学び!とPBL

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もりたSDGsプロジェクト(中学校でPBL⑥)
2024.03.25
学び!とPBL <Vol.72>
もりたSDGsプロジェクト(中学校でPBL⑥)
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

 中学校における探究活動の実践を、前回に引き続き、福井市森田中学校(以下、森田中学校)の木下慶之先生の取り組みを通して見ていきましょう。今回は、2022年度に木下先生が学年主任を務めた第2学年が取り組んだ、公⺠館と共同プロジェクト「もりたSDGsプロジェクト」の実践です。

1.「SDGsとwell-being」に取り組む

 2022年3⽉に「森⽥推し隊プロジェクト」の⽣徒たちが卒業し、赴任4年⽬となる4⽉からは再び第2学年の学年主任を務めることになりました。
 この学年では、昨年度から公⺠館と共同プロジェクトとして「もりたSDGsプロジェクト」に総合的な学習の時間を中⼼に取り組んでいました。
 4⽉最初の学年会では、学年メンバーに昨年度の取り組みについて説明してもらう時間を設け、今年度はどのような実践をデザインしていこうかみんなで構想を練り合いました。本校では5⽉に校外学習が計画されており、早速4⽉最初の職員会議で計画書を出さなければなりませんが、そう簡単に年間の計画が⽴てられるものではありません。「そもそも何のための校外学習なのか。」「もりたSDGsプロジェクトをどう展開していきたいのか。」「⽣徒たちの様⼦や思いは?」最初の学年会は波乱のミーティングでした。
 そんなとき最年少担任の先生は「福井県SDGsパートナー企業リストの企業を訪問してはどうか」と提案しました。さらに、議論を重ねる中で県内にある4つの⼤学を訪問し、「そもそも探究とは何か」を学びに⾏こうというアイデアも⽣まれました。
 早速、福井県⽴⼤学や福井⼤学などの研究室を教員チームで訪問し相談に⾏きました。その中で「well-beingの⾒⽅や考え⽅」を学びました。そして、「SDGsとwell-being」を今年度の教育実践のキーワードにしていこうとなっていきました。
5⽉校外学習のしおり 新学期が始まり、⽣徒たちの実⾏委員が結成されました。⼤きな構想については教員から提案しますが、実際の内容は⽣徒たちと⼀緒に考えてつくっていきました。まず実⾏委員の⽣徒たちが⽴てた校外学習のテーマは、「MISSION CHANGE THE MORITA 〜深めよう愛郷⼼〜」でした。「1年⽣の頃は、世界や⾝近なSDGsを調べました。2年⽣では、さらに深く学ぶために⼤学や会社、⼯場などでヒントをもらい、この森⽥地区を変えようという気持ちでこのスローガンを⽴てました」という実⾏委員⻑の⽂がしおりに添えられました。
 校外学習当⽇を迎えました。前半は「探究」の仕⽅を学ぼうというテーマで⼤学訪問です。福井県⽴⼤学の⾼野翔准教授からは「well-being」、福井⼯業⼤学の坂崎貴彦教授、船越達也准教授からは「スポーツとまちづくり」、仁愛⼥⼦短期⼤学の澤崎敏⽂教授からは「国際的な視点からのまちづくり」、福井⼤学の⽊村優教授からは「well-beingとOECDの BLI(betterLifeindex)の視点」、同じく福井⼤学⼯学部の桃井良尚准教授、⻄本雅⼈講師からは「建築からみたwell-being」などを、講義やワークショップを通して⽣徒たちは学びました。研究者の取り組みや視点を学び、新しい発想や考え⽅に気づく機会になりました。⽣徒からは「⼤学に初めて来た。大学に行くことを考えてみようかなあ。」というつぶやきも聞こえてきました。

⼤学訪問ポスター福井⼤学でのOECD BLI ワークショップ

SDGsパートナー企業訪問 そして、その後は各グループに分かれて公共交通機関を使って県内のSDGs企業を訪問しました。どの企業もあたたかく迎えてくださり、地球環境や地域活性化や貢献活動について各企業の取り組みを教えてくださいました。
 学校へ戻り、それらをCANVAにまとめて、学んだことを学年内でプレゼンテーションし合い共有していきました。さらに、9⽉の学校祭における⽂化祭で学校全体や保護者に発信していこうと企画されていきました。

