学び!と社会

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授業にお役立ち!⑤ まとめ活動が好きになる!表現物を工夫した授業~要素表現物編~
2023.01.30
学び!と社会 <Vol.14>
授業にお役立ち!⑤ まとめ活動が好きになる!表現物を工夫した授業~要素表現物編~
日本体育大学教授 田口紘子

(1)基本の要素表現物から総合表現物へステップアップ

筆者 前回は社会科で多用されるまとめ活動の表現物を下の2つに大別しました。

  • 要素表現物:単独でも単元内容などを網羅するような表現物となるが、レポートや新聞といった総合表現物を構成する要素にもなる表現物。
    例)地図、年表、図表など
  • 総合表現物:文章といくつかの要素表現物で構成される総合的な表現物。
    例)レポート、新聞、Webページなど

 要素表現物は総合表現物の一角を効果的に彩る基本的な表現物にもなるため、児童がさまざまな要素表現物の作成に慣れてから、総合表現物へステップアップできるとよさそうだと前回お伝えしました。そこで今回は表現物の基本となる社会科の要素表現物を取り上げたいと思います。要素表現物を4つのタイプに分類し、それぞれを児童に作成させる際の留意点などについて考えていきましょう。

(2)社会科の要素表現物のタイプ

 2003年の論考となりますが、社会科教育学研究者・𠮷川幸男先生は知識を引き出すための単なる「媒体」とみなされがちな活字メディアの「教育」的作用に着目し、読者による主体的な社会の探究について考察されています。そのなかで活字メディアの4つの言語表現型を示されており、今回はそれを参考に画像(図や写真など)や動画など活字メディア以外の表現メディアを含めて要素表現物のタイプとして整理してみたいと思います。
 下の図は𠮷川先生が示された「意味の固定度」の横軸と「指示範囲」の縦軸を用い、A~Dの4つのタイプを作り、代表的な要素表現物を例示したものです。事例にしたのは「畑ではたらく人びとの仕事」(『小学社会3年』日本文教出版、2020年)の単元です。

Aタイプ:意味固定的で個別言及的な要素表現物
 「○○年の姫路市のれんこん出荷量は○○トン」のような、確定的な(意味固定的)、個々の事実(個別言及的)は、社会科学習の基本となる表現です。このような事実だけを羅列するような表現物を作成するまとめ活動は想定しにくいですが、Bタイプの例「姫路市のれんこん農家・高田さんのれんこん作り物語」やCタイプの例「姫路市でれんこん作りが盛んな理由」を書く場合などでも前提となってくる表現であり、下の他のタイプの表現型の説明でも登場してくる表現タイプになります。

Bタイプ:意味流動的で個別言及的な要素表現物
 「姫路市のれんこん農家・高田さんのれんこん作り物語」のような表現物は、高田さんから一緒に聞き取りをした児童でも情報の取捨選択などが異なり(意味流動的)、高田さんという個人に注目した(個別言及的)表現物になります。日常や生活科でも親しんでいる物語のような表現は児童が取り組みやすい表現タイプと言えるでしょう。
 児童の創意工夫によってクラスで多様な表現物が共有できる良さがありますが、単元のまとめ活動として押さえておいてほしい事実がある場合には「物語に含めるキーワード」(例えば「土づくり」や「かんたく地」などAタイプに該当する表現)としてあらかじめ設定するなど、先生もさまざまな工夫ができそうです。

Cタイプ:意味固定的で全体包括的な要素表現物
 「姫路市でれんこん作りが盛んな理由」は、土地条件や歴史的経緯といった概念的な観点から(全体包括的)、分析的、論理的(意味固定的)に説明する表現物になります。文章による表現だけでなく、「れんこん畑の多い大津区」と「水田の多い○○(地名)」を縦の列、「土地のようす」や「昔のようす」などの分析観点を横の行にした表を作成して「ちがい」などを分析する表現物もCタイプに分類できます。社会科のまとめ活動で多用される表現タイプとなりますが、大きくとらえると表現の多様性は出にくく、児童は正解のある表現活動だと受け止めがちです。また表現する際に必要となる概念的な分析的観点は、学習指導要領の「社会的事象の見方・考え方」とも重なるので、授業やまとめ活動のなかで強調し、最終的には児童が自在に使っていけるよう訓練できると良いと思います。

Dタイプ:意味流動的で全体包括的な要素表現物
 「姫路市のれんこんをPRするためのキャッチコピーやシンボル」では、姫路市のれんこん作りのようすや特徴から(全体包括的)、児童それぞれが象徴的な印象など(意味流動的)を表現します。「サクサク!やわらか!姫路れんこん」とキーワードで表現したり、絵にしたりとクラスで多様な表現を楽しむことができますが、その表現の根拠となる事実(やわらかなれんこんにするための土づくりなど、Aタイプに該当する表現)と共に児童が発表できると良いでしょう。

(3)要素表現物それぞれの弱みを補完する総合表現物へ

 上で見たように、A~Dタイプの要素表現物のそれぞれに良さと弱みがありますが、組み合わせて表現することで弱みを補完するまとめ活動になります。特に社会科ではCタイプの表現物でまとめさせることが多くなってしまうので、他のタイプの表現物と組み合わせ、それぞれの児童の思いや考えを自由に、多様に表現する場を保障しておくことも社会科嫌いのリスクを減らすのに有効かもしれません。また児童それぞれがまとめたい内容や自分の強みを考慮して表現タイプを選択していく機会も大切になってきます。
 いよいよ次回最終回はさまざまなタイプの要素表現物を組み合わせた総合表現物について考えていきましょう。

【参考文献】

  • 𠮷川幸男(2003)「活字メディアにおける社会認識教育」社会認識教育学会編『社会科教育のニュー・パースペクティブ』明治図書出版, pp.286-295.