学び!と道徳2

学び!と道徳2

【連載再開!!】第2回中学校道徳教育セミナー
2019.03.28
学び!と道徳2 <Vol.11>
【連載再開!!】第2回中学校道徳教育セミナー
岡田 芳廣(おかだ・よしひろ)

 先生方お久しぶりです。しばらくお休みをいただいていた「学び!と道徳2」の連載を再開することになりました。以前に増して先生方のお役に立つ内容にしたいと思います。さて、初めてお読みになる先生もおられると思いますので、簡単な自己紹介をしたいと思います。私は現在早稲田大学の教職大学院で教員を目指す学生や教育力の向上を目指す現職教員の指導を行っています。以前は東京都の公立中学校に勤務する数学科の教員でした。
 初任時代はちょうど校内暴力がはやり病のように全国に広がり始めたころで、私の学校でも次から次へと問題行動が起き、毎日生活指導に明け暮れるような状態でした。しかし、先生方がいくら指導しても、生徒自身が変わらなければ良くならない、どうすればよいのか悩んでいました。そのような中、出会ったのが道徳教育でした。図の記事は広島県教育委員会の調査で、道徳教育を行うと校内暴力やいじめが減少し、学力も向上するという結果です。生徒の心を育て、先生から言われてやめるのではなく(他律)生徒自ら行動を律すること(自律)ができる教育が必要だと思いました。その後、学級経営も学校経営も道徳教育を重点にして行うと、不思議なことに生徒たちは落ち着き、学校は本来あるべき姿になりました。4月からいよいよ「特別の教科 道徳」が始まります。道徳教育の要である道徳科を充実して、生徒たちの心を育て、世界の人々から尊敬される国際人を育てて欲しいと思います。
 前シリーズ同様に、早稲田大学道徳教育研究会(MOS)のメンバーである道子、真理、響とともに道徳教育について考えていきたいと思います。今号は昨年の12月23日早稲田大学で、MOS主催で企画運営して開催された「第2回中学校道徳教育セミナー」について報告したいと思います。

1 第2回中学校道徳教育セミナー

「第2回中学校道徳セミナーご苦労様でした。今回はMOSが主催し企画運営しましたが、実際に活動してみてどんなことがありましたか。」
真理「第1回に比べ、先生方がセミナーに求めるものが、道徳科の指導や評価は具体的にどうしたらよいかなど、より実践的な内容になったと感じました。先生の中にはすでにいろいろな取り組みを始めていて、話し合いの内容が授業実践に基づいたもので、司会をしていた私がたくさん学ばせていただきました。」
「昨年は多くの中学校で道徳を校内研修のテーマにして、講師を招いて勉強会をしたり、研究授業を行ったりしていました。先生方の道徳教育への関心が高まり、知識や授業のスキルが向上してきているということでしょう。道徳科にとっては良い兆しですね。」
道子「グループワークでMOSのメンバーが模擬授業を行いました。セミナーの前にみんなで練習して臨みましたが、現職の先生方の真剣な眼差しを前にしてとても緊張し、思うように演技することができなくなりました。グループワークの話し合いでは、模擬授業は展開の最初の10分の部分だったので、その後はどのように授業を展開するか、どのような発問をするかなど具体的な質問が多くありました。」
「模擬授業はグループワークにおける話し合いの話題づくりをねらいに行いましたが、授業の意図を事前に伝えておいたほうがよかったかもしれませんね。模擬授業については後で詳しく話しましょう。セミナーの運営上の課題はありませんでしたか。」
「会場の政経学部3号館は大学の中心部にあり、一番新しく目立つ建物なのでするにわかると思い、学バスの終点がある正門と地下鉄の駅に近い南口に案内を置きましたが、中心部から遠い西門や都電に近い北門に案内を置かなかったために迷った人がいたそうです。」
「今回のセミナーは東日本の先生を対象に実施しましたので、関東近県はもとより東北や甲信越からも総勢60人ほどの先生が参加しました。中には初めて早稲田大学に来られた先生もいたと思いますので、丁寧な案内は大切ですね。島恒生先生の講演、谷島竜太郎先生、多田義男先生の実践発表と渡邉真魚先生による指導講評はどうでしたか。」
「島先生の講演『4月からスタートする道徳科~授業と評価~』は前回同様とてもわかり易く勉強になりました。『考え、議論する道徳』を目指し、どのように生徒が主体的に対話的に深い学びをする授業を作ればよいか具体的に話していただき有意義でした。特に、僕は『道徳では下(教材など)を見て考えるのではなく、天井を見て考えます。』というお話に感銘しました。」
真理「響は天井を見ながら寝ているのでは……?」
道子「二つの実践発表がありましたが、昨年の4月から特別の教科となり実施している茨城県筑西市立川島小学校の谷島先生の発表は『授業づくりと評価について』というテーマでした。長年にわたる特別活動の研究実践をもとに、授業改善と授業づくりを目標に研究実践し、さらにそれが評価につながることを目指し、ワークシートの改善やマイボード(簡易ホワイトボード)の開発に取り組んでいました。特に研修通信を発行して、学校全体で研修に取り組んでいるところが素晴らしいと思いました。」
「評価をどのようにすればよいか悩んでいる先生がいますが、川島小学校のようにまず授業を充実することが評価につながりますね。」
道子「筑波大学附属中学校の多田先生の発表は、真理の探究を主題にした授業実践でした。IPS細胞で難病を治したいという思いで、それを世界で初めて作り出した山中伸弥先生を教材とした授業でした。偉業を成し遂げた方の話は、ときに生徒にとって身近な存在ではなく、葛藤も少ないですが、山中先生にも人間としての「弱さ」があり、それを乗り越えた「強さ」があることを押さえて授業をされていました。人間には誰にもそのような面があることを生徒自身に気づかせることが大切だと思いました。」
「道子さんの専門である数学は、常に真理を求め学んでいますね。生徒たちにはそのことに気づかせてもよいでしょう。」

