学び!とPBL

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授業研究の同僚・協働性(授業とPBL⑤)
2023.04.20
学び!とPBL <Vol.61>
授業研究の同僚・協働性(授業とPBL⑤)
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

 ふたば未来学園高校の鈴木貴人先生による連載の最終回です。最後は「教科×探究」として取り組んだ数学の授業実践について紹介していきます。

1.高校教員の同僚・協働性

 教員免許更新制が廃止され、現職教育の在り方は転換期を迎え、同時に、ICTを活用し地域を越えた教員同士が協働で学び合うようになりました。自律的に実践知を重ねる授業研究が、コロナ禍で失われた教員相互の対話の代替手段となるのではないかと考えました。
図1 ふたば未来学園高校の授業の様子 「OECD国際教員指導環境調査」(TALIS)によれば、「他の教員の授業を見学し、感想を述べることを行っていない」と回答した日本の教員の割合は他の37参加国と比較して低く、わが国では校内の授業研究が広く行われていることを示しています。しかし、ある県教委による調査では、小学校の研修機会が21回であるのに対して、高校ではわずかに4.5回しかありません。
 高校は授業時間が長く、部活動や課外・検定指導もあるため、放課後の研修時間がとれないのが原因です。しかしそれ以上に、中・高校は教科担任制であるため、個々の教員も、管理職も含めて組織的に協働で授業研究を行う必要性を感じていないことが根本原因だと思います。
 このような高校で「総合的な探究の時間」が始まり、教員が協働し実践をデザインしていく必要性が新たに生じました。探究学習を指導する上で、素地となる同僚・協働性はこれまで以上に重要であると同時に、それを育むチャンスとも考えました。

2.事前検討会の過程

 具体的にはオンラインで、90分程度の事前検討会を、全国の数学の先生方7名と3回行いました。当初はオンラインをデメリットと捉えていましたが、むしろ参加する教員の融通をつけやすいメリットとなりました。
 また、授業者がデザインした授業を他の先生が参観・事後検討するのではなく、授業デザインから協働で考えるスタイルを採用しました。自分たちが授業を通して、どのような資質・能力を生徒に獲得して欲しいのかという目的(研究テーマ)設定では、7名の思いだけではなく、学習指導要領を通して日本や未来の社会が要請するカリキュラムの方向性も意識しました。その結果、獲得したい資質・能力を「身近な事象を柔軟に粘り強く考え、過程を振り返り、表現できる力」、研究テーマを「数学的に考える力を育成する授業とは」に決めました。
図2 ふたば未来学園中学校の授業の様子 次に、研究テーマを達成するために取り入れたのが、京都大学・西岡加名恵先生が紹介し研究している「逆向き設計」です。逆向き設計は、単元を通して育成したい生徒の姿から授業を構想していくのですが、そのために横断的に資質・能力の活用を必要とするパフォーマンス課題を設定し、その評価にはルーブリックを用います。こうした方法は、生徒側の当事者意識を涵養するためにも有効な実践でした。単元を通して、どういった資質・能力の育成を目指していくのかを明らかにすることは、実践による「生徒の成長と教員の指導」、いわば学習の「裏と表」の両面から精緻に捉えられるからです。

3.授業の実際

 実践では、数学Ⅰ「数と式・集合と命題」(5時間)の単元を設定しました。実践のまとめとなる研究授業は、単元末に、これまでの知識を普段の生活に活用できているか、パフォーマンス課題を通して測る授業としました。具体的には、グループで下記に示したパフォーマンス課題に取り組み、他チームの回答と比較していく授業を設計しました。

予選トーナメントを勝ち抜いた上位4チームでリーグ戦が行われ、各チーム残り1試合を残した時点での勝ち点の合計は、以下の通りでした。

順位

学校名

勝ち点の合計

1

X高校

15

2

Z高校

14

3

F高校

13

4

Y高校

12

〈ルール〉
勝ったチームには「3点」、負けたチームには「0点」、引き分けの場合には両チームに「1点」加点される。
最終戦を終えて、1位の勝ち点が同点であった場合には両チーム優勝とする。
最終戦は、X高校 対 Y高校、Z高校 対 F高校で行う。

問題 このときF高校が優勝するための条件を考えてみましょう。

 全国各地の教員と事前検討会ができたことの利点は以下の2点です。
 1点目は、それぞれの教員が勤務する学校や生徒が多様なので、自校の生徒の姿に縛られない教材や指導方法を考案できたことです。普段は、必然的に目前の生徒の姿から逆算して授業を設計していますが、そうしたマインドセットを崩せたことは普段よりも多様な教員との協働があったからだと思います。
 2点目は、オンラインの事前検討会を終え、研究授業までの期間や研究授業後に勤務校の先生方と授業について対話できたことです。つまり、オンラインでの授業検討で教材観についての課題が焦点化されたことで、校内の教員間では主に指導観に絞った教材研究を行うことができました。
 授業では、これまで数学の授業に対して今一つ前向きさに欠けていた運動部の男子生徒が課題で示された内容を身近なものと捉え意欲的に学習に取り組もうとしたり、課題で設定されたルールを理解することに壁を感じたスポーツ経験の少ない女子生徒を、他の生徒がサポートしたりする様子が見られました。その後、個人の学習場面を経て、協働学習に移行すると、生徒たちがそれぞれの意見を積極的に発言し、合意形成していく様子が見られました。
図3 ふたば未来学園の演劇施設 授業は「個別学習」と「協働学習」の場面を階層的に設定しました。中には個別学習の時点から「もう無理、考えられない」と漏らす生徒もいましたが、導入場面でルーブリックを用いた自己評価を取り入れたことで、個々が学習に責任を持ち自律的に粘り強く考えていくことが内発されたようでした。
 最後に今回の授業について、生徒にヒアリングしました。生徒たちにとって目新しい授業と予想していたのですが、観点別評価は中学時代にすでに経験していたことが分かりました。つまり、生徒たちにとっては、中学までと比較して、総括評価するだけの高校の学習の方が奇異に映っていたのではないかと考えられました。

4.おわりに

図4 ふたば未来学園の地域との交流スペース 複数の教員が研究授業を通して研究テーマに取り組むことで、互いの価値観を共有し、自分自身の内省につながりました。加えて、授業者のみの視点からは捉えることのできなかった事柄を、事前検討や実際の授業を通して獲得したことは貴重な経験になりました。
 こうして、5回の連載を通して自身の4年に及ぶ実践を振り返ると、条件を満たす一つだけの解は存在しないながらも、それを求める過程を丁寧に紡いでいくことが重要なことにあらためて気が付きました。連載を通して述べてきたように、教員相互の対話は勿論ですが、「対話が答えで良いのか?」と、常に前提から問い直すことも大切だと思いました。

(※鈴木貴人先生の原稿を、三浦が本連載に合わせて編集しています。)