教育情報

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子ども理解 (1)「友達関係の変化」
2013.11.11
教育情報 <日文の教育情報 No.130>
子ども理解 (1)「友達関係の変化」
大阪教育大学監事 野口 克海

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■「先生! 親友が分業しています。」

 秋になって、中学3年生が部活動を引退し、野球部も2年生が中心になった。
 放課後、「オーイ、部活に行こうー!」と声をかけながら、新しいチームでバッテリーを組むことになった2人は、いつも肩を組むようにしてグランドに急いだ。
 「この子らは、たまたまクラスも同じで、日頃からとても仲良しなんです。」
 中学校で数学を教えている先生が私にこんな話をしてくれた。
 「プリントを配って数学の問題を解きなさいと言って机間巡視をしていたんです。ピッチャーの子が、“分からん”と私の方を見るので、同じ班にいたキャッチャーの子に、“おい、分からんと言うてるぞ、なんとかしたれ、君ら親友やろ!” と言ったら、“ウン、野球の親友”と言うんです。勉強の親友は塾にいて、遊ぶ親友は家の近所におると言うんですよ。先生、この頃は親友が分業してますよ。」と教えてくれた。
 子どもと子どもの友達関係・つながり方が部分的、断片的なものになってきたのかなあ、全人格的、運命共同体のような親友という関係も残っていて欲しいなあと数学の先生はつぶやいていた。

■一緒に遊んでるやん

 少し前の話だが、私の一人娘が小学校の6年生の時、こんなことがあった。
 「お母さん、今度の土曜日、お友達が3人遊びに来るよ!」
 「はいはい、おやつ買っとくね。」
 土曜日の午後、私が帰宅すると玄関にクツがいっぱいあった。
 「あー、もうお友達が来てるんだ」と奥へ行くと、子ども部屋におやつを持って行ったお母さんが出てきて、「チョットお父さん、あの部屋のぞいておいで!」と言う。
 私も子ども部屋をのぞいて、「なるほど、お母さんが驚くはずだ」と思った。
 娘は入口のそばで、下を向いてマンガの本を読んでいた。一人はピィッピィッと音のでるゲームをしていた。一人はテレビを見ていた。皆、一人ずつ別々に遊んでいるではないか。
 「せっかくお友達が、たくさん来てくれているんだから、一緒に遊べば?」と私が言うと、娘が顔をあげて、「一緒に遊んでるやん!」と言う。
 「いや、一緒に遊んでへん。一人ずつ別々に遊んでる。4人で一緒にトランプでもすれば?」と言ったら、「楽しいよ」と言われて、「アー、ソー」と引きさがった。
 10年余り前の話だが、最近ますます一人遊びの傾向が強くなってきている。群れて遊ぶ機会が減ってきている。
 友達と群れて遊んで、時には友達を怒らせてしまったり、もめてしまったりという体験を通じて、友達と仲良くできる距離感覚などが身についていくのに…。

■さみしい子が増えた

 私が高等学校の校長をしている時、毎日立ち寄った部屋がある。保健室だ。
 「おなか痛い」「しんどい」「頭痛い」などと生徒たちが寄ってくる。本当は養護の先生に話を聞いて欲しいのだ。
 「家がおもしろくない」、「つきあっている男の子に冷たくされる」、「学校へ来るのが嫌」、養護教諭からの情報は、私の想像を超える深刻なものが多かった。
 中学校での不登校生の数もなかなか減少しない。
 各県にある児童自立センターや、DVなど、家庭にいられないで施設にあずけられている子どもたちも年々増加していると聞いている。
 最近、仲間の女の子を車の中で殺害し、山の中に遺棄した事件があったが、家出をくり返し、ネットでつながった子ども同士の生活の実態は深刻なものである。
 あたたかい、ぬくもりのある、愛情いっぱいの家族や友人に囲まれた子どもたちも多くいるが、その逆に、さみしい、孤独、愛情不足という人間関係が切れた環境にいる子どもたちが増えている。

■環境を変える工夫を

 「子どもは環境によってつくられる」と言われるが、人間は「環境を変える力をもっている」のも事実である。
 子ども同士の関係が希薄になってきた要因は、インターネット社会の広がりだけでなく、少子化の進行や高齢化、社会構造の二極化など様々である。
 21世紀が生みだした子どもの環境を、家庭も、学校も、地域も、行政も、それぞれの立場で、もう一度あたたかい絆で結び合えるように工夫したい。


著者経歴
元 大阪府堺市教育長
元 大阪府教育委員会理事 兼教育センター所長
元 文部省教育課程審議会委員

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