2.⽂化祭でまちづくりワークショップ

 ただ調べたことを発表するのではなく、参加者に何か体験してほしいという実⾏委員の声が出てきました。各教室で「SDGsの視点からまちづくりについて考える」体験型のワークショップを開催することになりました。
 実⾏委員たちがみんなにとったアンケートや学級での話し合いの内容をもとに、5つのテーマが設定されました。
⽂化祭での教室デザインワークショップ はじめのチームは「新しい学校づくり」です。森⽥中学校は令和8年度から九頭⻯中学校という新しい学校に変わります。新校舎建築に携わる⽊下設計の⽅々とのコラボレーションで、「新しい教室」を参加者とデザインするワークショップを企画しました。
 別のチームは「障害者スポーツでまちづくり」、さらに別のチームは「⽜乳パックでSDGsかるたづくり」に取り組んでいきました。当⽇は1年⽣や3年⽣、保護者の⽅に体験を通して、SDGsやwell-beingの視点からまちづくりについて考えてもらう場をつくることができました。
 その後の10⽉に⾏った職場体験では、校区の森⽥⼩学校で⽣徒たちはリトルティーチャーとして、「SDGsについて」の授業を⾏いました。中には将来教員を⽬指している⽣徒もおり、指導案やワークシート、スライドなどを作成し、児童が楽しく参加できる45分間の授業を成功させました。学習活動の中には⽂化祭で作成した「⽜乳パックSDGsかるた」も活⽤されました。

3.福井ふるさとの学び特別賞の受賞

 その後3年⽣への進級を控えた⽣徒たちは、「⽴志のつどい(⽴志式)」を2⽉に実施する準備に⼊っていきました。早速実⾏委員が結成されました。今回は「学年の歌」をつくってみようという案が提案されました。⾃分たちで0から歌詞をつくり合唱曲を校内で発表しようというものです。⾳楽科の先生や地元の作曲家⾕⼝薫さんの⽀援をいただきながら、3ヶ⽉かけて作成していきました。これまでの探究での学びや仲間との⽣活を振り返り、未来に向けたオリジナルの学年の歌「陽のさす未来(あした)へ」が完成しました。この合唱曲は福井市の連合⾳楽会でも発表し、他校の⽣徒にも⾃分たちの学びを発信する経験にもなりました。

YouTube動画 福井市連合⾳楽会
福井市森⽥中学校「陽のさす未来へ」
https://youtu.be/0VBsVGfJ00s

マイプロジェクト啓発録の発表 ⽴志のつどいでは、学年訓「尊敬される⼈になる」が発表され、またこれまでの「もりた SDGsプロジェクト」の実践報告が⾏われました。その後は各教室に分散して、もりた未来フォーラムが開催されました。⽣徒⼀⼈⼀⼈が⽴てた⽬標や展望を「マイプロジェクト啓発録」にまとめ、ラウンドテーブル形式で少⼈数グループの中で語り合い、読み合いました。
 この活動には、「森⽥推し隊」学年でもお世話になった⼀般社団法⼈BEAUの⽥川裕⼤さんがアドバイザーとして実⾏委員の活動をサポートしてくださいました。⽣徒たちはファシリテーションや聴き合うこと、対話することの⼤切さを学んでいきました。また、当⽇は各グループに1⼈ずつ地域の⼤⼈の⽅や学⽣の⽅々が⼊ってくださり、⽣徒たちの活動をあたたかく⾒守り、アドバイスしてくださいました。
 このような活動をもっと発信しようと、野球部の⽣徒たちが「ふるさとCMコンテスト」に応募しました。公⺠館とのもりたSDGsプロジェクトの活動を中⼼にしたCM「ホームラブ」を作成しました。

Youtube動画
福井市森⽥中学校「ホームラブ」
https://youtu.be/1mBJK67GZmw

 2年間の地域と連携した活動が認められ、令和4年度福井県「ふるさとの学び特別賞」を受賞することになりました。
 また、2⽉に開催された福井⼤学での福井ラウンドテーブルの⽣徒ポスターセッションにも⽣徒たちは参加し、エジプトから来⽇している研修⽣の⽅々にパンフレットを使って活動を紹介していました。

ふるさとの学び特別賞 表彰式福井ラウンドテーブルでのポスター発表
https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/gimu/furusato-tokubetushou/furusato-tokubetushou_d/fil/morita-chu.pdf

 公⺠館と⼀緒に今年度の活動を冊⼦にまとめて森⽥地区全⼾に配布し、SDGsの啓発や「もりたSDGsプロジェクト」の探究のストーリーを発信していきました。活動誌を作成することを通して、⾃分たちの学びを省察し、これからの実践の展望を⾒出すことができました。これは⽣徒たちだけでなく、教員、保護者にとっても成⻑や学びを実感するものになっていきました。

もりたSDGs通信