学び!とPBL

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生徒のホンネでつくる生徒共同宣言
2020.06.25
学び!とPBL <Vol.27>
生徒のホンネでつくる生徒共同宣言
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.不発のワークショップ

図1 2017年3月 東北クラスタースクールから(本文とは関係ありません) さて、8月の生徒国際イノベーションフォーラム2017まで4ヶ月と、もう後がないタイミングで、「生徒共同宣言」の担当をお願いした和歌山に向かいました。生徒共同宣言の素案をつくるワークショップを行うためです。福島県内で顔なじみの生徒や先生と同様のワークショップを行うことはよくありましたが、ほとんど初対面の生徒たちを相手に思ったような成果を得られるのか、正直なところとても不安でした。
図2 2017年3月 東北クラスタースクールから(本文とは関係ありません) いざ、ワークショップを始めてみるとその不安は的中しました。地域課題に取り組むプロジェクトを進めてきた生徒たちに、つくりたい共同宣言のコンセプトを説明し、「タイトルをどうする?」「どんなつくり方にする?」「内容をどうする?」「自分ならどんなメッセージを盛り込みたい?」といった問いかけをして進めましたが、そもそも会場に立ち込む緊張感が自由な発想を阻害し、こちらもアドバイスしようにも相手のことを全くわからないので一般的なことしか言えないし、といった状況で、ほとんど中身を組み立てることができませんでした。このようなワークショップでは共同宣言はできないということを痛感しはしましたが、その一方でタイトルは「Our Voice in 2017」に決まり、先生も生徒たちもなんとかしたいという強い意欲を感じることができました。
 帰りの電車の中で、生徒による共同宣言だから、生徒の生の声によるものでなければならない、それには生徒たちのことをよく知り、生徒たちの心の中の叫びをうまく引き出し、それを紡いでいくことが必要だ、システムでつくろうとしても形式しか整わない、と頭の中で反省しました。

2.生徒たちのホンネから見えた未来

図3 2017年3月 東北クラスタースクールから(本文とは関係ありません) 福島に戻るや、和歌山の田中先生にお願いして、プロジェクトの中心にいた生徒さんを紹介していただき、連休中にビデオチャットで直接話を聞くことにしました。考えかたを押しつけるのではなく、あくまでも生徒たちの聞き手になろうと意を固めました。その結果、次のような珠玉のような言葉を得ることができたのです。(カテゴリーは後から整理したもの)

  • 若者の2030年社会へのビジョン
    「プロジェクトに参加すると不安とイライラの毎日、新しいことをやろうとするとクラスで孤立するのがつらかった。」
    「2030年問題で初めて世界の危機的なことを知った。しかし同時に(先生のように)その世界を変えようとしている人がいることも知った。」
    「自分にもできることがあるから、未来に対して楽天的に考えられるようになった。」
    「プロジェクトに参加して、問題の本質が見えてくるようになった。」
    「将来の夢の選択肢が増えた。」
  • 社会参画
    「学校に閉じこもらず、広い範囲で物事を考えたい。」
    「生徒だけでなく、先生も含めた大人を巻き込んで活動したい。」
    「自分も当事者だと思えるような活動をやりたい。」
  • 国際協働
    「テロや難民の問題などは遠い世界の出来事だと思っていたけれど、近い問題だと考えるようになった。」
    「どうしてこういう問題が起きるのか、どうすれば解決できるのか考えるようになった。」
    「学習を重ねてテロで苦しむ人や難民に直接話を聞きたいと強く思った。」
  • 生徒を主体とした教育システム
    「普通の学校では学べないこと能動的に学ぶことが魅力的、教科以外のことに興味を持つようになった。」
    「大学を卒業した後、地元に戻ってくるという選択肢が増えた。」
    「英語を学ぶモチベーションが上がった。」
    「討論などの機会は学んだことが実になることを実感できる。自分で得た学びは裏切らない。」
  • 若者達の提案するイノベーション
    「外を変えるよりもまず自分が変わらなければ、と思うようになった。」
    「流れを作る側に立ちたい。流れの作り手になりたい。」
    「学ぶことはどう生きるかを考えること。2030年問題は生きるモチベーション。」
    「困難に対して諦めるのではなくむしろ燃えるようになった。生徒と大人が協力すればパワフルの3乗!」
    「自分が意見を持っていないと何も前に進まない、間違えてもいい、自信を持てるようになった。」
    「自分で変えることができるなら、絶望したり、衝撃を受けたりすることはない。」
    「同じ世代の人たちが自分たちの問題を解決しようと取り組んでいることが未来を明るいものに。」

3.本質を貫くことは楽じゃない

 一つ一つの言葉が新鮮で、高校生でもここまで考えられるのかと感心させられることばかりでした。一気にインスパイアされ、共同宣言のイメージが見えてきました。聞き取った言葉をつなぎ、共同宣言の草稿を作り、和歌山に送って見ていただき、修正を重ねてある程度形ができたところで、実行委員会を介して国際会議参加クラスターに送り、意見を求め、さらに修正を加えて一次案ができます。これを今度は英訳して、海外のパートナー学校に送り、同じように意見を求め、日本側で修正します。さらにはOECDにも監修してもらい、英訳文をオーソライズするという、気の遠くなるような作業をおこない、一つの形ができあがり、生徒国際イノベーションフォーラム2017に提案するばかりとなりました。
図4 2017年3月 東北クラスタースクールから(本文とは関係ありません) しかしこれで終わりではありません。フォーラムの中でさらにこれを読み合って意見を出し合い、全体で納得できるものにするという、最終段階が残っています。どんな意見が出てくるのか、また、意見が出てきたときに1時間や2時間で意見を反映させることができるのか、全く想定することができません。それでも、これをやり切らないと生徒による共同宣言になりません。われながら途方もない困難なやり方を選んだものだと、後悔しました。

生徒国際イノベーションフォーラム2020が図の通り開催されます。今回は新型コロナウィルス感染防止のために、ウェブ上で開催することになりました。誰でも参加できますので、ご興味のある方はリンク先をご覧下さい。
https://forum2020.innovativeschools.jp/jp/