学び!とPBL
学び!とPBL
1.独力で国際フォーラムを開催する公立高校!
日高高校は生徒のグローバル力の伸長に力を入れており、この「アジア高校生フォーラム」は同校の独力で、17もの国から50名以上もの高校生・教員を招待し、アジアの環境、防災、文化、観光についてディスカッションするというものです。海外との交渉もすべて教員がやるということを後に聞き、その実力とご苦労に敬服しました。パリの高校生と交流するだけで右往左往していた私たちにとって、驚愕以外の言葉が思い当たりません。私たちは同校に、地方創生イノベーションスクール2030への参加をお願いし、快諾をいただきました。
2015年4月のキックオフシンポジウムにも参加し、同年7月には和歌山県内4校の先生方にはるばる福島大学までお出でいただき、イノベーションスクールの進め方について意見交換をすることができました。地域課題の捕まえ方や生徒の活動の進め方、先生の介入のしかたなどについて議論し、先生方の熱心さに脱帽する思いでした。
2.福島で「化けた」和歌山の高校生
あまり目立つ方ではなかったという彼女は、和歌山に戻り「福島は本気だ、負けていられない!」と一念発起し、地元で高校生プロジェクトを開始し、リーダーとしての頭角を現しました。指導されていた田中一也先生はいつも、彼女は「福島に行って化けた」といいます。わずか3泊4日の学習会の参加で、彼女は大きく成長したというのです。正直なところ貧弱な学習会で、せっかく遠方からご参加いただいたのにかえって勉強させてもらって申し訳ない、と思っていたのですが、この話をお聞きし、東北スクールで得た「異質との接触によって生徒は成長する」という最大の教訓が実証された思いでした。地域内の活動を地域内で進めていても、新しい考え方は生まれません。日高高校がグローバルに力を入れているのも同じで、外側の視点から地元を見つめることで地元を外側に開いていくというビジョンによるものだと思います。その後も、彼女や彼女の後輩たちは「クラスタースクール」の度に参加して、私たちに新鮮な風をもたらしてくれました。
さらに重要なのは、組織同士のつながりは、ここでは福島と和歌山という二つの地域ですが、人間同士の信頼関係に裏打ちされていないと進まないということです。ネットワークという言葉を皮肉って、フィンランドの教育学者エンゲストロームは「ノットワーク」と言い直しました。つまりノット(結び目)がないと物事は動かない、人間と人間の人間的なつながりによってこそ、物事は進むという意味です。度重なるお付き合いで、和歌山にどれだけ助けられたか知れません。
3.世界の現実に触れる和歌山クラスター
和歌山の高校生たちは、人口減少・少子高齢化問題に向き合い、「ただの傍観者ではなく、世界の創造者になるべきだ!」と宣言し活動を開始します。5つの高校がクラスターを構成し、共通課題と様々な独自課題に取り組みます。
1890年に和歌山県沖でオスマン帝国の軍艦エルトゥールル号が台風で沈没し、島民が数十名の命を救ったことがきっかけで日本とトルコは親密な関係になり、OECDの紹介もあり和歌山クラスターはドイツの他にトルコとも交流することになりました。
しかし、2011年頃から隣国シリアが内戦状態となり、大量の難民がトルコに押し寄せて混乱をもたらし、さらに2016年にはエルドアン政権に対するクーデター未遂事件が起き、戒厳令が敷かれ、トルコ側のパートナーの活動は政府の監視下に置かれ、普通のSkypeも地下活動のように車の中でつなぐことになります。さらに「難民」という言葉を使うとテロのターゲットになる可能性があるので、「移民」と言い換えました。
田中先生は、生徒たちとドイツの高校とも交流していますが、そこにもISから逃れた難民がいて、彼にどうしてドイツに来たのか?と尋ねると、大きな声で「自由のため!」と叫んだことが忘れられないと何度も言います。
後にまた述べることになると思いますが、2017年に開催した「生徒国際イノベーションフォーラム」に困難を乗り越えて参加したトルコの高校生は、英語ができずおどおどする日本の高校生に対して「言葉なんて通じなくたっていい、勇気を持って話そうよ!」と呼びかけました。
私たちはこのプロジェクトを通して、世界で最も困難を抱える人々とも出会うことができ、これらはプロジェクトの本当の意味に気づくことのできた貴重なエピソードです。