学び!とPBL

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ふたば未来学園──未来を取り戻すための学校②
2019.10.29
学び!とPBL <Vol.19>
ふたば未来学園──未来を取り戻すための学校②
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.アクティブラーニング「未来創造探究」

 ふたば未来学園高校のカリキュラムの特徴は、「未来創造探究」に集約されています。東日本大震災と、それに伴う東京電力福島第一原子力発電所事故によって大きく傷ついた自分たちの地域を、高校のカリキュラムの中で高校生自らの手によって再生していくことを目的とした、類を見ない授業です。
図1 授業の様子 同校が編集した「未来創造探究ノート」の冒頭には次のような文が掲げられています。
 「震災と原発事故という、人類が体験したことのないような災害を経験した私たちには、これまでの価値観、社会のあり方を根本から見直し、新しい生き方、新しい社会の建設をめざし、変革を起こしていくことが求められており、それは、未来から課せられた使命ということもできる。
 私たち人間は、理想とする未来の姿を思い描きながら、いま、ここにある現実を、少しずつ、少しずつ変えることができる存在である。それは未来を創造することにほかならない。
 ふたば未来学園高等学校は、まさに、未来への挑戦である。この学校は、双葉郡の方々の「ふたばの教育の灯火を絶やすことなくともし続けたい」という強い願いと、復興を実現し、先進的な新しい教育を創造しようとする国など関係機関の熱い想い、そして何より、震災後、子どもたちの中に芽生えた、復興を成し遂げようとする強固な意志、夢を実現しようとする意欲、新しい価値観、創造性、高い志として、誕生した。……(後略)」
 まさに、「熱い想い」がそのまま伝わってくるようです。「未来創造探究」では、様々なアクティブラーニングの方法が紹介されており、また、地域の現状や全体の計画がていねいに記述されています。カリキュラム全体の構成は以下に示すとおりです。

図2 3年間の探究活動の全体像

2.廃炉に向けた議論を高校生から

 いくつかの例を具体的に紹介しましょう。
図3 クラスタースクールに参加していた頃の生徒たち 原子力防災研究班の一人の生徒は、自宅が原発から3kmの距離にあり原発事故後しばらくの間自宅に帰ることも許されませんでした。2年後に初めて目にした自宅は、雑草に覆われた変わり果てた姿でした。彼は、このような悲劇を繰り返してはならないと強い志を持って原子炉の廃炉について探究を始めます。しかし、事故から3年もたつと原発事故に対する発言は地域の分断を深めるものとされ、次第に一部の特定者の発言だけに限定されるようになっていきます。地域の人たちと話していくうちに、原発事故の被災者ですら原発問題から関心が薄らいでいく事実が鮮明になりつつありました。
 彼はJSTの「サイエンスアゴラ」などのイベントに参加し、「科学と社会の間の距離は、どちらか一方からのアプローチだけでは埋まらない」ということを実感します。そして、「非専門家である一般市民が原発事故処理の技術的に難解な問題についてどう理解を深め、意思決定に参画すべきか」というテーマで社会的探究を始めます。
 様々な活動を積み重ね、最終的には「高校生と考える廃炉座談会~日常に潜む廃炉に関連した問題、あなたはどう思っている?~」を企画し、あらゆる世代の地域の方々との対話を進めます。意見交換の中で重要と感じたのは、「知ることを相手に任せっきりにしないこと」が大切と述べています。そして、廃炉に向けて「住民が主体的に判断を下すこと」という結論を得るに至ります。

3.ArtとWorkが交差する高校

図4 FMふたばプロジェクト 次のような生徒もいます。アグリビジネス探究の生徒です。
 彼はどこにでもいる野球好きの高校生でした。2016年の夏に参加した渡米プログラムで、彼はロサンゼルスのファーマーズ・マーケットに出会いました。そこはまるでマーケットが生活の一部のようで、農家の生産者と子どもから年配の方までが楽しく交流している様子を目にして、彼はとても大きな衝撃を受けました。「これを地元でも開催したい!」そう思ったのがそもそものきっかけでした。
 日本に戻った彼は、自分で交渉して農家から畑を借り、自分たちのグループ「FMふたば」を立ち上げ、マニュアルやインターネットに頼らずに自分で土をいじりながら野菜作りの研究を進めます。実際に開催したファーマーズ・マーケットは大雨にたたられてしまいましたが、それでも参加した農家からは様々な意見をもらい、話題を集めました。自分で農業に取り組むことで、農業のイメージを「野菜を買いに行く」ではなく「農家の○○さんに会いに行く」という流れを作りたいと考えています。彼は、大学入学後も、アパート近くに畑を借り、野菜を作っています。
図5 演劇の授業の一場面 彼らはいずれも、地方創生イノベーションスクール2030に参加し、大学に進学した今もプロジェクトをサポートしてくれています。
 ふたば未来学園高校にはさまざまな分野の著名人が応援団を組織して協力してもらっています。授業では1回切りのゲストスピーカーではなく、学校や生徒の実情をすり合わせた「編集授業」をめざしています。中でも演出家の平田オリザ氏は一貫して、同校に演劇の授業を提供しています。生徒たちは原発事故の被災者や東京電力職員から様々なエピソードを聞き取り、それを読み解きながら脚本を作り、加害者であると同時に被害者でもあるなどの事実に触れさせ、原発事故の持っている複雑さを単純化せず、ありのままに表現し、観客に考えさせようとします。実際生徒たちの演じる演劇は、言葉の一つ一つがとてもリアルで、原発事故経験の有無にかかわらず心に突き刺さってくる言葉ばかりです。
 「ArtとWorkがコンセプトの学校になればいい」という夢想が、いつの間にやら本当に実現されていました。
図6 ふたば未来学園の生徒たち