある子どもの就学先決定の仕組みを改めること」が提言されました(*4)
 こうしたことを受けて平成25年8月26日付けで学校教育法施行令の一部が改正され、これまでの「一定の障害のある児童生徒は原則として特別支援学校に就学する」とする就学先を決定する仕組み(第5条及び第11条関係)が改正されました(*5)
 この改正では、従前の「認定就学制度」が廃止され、新たに「認定特別支援学校就学者」という用語が導入されています。これは、積極的に流布されていないのですが、すべての児童生徒が通常の学校に入学するという前提で就学の手続が始まるということを意味しています。その上で、施行令22条の3に示す障害の程度に該当し、当該市町村の教育委員会が特別支援学校に就学させることが適当であると認める者については、「認定特別支援学校就学者」として対応するということになったのです。

就学先決定の仕組みの見直しとインクルーシブ教育システムの構築

 このように、就学の手続の考え方が、「インクルーシブ教育システムの構築」に沿う形で大きく変容して、現在に至っていることがご理解いただけると思います。
 しかし、現象面だけを見ると手続きが大きく変わっているようにはとらえにくく、また、特別支援学校就学者の比率が年々高くなっているという現実も一方にあります。こうした仕組みが、広く教育現場に受け入れられるためには、当該の児童生徒だけでなく、全児童生徒にもメリットがあることが認められなければなりませんが、それには一層のきめ細やかな指導体制の充実や環境の改善が求められます。ドイツでは、「障害者の権利に関する条約」批准以降、通常の学校の体制も変革しながら、分離教育からインクルーシブ教育への取り組みがトップダウンで精力的に進められていますが、その道のりは平坦でないことを教えてくれています。

*1:「21世紀の特殊教育の在り方について~一人一人のニーズに応じた特別な支援の在り方について~(最終報告)」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/006/toushin/010102.htm
*2:これまでの制度改革
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/attach/1299891.htm
*3:障害者基本法
https://www.mhlw.go.jp/tenji/dl/file05-02.pdf
障害者基本法の第16条第1項の条文
「国及び地方公共団体は,障害者が,その年齢及び能力に応じ,かつ,その特性を踏まえた十分な教育が受けられるようにするため,可能な限り障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられるよう配慮しつつ,教育の内容及び方法の改善及び充実を図る等必要な施策を講じなければならない。」
*4:中央教育審議会初等中等教育分科会報告「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/houkoku/1321667.htm
*5:学校教育法施行令の一部改正について(通知)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1339311.htm
就学先を決定する仕組みの改正(第5条及び第11条関係)
「市町村の教育委員会は、就学予定者のうち、認定特別支援学校就学者(視覚障害者等のうち、当該市町村の教育委員会が、その者の障害の状態、その者の教育上必要な支援の内容、地域における教育の体制の整備の状況その他の事情を勘案して、その住所の存する都道府県の設置する特別支援学校に就学させることが適当であると認める者をいう。以下同じ。)以外の者について、その保護者に対し、翌学年の初めから2月前までに、小学校又は中学校の入学期日を通知しなければならないとすること。」