学び!とPBL

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校舎の記憶と記録を生徒が紡ぐアーカイ部の取り組み①
2025.12.22
学び!とPBL <Vol.93>
校舎の記憶と記録を生徒が紡ぐアーカイ部の取り組み①
千葉 偉才也(ちば・いざや)

 もうすぐ東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故の発生から15年を迎えようとしています。原子力災害によって避難を強いられた自治体が避難先に設置をした仮設校舎は、避難指示解除と帰還政策に伴い、双葉町を除いてすべて閉所をしました。これまでの連載でも久保田彩乃先生が富岡町の仮設校舎での教育実践について取り上げましたが、避難先においても様々な取り組みが行われていたことは、実はあまり知られていません。そこで、今号と次号で仮設校舎での少し変わった実践について紹介をしたいと思います。

大熊中学校仮設校舎

 福島県大熊町は原発事故により、約100キロ離れた会津若松市に役場機能を移転し、住民も集団避難を行いました。避難によって休校となった小中学校は、会津若松市内の廃校舎を借用し、新年度から教育活動を再開し、限られた資源と制限のある中で避難先での学校生活がスタートしました。避難から2年後の2013年4月には、大熊中学校仮設校舎が完成し、中学校は仮設校舎に移転をしました。プレハブ造りの大熊中仮設は、それから7年間使用され、2021年3月に閉所を迎えました。

プレハブ造りの大熊中学校仮設校舎(会津若松市一箕町)

仮設校舎のアーカイブを残す特設部活動「アーカイ部」

 既に年度末での仮設校舎の閉所が決定していた2020年度、大熊中学校では特設部活動「アーカイ部」を立ち上げ、在校生3名が携わりながら仮設校舎の記録を残すことに取り組みました。たとえ行政が一時的な学びの場として設置した「仮」の校舎であったとしても、そこに入学して卒業していった多くの生徒たちにとっては大切な場であり、母校であることには変わりありません。そうした先輩たちや最後の在校生である自分たちの想いや見てきた景色を記録に残していくために、様々な活動を企画して実行していきました。

アーカイ部のメンバー

自分事になるテーマ設定や動機付けの大切さ

 探究的な学びの実践では、「これは何のためにやるの?」という児童・生徒の素朴な質問に、先生たちが上手く答えられない場面を目撃することがあります。一方で、アーカイ部については、自分たちの学び舎がなくなるという現実を突きつけられ、自分事として受け止めていました。この活動は授業外の放課後の部活動という建付けですが、「自分事」として捉えることができるテーマの設定は、探究学習においては必要性の高い仕掛けだと思います。

インスタントカメラで撮影する生徒たち

 アーカイ部では、部活動の趣旨の理解を丁寧に行った上で、「どんな形で記録を残すのか?」という問いかけを行い、生徒たちと取り組む内容を決めていきました。まず手始めに取り組んだのは、生徒たちが好きな場所を写真で切り取って説明を試みる活動でした。生徒一人ひとりにインスタントカメラを渡し、それぞれが校舎内で好きな場所を撮影し、その写真にキャプション(説明文)を記載してポスターの形で掲示するというものでした。その場や瞬間の何が好きで、どんなエピソードや思い出があるのか。生徒それぞれがどのような目線で学校生活を送り、何を大切に感じているのかがとてもよくわかる取り組みとなりました。そうした一つひとつのエピソードが、仮設校舎が物理的な建物という側面だけではない、人の営みのある学び舎であることを紡ぎ出していたことがとても興味深かったです。授業ではないからこそできる自由度のある取り組みかもしれませんが、生徒たちが自分事として捉えられる動機やテーマ設定を工夫することで、想いを載せた探究が自走していくのだと思います。

生徒作成のポスター

管理職や教員も撮影とポスター作成に参加