学び!と社会

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授業にお役立ち!⑨ ESDとしてのエネルギー授業(3)
2023.05.30
学び!と社会 <Vol.18>
授業にお役立ち!⑨ ESDとしてのエネルギー授業(3)
広島修道大学教授 永田成文

(1)エネルギーの観点からESDとしての社会科授業を考える

著者 白神山地(湧き水の前で)2022年10月 前回は、2017年の小学校社会科の学習指導要領において、エネルギーとの関わりが明確に示されている第4学年の電気の安定供給を考える授業と、エネルギーとの関わりが明確に示されていないが作業過程でエネルギーの必要性が明白な第5学年の自動車製造のあり方について考える授業を紹介した。直接エネルギーとは関わらない他の内容においても、エネルギーの観点を導入することで、取り上げる社会的事象の理解が深まったり、持続可能性の概念から問題の解決に向けて考察・構想したりすることが可能である。
 例えば、人々の生活の様子が変化したことを道具の変化から考察するようになっている第3学年の内容(4)「市の様子の移り変わり」では、電化製品の登場に着目することで、エネルギーの活用により人々の生活が便利で豊かになったことを捉えることができる。また、第5学年の内容(5)「我が国の自然環境と国民生活との関連」では、自然災害時に電源確保が必要になること、第6学年の内容(1)「我が国の政治の働き」では、国や地方公共団体の未来を見据えたエネルギー政策のあり方を考察・構想できる。第6学年の内容(2)「我が国の歴史上の主な事象」では、各時代の生活や産業で使用されたエネルギーの変化に着目することで、各時代において持続可能な社会づくりがなされてきたことを考察し、時代による変化を踏まえて未来の生活のあり方を構想できる。
 今回は、小学校社会科の各内容で取り上げる社会問題について、その解決策としてエネルギーを活用していくようなエネルギーの観点を導入したESDとしての社会科授業を紹介したい(*1)

(2)エネルギーから食料生産の持続可能性を考える授業(第5学年)

 食料生産では、地理的条件を生かした農家の人々の生産を高める工夫や努力とともに、生産に必要なエネルギーの活用の工夫や努力を取り上げることができる。第5学年の単元「米作りを支えるエネルギー」(全13時間)は、米作りにおいて、生産から輸送、販売、消費に至るまで、電気エネルギーや原油などのエネルギー資源が必要となることに着目して、三重・社会科エネルギー教育研究会のメンバーである萩原浩司先生が、2017年に四日市市立泊山小学校で実施した。
 食料生産の社会問題として米の消費量の減少を取り上げ、1人当たりの米の年間消費量(約50㎏)分を生産するためには、約17.5Lの原油が必要となる事実を基に、食料生産を持続可能にしていく方策を考察・構想する。その際に、【存在】【有用】【供給】【安定】【持続】というエネルギーの5つの視点に付け加えて、【有限】と【希少】の概念に着目している。前者は、エネルギー資源は限られており、エネルギーの効率的な活用は食料生産を持続可能にすること、後者は、エネルギーは様々な産業で活用されており、食料生産においては一定の制限が加わることを意味している。

米の旅(2017年に授業で使用)

 第1~6時では、一般的な米作りの学習と同様に、米作りのさかんな地域などについて調べた。次に、エネルギーの観点から、生産から消費の過程におけるエネルギーの活用を“米の旅”(*2)としてイメージさせた(資料参照)。第7~8時では、近年の「米の消費量の減少」とともに、「米作りが重労働」であるという社会問題を解決するための様々な工夫について調べ、米作りには今後さらにエネルギーが必要になることを捉えた。第9~10時では、美味しい米作りや米の生産量を増やすために【有限】で【希少】なエネルギーを余分に使用する農家の工夫や努力の有効性を判断した。第11~13時では、持続可能になる米作りや、【有限】で【希少】なエネルギーの農業への効率的な活用について判断した。
 本実践は、実際に米作りに従事している農家を取り上げ、米作りの問題を解決するために、持続可能性からエネルギーの効率的な活用を判断するESDとしての社会科授業となっている。

(3)エネルギーから地域経済の活性化を考える授業(第6学年)

 2017年の学習指導要領では、政治学習は、小学校第6学年の最初の大項目に位置づけられた。「国や地方公共団体の政治」では、地域の開発ばかりでなく地域の活性化の側面も強調されるようになった。第6学年の単元「エネルギーの地産地消で目指す地域の活性化」(全8時間)は、地域社会を持続可能にするために、人口減少時代において地域にある資源を最大限に活用して地域経済を活性化させることを意図して、萩原浩司先生が、2019年に四日市市立泊山小学校で実施した。
 本実践では、地域経済を活性化させ、地域社会を持続可能にするための考え方として、電気エネルギーの地産地消に着目する。電気エネルギーの地産地消の考え方に、どの地域にも存在する自然エネルギーを可能な範囲で地域のために最大限活用するというエイミー(EIMY: Energy In My Yard)という概念をあてはめて、現存の電気供給システムを否定せずに、地域の自然エネルギーを可能な限り地域経済の活性化のために活用することについて考察・構想していく。第1~2時では、地域の少子高齢化に関わる人手不足や不景気などの問題を解決するために、電気エネルギーの活用が一役買うことに気づく。第3~4時では、地域経済の活性化のためにEIMY概念を踏まえて地域で安い電気を安定して産み出す方法である電気エネルギーの地産地消の必要性に気づく。第5~6時では、小水力発電による自分たちが住む地域における電気エネルギーの地産地消の有効性を判断する。第7~8時で他地域においても小水力発電による電気エネルギーの地産地消によって、地域経済が活性化して持続可能な社会が実現するのかを判断する。
 本実践は、少子高齢化という地域の状況から問題意識をもち、地域の活性化の側面からエネルギーの地産地消に関わる問いを生み出し、それを主体的に解決していく展開となっている。ESDの究極目標である学習者の行動の変革を促すことが期待でき、将来の政治参画にもつながっていく。また、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」に関わり、自分の地域を具体的に創造するような政治学習といえる。人口減少社会において、地域社会を持続可能にしていくために、国や地方公共団体における地域経済の活性化策として、エネルギーの地産地消の有効性を判断するESDとしての社会科授業となっている。
 直接エネルギーとは関わらない社会科の内容において、エネルギーの観点を導入することによりESDとしての社会科授業となる実践を紹介した。読者の積極的な授業開発に期待したい。

連載してきました「授業にお役立ち!」は、今回で終了となります。次回の連載もお楽しみに!

*1:永田成文編(2022)『エネルギーの観点を導入したESDとしての社会科教育の授業づくり』三重大学出版会、pp.59-70・91-10を参照されたい。
*2:永田成文・山根栄次編(2017)『持続可能な社会を考えるエネルギーの授業づくり』三重大学出版会、p.30の前回紹介した“電気の旅”をヒントに生産から消費の過程を“米の旅”としてイメージさせている。