学び!と社会

学び!と社会

小学校社会科×小学校図画工作科コラボ企画 ~横浜を歩く~
2023.12.11
学び!と社会 <Vol.19>
小学校社会科×小学校図画工作科コラボ企画 ~横浜を歩く~
神奈川県秦野市立本町小学校 総括教諭 笠谷直人

コラボ企画に参加

 群馬大学の市川寛也先生率いる小図の「そぞろみ部」の活動。「そぞろみ」とは、まちのなかで出会った風景や建物、オブジェなどについて、「これは何だろう。」「〇〇に見える(似ている)。」「デザインや色づかいが面白い。」など、それぞれ思ったことや考えたことを対話しながら歩くこと。想像力を働かせながら、対話しながら対象を見ていくことで、互いの感性が研ぎ澄まされていくこの活動は、小学校図工で大切にしている「造形的な見方や考え方」につながる魅力あふれる活動だ。
 そのような「そぞろみ部」の活動に同行させていただくことになった今回の企画。テーマは、図工と社会科の「見方や考え方」にどのような共通点や相違点があるのか、小学校社会科の視点でまちを「そぞろみる」のならば、どのような事象に着目するのか……という具合である。
 先にも述べたように、「そぞろみ部」の活動に魅力を感じた私は、当日をとても楽しみにしていた。テーマ検証が興味深かったことも理由の一つだが、「みなとまち横浜」が今回の「そぞろみ」の舞台だったことももう一つの理由だ。以前、5年間ほど、横浜に勤めていたこともあり、勝手ながらもこの企画にご縁を感じていた。

図工と社会科の共通点や相違点とは…実際に歩いてみると

 とはいえ、「そぞろみ部」の活動は初めて。改めて考えてみると、社会科として「そぞろみて歩く」という活動は、3年生の地域学習「まちたんけん」に近いものを感じる。子どもたちがフィールドワークに出かけ、そのなかで不思議に思った事象(モノ・コト・ヒト)をあれこれ発見していく。子どもの疑問一つひとつが追究テーマにダイレクトに発展できる魅力ある学習である。私がファーストインプレッションで「そぞろみ部」に興味を持った所以は、この「フィールドワーク」という共通点だったのかもしれない。
 そんなことを考えながら、舞台の横浜へ。みなとみらい線「馬車道駅」で下車。そこから、市川先生と合流し、一同、「海」をめざしてゆっくり歩きはじめる。
 私の目に真っ先に入ってきたのは、県庁などをはじめとしたレンガ造りの建物。横浜開港当時の歴史を感じることができるこれらの建物は、港まち横浜の象徴と言えるものだろう。また、街灯には当時のガス灯を彷彿させるデザインが施され、街全体の景観が統一されている感じがした。ところが、そのころ、市川先生は、「これは何でしょうね。」と言いながら、建物の壁から突き出た「小さな輪」に着目。それから、交差点にあるボラード(車止め)の形やデザインについて「どうしてこんな形なのか。」と考え始める。さらには、ビルの壁面に規則的に並ぶエアコンの室外機にも目を向ける……。歩き始めてまだ5分。早くも「そぞろみ」に対する図工と社会科の向き合い方の違いを目の当たりにし、衝撃を受けることに。
 しかし、考えてみれば至極当然。社会的事象の見方・考え方と造形的な見方・考え方はそれぞれ違うからだ。社会科は、目の前にある事実をもとに歴史や事象の相互関係について、比較や関連づけをおこなうことを主とする。それに対し、造形的な見方・考え方は、色や形について感性や想像力を働かせることが念頭にあるからだ。図工の面白さの中心ともいえる部分なのではないか。市川先生の発見から、教科特有の違いに気づかせていただいたと同時に、先生のような柔軟な見方をしてみたいと痛切に感じた時間だった。

【社会科】社会的事象の見方・考え方
社会的事象を、位置や空間的な広がり、時期や時間の経過、事象や人々の相互関係などに着目して捉え、比較・分類したり総合したり、地域の人々や国民の生活と関連付けたりすること

(引用「小学校学習指導要領(平成29年告示)
解説 社会編」より)

【図画工作】造形的な見方・考え方
感性や想像力を働かせ、対象や事象を、形や色などの造形的な視点で捉え、自分のイメージをもちながら意味や価値をつくりだすこと

(引用「小学校学習指導要領(平成29年告示)
解説 図画工作編」より)

