学び!とPBL
学び!とPBL

今月から三浦浩喜先生から引き継ぎ、本連載を担当する福島大学の千葉と申します。これからは、私が所属する福島大学「地域×データ」実践教育推進室(*1)のメンバーと分担しながら、三浦先生からスタートした「みんなでやってみる」をコンセプトに、教育実践や研究活動について投稿をしていきたいと思います。
災害被災地と探究的な学び
本連載でも度々取り上げられてきたOECD東北スクールや能登スクールなど、被災地における教育復興の取り組みは重要な役割を果たしてきました。2011年3月に発生した東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故の被災地である福島県では、全町村が長期避難を経験した双葉郡において、2014年から独自の探究的な学び「ふるさと創造学」が始まりました(*2)。
「震災で子どもたちが得た経験を、生きる力に」の思いから郡内すべての公立学校で取り組まれ、多くの挑戦的な探究学習が生まれてきました。模擬会社を設立して商品開発から販売、決算報告までを行う実践や、子どもたちがプロの映像作家と共にドキュメンタリー映画を制作する実践など、八町村八通りの探究学習に取り組んでいます。
「ふるさと創造学」の設置から11年
被災地に限らず私たちが生きるVUCA社会では、探究学習への注目が高まっていることは教育に携わる多くの方々が実感していると思います。また、全国各地で、「○○学」や「○○探究」などの地域独自のネーミングの探究学習が設置されていることも度々耳にします。これからさらに探究学習の盛り上がりが期待できる中で、設置から11年経った「ふるさと創造学」に取り組む福島県の先生たちが直面している課題を少し紹介したいと思います。
課題の設定が課題
双葉郡の学校現場を訪れると、「ふるさと創造学」の課題設定が難しいという声をよく聞きます。震災と原発事故から14年、「ふるさと創造学」の開始から11年、学校現場には震災後に入職した先生たちが増えると同時に、当時を知っている先生たちは異動や退職で少なくなっている状況にあります。そんな中で、探究学習の肝とも言える課題をどのように捉えるかに悩む先生たちが多いのも理解ができます。そんな先生たちによく言うのは、課題設定はそんなに大それたものではなく、「身近な生活から考えてはよいのでは?」という投げかけです。
あなたにとってその課題は身近ですか?
今年2月に「ふるさと創造学」に取り組む双葉郡の先生たちに向けて研修をする機会がありました。その時にテーマとしたのが、「生活者視点で課題設定を考える」でした。探究学習に取り組むときに、先生たちが課題設定を行うことも少なくありませんが、これが悪いと言っているのではなく、その課題が取り組む子どもたちにとって身近であるのかという視点が重要だということです。今回の研修ではまず、個人が日常生活の中で体験した不満や不安をヒントに課題設定をする練習をしました。その上で、個人での不満や不安は、もう少し人が増えた集団や地域の枠組みではどのように捉えられるのかを考えてもらいました。そして最後にはさらに大きな枠組み、社会や国境を越えた国際社会ではどう捉えられるのかについてもグループ内で議論をしてもらいました。ローカルで起きていることを、グローバルで考える、またはその逆も含めて、そんな思考に慣れていくと子どもたちが通学路で体感したことから課題設定のヒントが得られるかもしれません。そしてそれは子どもたちの等身大の生活者の視点としての課題であり、自分事としての探究のスタートラインに立つことにつながるのだと考えています。
次回は、「ふるさと創造学」の実践が他地域の課題解決につながる可能性について取り上げたいと思います。
*1:福島大学「地域×データ」実践教育推進室
https://region-data.net.fukushima-u.ac.jp/
*2:福島県双葉郡教育復興ビジョン推進協議会「ふるさと創造学」
https://futaba-educ.net/activity/souzougaku/