学び!と共生社会

学び!と共生社会

「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」報告(案)について
2020.12.25
学び!と共生社会 <Vol.11>
「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」報告(案)について
大内 進(おおうち・すすむ)

 本連載では、これまでの10回にわたって、インクルーシブ教育システムの構築に関するわが国の基本的な考え方や実際の取り組みを視座に情報を提供してきました。「障害者の権利に関する条約」の批准を契機に、インクルーシブ教育システムの構築が通常の小・中・高等学校等に浸透し様々な取組が進んでいること、他方、当事者の視点に立つとまだまだ課題も残されていること等を理解していただけたのではないかと思います。それでは、これからのインクルーシブ教育システムの構築はどのように進んでいくのでしょうか。
 文部科学省は、昨年9月に「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」(*1)を設置しました。この11月にこれまでの会議の議論が素案として取りまとめられ(*2)、パブリックコメントにかけられました。パブリックコメントの意見等を踏まえて最終報告がまとめられていくことになりますが、その内容はこれからの施策立案に反映されていくものと思われます。そこで、素案の段階ですが、通常の学校の取組に関する今後の方向性がどのように考えられているか整理しておきたいと思います。

これからの特別支援教育の方向性

 素案からは、今後もインクルーシブ教育システムの理念を構築し、特別支援教育を進展していく方向性が確認できます。このことを踏まえて、小中学校における障害のある子どもの学びの充実についても、現状や現行制度を整理したうえで、管理職のリーダーシップ等、特別支援学級と通常の学級の子どもが共に学ぶ活動の充実、児童生徒の特性に応じた支援、自校における通級による指導を充実するための環境整備、通級による指導等の在り方の検討、学校施設のバリアフリー化等について提言がなされています。 これらはこれまでの取組の改善や一層の工夫を求めるものだといえます。

全ての教師に求められる特別支援教育に関する専門性

 さらに、今回の素案では、全ての教師に特別支援教育に関する専門性を求めています。このことは、インクルーシブ教育の構築の推進の上で大変重要な提言であるといえます。すでに、小学校教員等の養成を目的とする教職課程においては、令和元年度入学生からは、全ての学生が発達障害や軽度の知的障害をはじめとする特別支援教育の基礎的内容を1単位以上修得することが義務付けられていますが、この素案には、全ての教師に求められる資質・専門性として、次のような記述が認められます。

 ○ 全ての教師には、障害の特性等に関する理解や、個別の教育支援計画・個別の指導計画などの特別支援教育に関する基礎的な知識が必要である。加えて、障害のある人や子供との触れ合いを通して、障害者が日常生活又社会生活において受ける制限は、障害により起因するものだけではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものという考え方、いわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえ、障害による学習上又は生活上の困難について本人の立場に立って捉え、それに対する必要な支援の内容を一緒に考え、本人自ら合理的配慮を意思表明できるように促していくような経験や態度が求められる。また、こうした経験や態度を、多様な教育的ニーズのある子供がいることを前提とした学級経営・授業づくりに生かしていくことが必要である。
 ○ 日々の教育実践において、目の前の子供の障害の状態等により、学習上又は生活上の困難さが異なることを理解し、個に応じた分かりやすい指導内容や指導方法の工夫を検討し、子供が意欲的に課題に取り組めるようにすることが重要である。その際、困難さに対する配慮等が明確にならない場合などは、校内の特別支援コーディネーターや特別支援学級、通級による指導の担当教師に相談したり、必要に応じて特別支援学校等に対し専門的な助言又は援助を要請したりするなどして、主体的に問題を解決していくことができる資質や能力が求められる。

 こうした資質や専門性は、連続性のある多様な学びの場の充実・整備に欠かせないものです。また、こうした資質や専門性を高めていくためには具体的な方策が不可欠ですが、素案では、養成、研修・人事交流の在り方などについても提言しています。また、一方的に負担を求めるだけでなく、インセンティブも大事になりますが、この素案ではその拡大にも言及しており、踏み込んだ提言になっていると言えます。
 本素案に関するパブリックコメントはすでに締め切られていますが、多数の意見が寄せられており、関心の高さがうかがえます。最終報告の公開が待たれるところですが、素案も一読されるとよいのではないかと思います。

*1:新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/154/index.htm
*2:新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議 報告(案)
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20201222-mxt_tokubetu01-000011855_2.pdf