「そぞろみ」でまちが見えてくる

 しばらく歩いていくと、海ぞいから離れた街頭に船を留める「係船柱」を発見。市川先生は、その形や素材の違いに興味を感じたようだった。先生とお話をしているうちに、「どうして、まちのなかに船を留めておくものがあるのだろうか。」という疑問が浮かぶ。しかも、海に近づくにつれ、その「係船柱」の素材や形は近代的で新しいもの変化していく……。ここで、ようやく気がつく。古い「係船柱」があったところが、昔(おそらく明治時代)の横浜の港があった場所(沿岸)であり、そこから次第に沿岸部を拡張しているということである。何気なく目に留めたものが横浜の沿岸部の歴史を知る手がかりになるとは……。貴重な史跡との出会いとなった。

 さらに、目的地の海へどんどん足を進めていくと、出発した馬車道の街並みとは異なった新しい建物が増えてきた。この様子からも、港湾拡張をしてきた横浜の歴史とまちの特徴を知ることができた。

気になった「ヒト・モノ・コト」

大都市横浜ならではの歩道橋「サークルウォーク」
 交差点の眼下に円を描くようにして歩くことができる歩道橋。歩行者は歩道橋を歩くことで、危険な道路横断を避けることができ、また、自動車の渋滞解消にもつながる。市民・観光客と交通量のお互いの利便性を考えた横浜のまちづくりの特徴が見えてくる。6年生の政治学習で活用できるか……。

JICA横浜の1階にある世界の時刻
 国際都市横浜を代表する施設。この写真では確認しづらいが、「イギリス」「日本」「サンフランシスコ」「ブラジル」の時刻が表示されている。これを見ると、日本とブラジルの時差がちょうど12時間だということがわかる。5年生の学習に活用できそうだ……。

 すがすがしい海風を感じ、折り返しとなる赤レンガ倉庫前で見つけたのは、旧税関の跡地を利用したガーデンだった。旧税関は、関東大震災の火災で焼失したものだったが、その跡地を活用しているのがとても珍しく感じた。先の「係船柱」にも共通して言えることだが、古いものを排除するのではなく、それらを活用しながら新しいものと融合していく、互いに共存を図ろうとする横浜のまちづくりのイズムを垣間見ることができた気がした。

「横浜市風力発電所『ハマウィング』」
 ベイエリアから海を眺めると、真っ先に目に飛び込んでくる風力発電のプロペラ。この風力発電所は、2007(平成19)年に稼働。建設工事費の約5億円の半分以上は、一般の企業や市民による市場公募債で賄われ、事業運営費は、売電収益と「ハマウィングサポーター」と呼ばれる、風力発電事業に賛同する企業や市民の協賛金で運営されている。
 行政と企業、市民が協働して再生可能エネルギーの普及啓発を進めるこの取り組みは、横浜市政の新しいシンボル的な役割を担っているといえるだろう。

(横浜市環境創造局HPより一部引用)

新たな試み「連接バス『BAYSIDE BLUE』」
 横浜駅東口から山下埠頭までを結ぶ連接バス。横浜市交通局は、横浜ベイエリアの新たな交通の軸として2020(令和2)年から運航を開始。既存のみなとみらい地区の観光スポット周遊バス「あかいくつ号」と併せて、観光客の乗換利便性高めていくことをねらいとしている。横浜の空と海をイメージした青い車体は、“みなとまち横浜”らしい新たな風物詩となるだろうか……。
 常に進化する“みなとまち横浜”を感じた瞬間であった。

(横浜観光情報HPより一部引用)

「そぞろみ」を終えて

 以上のように、私が「そぞろみ歩き」をすると、出会ったものの背景を探ろうとする傾向があることが分かった。出会った「ヒト・モノ・コト」について、
「いつ(できたのか?/やってきたのか?/始まったのか)」
「だれが(つくったのか?/始めたのか?/考えたのか?)」
「どうして(何のために?/意図や効果は?/背景にどんな問題があるのか?)」
などについて、具体的な事実を突き止めたくなる。これは、図工の「造形的な見方・考え方」と違う面ではないだろうか。
 対話しながら、さまざまなまちの様子を知ることができる「そぞろみ歩き」。図工と社会科の見方や考え方の違いはあったが、学習をデザインする視点で考えると、子どもたちが「疑問」や「興味・関心」をもつことができる題材を見つけるという点においては、共通する部分がたくさんあった。「自分のまちをそぞろみると、どうなるかな。」と、新たな発見をしていきたいと強く思えた一日となった。

◆今回の「学び!と社会」は、初の試みとして「学び!と美術 」とコラボレーション企画をしています。社会科の見方と図工科の見方を比べて楽しんでください。
「学び!と美術 <Vol.136>」へはこちらから。

笠谷直人(かさや・なおと)
神奈川県秦野市立本町小学校 総括教諭 第6学年社会科担当
趣味:アウトドア、キャンプ、旅行など、浅く広く……