学び!とシネマ

 もう40年以上前になるが、団体旅行で、スペインに出かけたことがある。その日は朝、マドリードのバラハス空港から飛行機で、マラガに向かう予定だった。ところが、イベリア航空がストライキで、ずっと空港で待機していたが、お昼になっても夕方になっても、飛行機が飛ばない。急遽、予定が変更になり、夜行列車で、グラナダに行くことになった。
 マラガは、風光明媚なところと聞いていたので、ややがっかりしたが、グラナダでも悪くはない。なにしろ、アルハンブラ宮殿のあるところだからだ。翌日、グラナダ郊外の、たぶん観光客相手と思われるが、小高い丘の上にある洞窟のようなスペースで、フラメンコを見た。これが、すさまじい迫力。音楽としてのフラメンコは好きなほうだったが、生の歌と踊りに接したのは初めて。若い人だけでなく、かなり年輩の人たちが、唄い、踊り、手拍子を打つ。すっかり、魅せられてしまった。
 このほど、グラナダのサクロモンテにあるフラメンコ・コミュニティのいまを描いたドキュメンタリー映画「サクロモンテの丘 ロマの洞窟フラメンコ」(アップリンク配給)を見た。迫力である。老若男女、いろんな人が、唄い、踊る。柔軟な体がしなやかに動き、美声とはいえないがこころのこもった歌を唄う。
 1963年に、フラメンコ界のスーパースター、カルメン・アマジャが亡くなる。同じころ、サクロモンテの丘を水害が襲う。かつて、西のほうから、この地に定住したロマたちは、住む場所を失ってしまう。
 映画では、ロマたちの迫害や、洞窟の崩壊といった歴史にさらされながらも、いまなお、フラメンコそのものを守り、継承している唄い手、踊り手、ギタリストたちが、多く登場する。その歌、その踊り、その演奏もさることながら、インタビューに答える言葉が、光り輝いている。「洞窟では常に音楽が響いていた」、「稼ぐため、自分を証明するために踊った」、「フラメンコは生きる糧だった」、「世界中がサクロモンテに注目した」…。冒頭、年輩の女性が、いささか下ネタを語るが、これとて、長く生きて、いまなお、フラメンコへの情熱を物語る証しだろう。
 幸い、日本は島国である。なんらかの理由で、長い距離の大陸を移動することもない民族だ。ひきかえ、グラナダのロマたちの歴史をひもとくと、定住するまでの苦闘の歴史が見えてくる。
 深く印象に残る歌唱がある。無伴奏である。
「グラナダ、聖なる地よ アルハンブラを頂きに その石畳踏む者は おまえの聖女に祈るだろう スペインいちのあの方に」。
 このような優れたドキュメンタリーを作ったのは、グラナダ生まれのチュス・グティエレスという女性。資金のないなか、何度も何度もサクロモンテに出かけ、撮影を続けた。
 歌、朗唱、踊り、ギター演奏と、いずれも情熱的、官能的である。このライブを行う場所をタブラオという。グラナダからマドリードに戻り、さっそくタブラオに出かけた。午前4時半まで、唄い、踊るようだ。
 日本には、フラメンコを愛好する人がけっこう多いと聞いている。「サクロモンテの丘 ロマの洞窟フラメンコ」をご覧になると、ますますフラメンコ人口が増えるのではないだろうか。

 

2017年2月18日(土)より、有楽町スバル座ico_linkアップリンク渋谷ico_linkほか全国順次公開

『サクロモンテの丘 ロマの洞窟フラメンコ』公式Webサイトico_link

監督:チュス・グティエレス
参加アーティスト:クーロ・アルバイシン、ラ・モナ、ライムンド・エレディア、ラ・ポロナ、マノレーテ、ペペ・アビチュエラ、マリキージャ、クキ、ハイメ・エル・パロン、フアン・アンドレス・マジャ、チョンチ・エレディア他多数
日本語字幕:林かんな/字幕監修:小松原庸子/現地取材協力:高橋英子
2014年/スペイン語/94分/カラー/ドキュメンタリー/16:9/ステレオ/原題:Sacromonte: los sabios de la tribu
提供:アップリンク、ピカフィルム
配給:アップリンク
宣伝:アップリンク、ピカフィルム
後援:スペイン大使館、セルバンテス文化センター東京、一般社団法人日本フラメンコ協会