読み物プラス

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学校を生き生きとした人間教育の場に
2014.02.06
読み物プラス <Vol.06>
学校を生き生きとした人間教育の場に
-特別の教科「道徳」を起爆剤にして-
昭和女子大学大学院教授 押谷由夫

1 道徳教育は平和な国づくりの根本

 道徳教育が、いよいよ動き出します。と言いますと、警戒心を持つ人がいます。
 では、お聞きします。戦後のわが国は、日本国憲法において、世界の平和と人類の福祉に貢献できる国づくりを、世界に向かって高々と宣言しました。それをどのように実現していくのでしょうか。いうまでもなく、国民一人一人の自覚と実践によってです。そのためには、一人一人の生き方に問いかける指導が不可欠です。それが、道徳教育です。日本は民主主義国家です。過去の過ちを繰り返さないためにも、生き方の根幹を育む道徳教育を中核として教育を確立しなければならないのです。
 平成18年に改正された教育基本法は、そのことを明確に示しています。国民一人一人が生涯にわたり人格を磨き、そのことによって豊かな人生を送ることができるような教育のあり方を提案しています。豊かな人生とは、幸せな一生であり、共に幸せに生きられる社会を創ることです。その根幹に人格の形成・錬磨があるというのです。その人格の基盤が道徳性であり、その道徳性の育成を計画的・発展的に行うのが道徳教育なのです。そして、その要に道徳の時間が位置づけられているのです。

2 特別の教科「道徳」提案の意図

 では、その道徳の時間が学校現場において機能しているのでしょうか。確かに、道徳の時間を学校ぐるみで取り組んでいる学校はありますし、そこでは確実に成果を上げています。しかし、ほとんどの先生方が、学校間格差や教師間格差に気づかれているはずです。
 教育の根幹を担う道徳教育がそのような状況でいいのでしょうか。何とか改善を図らねばなりません。その大きな対応策として道徳の教科化が提案されるようになりました。
 道徳の教科化ありきではないのです。道徳教育を充実させ、学校教育の本来の役割を果たせるようにするには、どうしても要となる時間の充実が不可欠だというのです。いじめなどの子どもたちの問題行動の多発もこのことに起因していると捉えます。そして同時に、教科化することによって、様々な充実方策を行うことができます。例えば、教科書の発行や予算の確保、指導者及び指導者養成の充実、評価観の改善などです。
 しかし、懸念も考えられます。教科にすることによって、他の教科と同様に知識理解や実践指導を重視した授業になるのではないか。教科書を使うことで今まで開発してきた資料が使えなくなるのではないか。免許を持った教師だけの指導になってしまうのではないか。点数による評価が行われるのではないか、等々。これらは道徳教育の根幹にかかわる問題でもあります。こういった懸念を払しょくするためにも、特別の教科「道徳」という名称が提案されているのです。

3 特別の教科「道徳」はどのようなものか

 そもそも道徳教育は、一般に言われる教科とは異なります。教科はそれぞれに専門分化したものですが、道徳教育は総合されたものです。道徳教育の要である道徳の時間も同様です。したがって、道徳は、各教科全体を包み込んで人間として生きる根幹となる道徳的価値の自覚を計画的発展的に図るという意味で特別の教科なのです。そのために、どのようなものにしていくべきなのか。道徳の時間の実態をも考慮しながら考えていく必要があります。

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押谷由夫
昭和女子大学大学院教授・放送大学客員教授
1952年滋賀県生まれ。広島大学大学院卒業(教育学博士)、高松短大、高知女子大学、文部省・文部科学省、国立教育政策研究所等を経て、現職。日本道徳教育学会会長、小さな親切運動本部顧問。現在文部科学省「道徳教育の充実に関する懇談会」の副座長を務めている。