学び!と社会2

学び!と社会2

社会科は教材が命! ~二つのポケットをもつ先生~
2025.09.29
学び!と社会2 <Vol.02>
社会科は教材が命! ~二つのポケットをもつ先生~
安野 功(やすの・いさお)

 大学時代、初等科教育法社会の授業で、私が教師、学生が5年生という設定で模擬授業を行ってきた。
 “社会科は暗記科目ではない。子どもが主役の問題解決!そのはじめの一歩が『子どもの素朴な問い=「?」』を引き出すことである”
 この社会科授業観の転換と学生自身が素朴な問い=「?」を体感することがねらいである。
資料1 資料2  模擬授業ではまず「岐阜県の〇〇市」と板書。「ここで私が撮った写真です」と伝え、資料1を提示。そして「『おや!?』と思うものが見えたら立ちましょう」と指示する。
(全員が立ち上がるのを見て…)
「自分が『おや!?』と思ったことを隣りや周りの人と伝え合いましょう」そう指示するのである。
 列指名で発言を求め、「屋根の上にトラックが…!」と板書。学生の表情を確認した後、「でも本当は●●ではないか」と書き加え、「各自が推理したことをメモし、伝え合ってください」と指示。そして、資料2の写真で家の裏側に土手(道)があることを確認した上で「A:家や学校より高い所に土手(道)がある」「B:土手(道)より低い所に家や学校が建てられている」という見方を引き出し、「あなたはAと見ていますかBと見ていますか」と問いかけ、学生にゆさぶりをかけるのである。家が建つ土地の高さを普通の高さ(基準)と見た場合がA、土手(道)の高さを基準に見た場合がBであり、高い低いなど土地の高低を比較する際は、基準の高さが必要であることに気づかせることがこの学習活動のねらいである。
 このように「A or B」という土地の高さに対する素朴な問いを引き出した上で、「岐阜県海津市」と板書。学生たちはこの地名に着目し、地図帳の索引や教科書の表題を手がかりに資料を見つけ出し、ここが海抜0メートルの低地であることを突き止めていくのである。
資料3  実は、ここからがこの授業の勝負どころ。低地のくらしに対する素朴な問いを引き出し、地形に応じたくらしの知恵や汗に目を向けていく必要がある。
 そこで、海津市で撮影した資料3の写真を提示し、「●●(家の特徴・つくり)なのは■■(目的)のためではないか?」と板書。くらしと地形を関連づけた見方を引き出していく。
資料4  誰もが気づくのは「石垣の上に家を建てているのは洪水からくらしを守るためではないか」という低地特有の水屋に着目したくらしの知恵である。この意見を受け、教師がゆさぶりをかける。「だとすると、左の家は?」(学生の反応を伺いながら…)「時間の流れに着目すると、いい考えがうかぶかも」という見方・考え方を働かせて考えるヒントを与える。そして、右の家を建てたころは洪水の心配があったが、左の家を建てたころにはその心配がなくなったのではないかという考えを引き出すのである。
「でも、学校の屋上にはレスキューのマークのついたヘリポートがあったよ」(資料4)と再度ゆさぶりをかけると…。???
(紙幅の関係で、続きは次回)

 模擬授業を受けた学生の多くが、教材の魅力や教材を通して『素朴な問い=「?」』を引き出し、子どもが自分の頭で考え、他とともに考えを深め合う「子どもが主役の問題解決」のおもしろさに気づいていく。
 その一方で、こんな疑問を抱く学生も多い。
 “多忙を極める小学校の教師が、果たして、今日受けた模擬授業のようなオリジナル教材を準備することが可能なのか。自分には無理だろう!”
 教育ボランティアなどを通して小学校現場を垣間見ている学生ほど、上記のような感想や疑問をぶつけてくる。この現実的な疑問に対して、次のように答えている。
 “二つのポケットをもつ先生になろう”
 一つ目のポケットには明日の授業や次の単元など、目前に控えた授業の教材を見つけて入れておく。もう一つのポケットには、今は受けもっていないが、その学年になればやってみたいという単元開発のヒントになりそうな素材をしまっておく。そしてじっくりと温めておくのである。