2 模擬授業

「それでは皆さんが行った模擬授業について考えてみましょう。今回使用した教材は文部科学省が作成し、平成24年5月に発行した『中学校道徳読み物資料集』に収録され、その後『私たちの道徳』にも収められている『帰郷』という読み物資料です。東京で俳優をしている息子のもとに、田舎で一人暮らしている母の急病の知らせが届くというところから話が始まります。母を東京に連れていき面倒を見るという息子に対して、迷惑をかけたくないという母の思い、息子に代わって母の面倒を見ると提案する夫婦や母の店の常連たちを通して、息子は多くの人に支えられて生きていることに気づき、感謝するという内容です。時折、オリンピックのメダリストのインタビューで『金メダルが取れたのは、皆さんのお陰です。皆さんに感謝します。』という言葉を耳にします。一方、最近の成功者の中には『自分の能力や努力で頑張って成功したのだ。他人の助けは何も無い』といった自己中心的(ジコチュウ―)な発言をたまに耳にします。そのような風潮に対して、今の自分が楽しく安心して生活できているのは、多くの人々の支えがあるからだと気づき、感謝を忘れないことの大切さを考えさせることができる教材です。」
「僕も田舎に親がいるので、この教材は自分のことのように思います。」
真理「しかし、私たちのような大学生には身近な内容ですが、まだ家族と生活している中学生には理解できないのでは……。」
道子「体験がないと自分のこととして考えることが難しいと思います。」
「それにこの教材は長く、読むのに時間がかかります!」
「以前、イギリスの学校で『ドラマ』という教科があることを紹介したことを覚えていますか?」
道子「シェイクスピアなどの劇の一部を使って、台詞を国語的な視点で正しく読み取り、さらにセリフの中に込められている心情を考え、実際に演じて評価するアクティブラーニングです。国語と演劇が一緒になったような学習ではないかと思います。」
真理「道徳で行われている役割演技(ロールプレイ)に似ているように思いますが……。」
「そうですね。『ドラマ』はイギリスでは教科として行っています。劇の台詞の読み取りから始まり、台詞に込められている心情を考える、その心情を表現する演技方法を考え練習する、全体で演技を発表する、全体で評価するなど何時間もかけて行っています。もちろん大学の入試科目でもあり、試験があります。今回の模擬授業では中学生には体験することが無いような内容なので、ドラマをすることにより教材を読むという間接体験から自分で考え実際に演技して直接体験をさせることを考えました。しかし、このような活動は時間がかかりますし、響君の言うようにこの教材は長文で、読むのに時間がかかるという問題があります。そのような課題を解決するために前時の授業で教材を渡し、演技することを宿題にしておく指導計画を考えました。皆さんは大学院の授業で『反転学習』を習っていますね。」
道子「先生から授業で学ぶことに関する本や論文、課題が事前に出され、それらを読んだり、課題に対する考察をしたりして授業に臨む学習です。予習が宿題のような学習で、習ってもいない専門書を自分の力で読むことはすごく大変です。しかし、授業では先生の話がとてもよく理解でき、納得します。」
「今回の模擬授業はグループワークの時間の都合で、文中の息子・母・おばさん・おじさんの四人の台詞の一部、
息子『母さん、東京で一緒に暮らそう。』『だって、しばらくリハビリも必要なんだろう。もう遠慮しないでいいんだよ。』
母『この町がいいんだよ。』
おばさん『研ちゃん。私たちはまだ元気だから、私たちでよければ、佐和子さんのリハビリや身の回りのことは手伝うけど……。』
おじさん『研ちゃん、私らだけじゃないんだよ。さっき見舞いに来た連中だって、ちょくちょくのぞくって、言ってるんだよ。』 
息子『ありがとうございます。母とゆっくり話し合ってみます。』
を演じてもらうことにしました。実際の授業では演じた後に、生徒にどのような意図で演じたのか発表させたり、見ていた生徒にはどのようなことを思ったかを尋ねたりして、多様な見方や考え方に気づかせ、その後に行う中心発問『帰りの電車で主人公はどんなことを思っていたかを考えよう。』で議論を深めたいと考えています。」
道子「他者の体験を再現することは、自分が体験することになるということですね。」
真理「時間があれば役を入れ替えて行ってもよいのではないかな……。」
「4人の視点から考えることは、多面的・多角的な学習になりますね。」
「しかし、生徒たちは事前に指示しても考えてくるかな……。」
真理「宿題忘れの響とまじめな中学生を同じレベルで考えないこと!」
「今年も冬休みに第3回の中学校道徳教育セミナーを予定していますから、皆さんも今からさらにしっかりと道徳科を勉強しておいてください。」

 今回は中学校道徳教育セミナーの報告が中心でしたがいかがでしたでしょうか? 次回からは4月から始まる道徳科の指導方法について実践をもとに考えていきたいと思います。ご期待ください。