教育情報

教育情報

地域と学校
2013.10.11
教育情報 <日文の教育情報 No.129>
地域と学校
兵庫教育大学大学院教授 日渡 円

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■ 学力の向上

 一昨年から文科省の委託で「運営組織と学力の相関関係に関する調査研究」を行っている。「学力向上を」という地域住民、保護者の声に対して学校は従来からの教師の教育技術の向上という手段を中心に対応してきたが、これに対して「学力向上」に組織力がどのように影響を与えているかということを調査研究したものである。調査の結果、学力の高い学校については以下のような結果が得られた。

①学力向上について、具体的な数値目標を設定し学校外に公開している。
②学力向上に関して地域の影響力を強く感じている。
③校長の双方向的かつ弾力的組織運営の意識が強く、その意識が教員に浸透、共有されている。

 また、校長を対象とした聞き取りから、学力の高い学校は次のような結果が得られた。

①客観的なデータにより児童・生徒の現状を把握している。
②具体的な目標設定を行っている。
③対話と共有によって組織で目標をつくり上げている。

■ 学校運営組織

 これらのことから、注目すべきことは、学校が組織で動いているということである。と同時に、校長はその組織運営の技術を獲得しなければならないということである。ややもすると、校長個人の教育方法を押しつけていないか。または、校長個人の思いをどの学校に赴いても目標としていないか。つまり、私たちは、学校の置かれている現状を把握する技術や方法の開発が遅れているのではないのだろうか。前回教育長の調査結果を書いた時と同じように(教育情報No.126参照)、その校長のタイプが重要ではなくて、その学校が置かれた状況が最も重要であって、その状況に対して、校長がどのような目標や方法を設定・実施するかが重要なのである。
 これには、現状を把握する技術の向上がまず最初であるが、現状把握の次は、校長のタイプ把握の技術が続く。そしてこのことをマッチさせる人事があることで終結する。これらのことを合わせて人事と言うが、現在の教職員の人事は「適材適所」という言葉は使うが、内容・技術が伴わないために、その学校の在職年数等を基準にせざるを得ないのである。人事技術の獲得も重要な課題である。

■ コミュニティ・スクール

 さて、この調査からもう一つ注目すべきことは、調査結果に「具体的な数値目標を設定し学校外に公開している。」、「地域の影響力を強く感じている。」とあるように、地域と学校の関係である。今年度、いわゆるコミュニティ・スクールは全国で1800校を超えているが、このコミュニティ・スクールの重要性である。学校と地域との関係を重視し、地域とともに学校をつくることが、結果的に子どもの「学力向上」をはじめとする子どもの能力を引き上げるより良い方法であるということである。
 問題は、コミュニティ・スクールを実施している多くの学校は、法律を適用し地域運営協議会を設置していることでコミュニティ・スクールであると思っていることである。一昨年度の研究の結果を基に昨年度からは、上記の学校と地域の関係の在り方に注目して、さらに調査研究を進めてきた。その結果、学校と地域の関係を5段階のスケールに分けられること、そして、それぞれの段階においてとるべき方法(処方)はどのようなものであるか、ということがみえてきた。
 研究内容を簡潔に記す。スケールとは、第1段階(学校と地域の関係が未成熟モデル)、第2段階(成熟進行モデルⅠ)、第3段階(成熟進行モデルⅡ)、第4段階(成熟モデル)、第5段階(発展モデル)の5段階である。このうち、第1段階から第3段階の途中までを、学校と地域が関係を形成する時期、第3段階途中から第5段階までを、学校と地域が共同運営する時期として、調査する学校と地域の関係がどの段階であるかを明らかにし、その学校ごとにどのようなことをするべきかの処方を行う研究である。
 この研究では、第4段階目をコミュニティ・スクールとしているが、残念ながら第4段階目にあるコミュニティ・スクールはわずかで、ほとんどが第1段階目から第3段階目であるということである。しっかりと地域とともに学校をつくっていかなければいけない。

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