小学校 生活
小学校 生活

※本実践は平成20年度版学習指導要領に基づく実践です。
1.単元名/実施時期
「がっこうだいすき ともだちだいすき」/4月入学時~5月第1週(GWまで)
2.学校を取り巻く環境
わたしたちの学校がある横須賀市は,軍港の町として広く知られている。二方が東京湾・相模湾に面していて,市の内陸には決して高くはないが,小さい山がたくさんあり谷戸が多くある地域である。それ故,漁港もいくつもあり,農業も盛んである。本校は,そんな横須賀市の東(東京湾に面している)の小高い丘に建っている。近くには大塚台古墳跡地や吉井貝塚が残されている。歴史のある土地だが,学校自体は新興住宅地内に建てられた新しい学校である。丘の上には住宅が建ち並んでいる。しかし,丘を下ると,京浜急行の車両を造っている工場があったり,運送会社が3社立ち並んでいたりと丘の上とは景色がだいぶ異なる。とにかく,学区が広い。1年生が探検する公園も全部で12か所ある。児童数も市内では多いほうで,20以上の保育所・幼稚園から入学してくる。クラスで同じ園からの入学が自分一人ということもしばしばである。
3.入学時の課題
幼稚園・保育所など幼児教育では,遊びを通してさまざまなことを学んでいる。しかし,小学校教育では,机上の学習が増え,体験することを大切にしつつも,座って学習することが多くなり,学び方が大きく変わる。そして,児童の中には学習の仕方になかなかなじめずに,教室を飛び出したり,45分間の中で一つの学習に集中できなかったり,自分のやりたいことを優先してしまい集団で学習できなかったりすることが起こってきたと言われている。それを小1プロブレムと呼んでいる。
まとめると,小学校低学年では,幼児教育の成果を踏まえ,体験を重視しつつ,
①小学校生活に適応すること
②基本的な生活習慣等を育成すること
③教科等の学習活動に円滑な接続を図ること
等が課題としてあげられている。
4.入学時期の課題と生活科との関連
小1プロブレムなどの問題が生じる中,小学校低学年では,幼児教育の成果を踏まえ,体験を重視しつつ,小学校生活に適応すること,基本的な生活習慣等を育成すること,教科等の学習活動に円滑な接続を図ること,などが課題として指摘されている。そもそも生活科新設の趣旨の中には,幼児教育との連携が重要な要素として位置付けられており,その意味からも,小1プロブレムなどの問題を解決するために,生活科が果たすべき役割には大きな意味がある。
5.単元の流れ
※画像をクリックするとPDFが開きます。
6.それぞれの課題(前述)を解決するための手立て
(1)小学校生活に適応するための手立て
①「わかりやすい指示」
●視覚的にわかるようにする。(児童が一人で動けるようにする。)
- トイレの使い方をプロジェクターで具体的に絵を使って説明する。
- 机の中やロッカーの整理の仕方を絵で表示する。
- 時計の針の位置で行動を指示する。
- 登下校のグループを色で表示し,帽子に色を貼り付ける。
- 基本生活に必要になるグループを年間を通じて活用する。(こちらも分かりやすいもので表示する。例えば「りんご…(赤)」,「ぶどう…(紫)」,「バナナ…(黄)」,「みかん…(橙)」等。)
●事前に説明する。(「大切な話をするよ。」と言ってしっかり聞かせる。)
- 掃除の仕方・給食当番の仕事等,一度は全体で指導する。(給食当番の仕事は学校栄養職員にしてもらうと効果的である。その後は,初めてのときに具体的に手取り足取り教える。)
●授業規律と開始・おわりのあいさつの仕方を教える。
- 勝手に教室を出て行ったりおしゃべりしたりしてはいけない。
- 誰かが話しているときは,その人を見てしっかり話を聞く。
- 話したいときは,「はい。」と言ってから話すようにする。
●整列の仕方を教える。(しばらくは,座っている座席順とする。)
●給食当番の仕事を教える。
- 学校栄養職員に白衣を着る意味,手の洗い方等の大切さを伝えてもらう。最初の給食当番のとき(グループが変わる毎に)に,白衣の着方・立ったままのたたみ方・仕事の表の見方・仕事の内容について教える。
②「幼児教育の生活の仕方を取り入れた手立て」
●幼稚園・保育所では,自分のやりたい遊びを選ぶことができたり,今の遊びをやめて違う遊びに変えたりと,児童の思いで動きを取り入れることができる。しかし,小学校の授業の中では,自由に動き回ることはできない。机上で学習することが多い。けれども,入学当初の児童はおよそ45分間の一授業時間を集中して取り組むことが難しい。動きのある活動を少し盛り込むだけで,児童の集中力は持続する。
例えば,座る場所を変えるだけでもよい。
[国語の授業]で,
①読み聞かせをする。
教科書で紹介されている絵本を読んだり,教科書を範読したりなど。本を読みたい場所に集める。
②通常の授業を行う。
自分の席に座り,書いたり読んだりする活動をする。
(2)基本的な生活習慣等を育成する指導
①「丁寧な指導」
●ニコニコタイム
学校生活を楽しく過ごすには,集団としてのマナーを身に付けることが大切である。また,日々の生活を充実させるために,基本的な生活習慣は不可欠となる。
そこで,本校では「ニコニコタイム」というものを実践している。「ニコニコタイム」は,健康教育の一環として全校をあげて取り組んでいる。養護教諭が中心となり,一か月に一度テーマを決め,一週間健康的な生活習慣を身に付けるために取り組んでいる。そして,児童が取り組んだ実践に対し,家庭から励ましやアドバイスなどの言葉を書いてもらい,児童・保護者がともに意識化できるように活動している。
取り組んだ実践のワークシートについては,6年間ずっとファイルに綴じてとっておく。いつでも振り返ることができる。
ニコニコタイム
4月 |
・早起きをしよう |
10月 |
・背中を伸ばそう |
5月 |
・朝ご飯を食べよう |
11月 |
・好き嫌いなく食べよう |
6月 |
・歯みがきをしよう |
12月 |
・手を洗おう |
7月 |
・バナナうんちをしよう |
1月 |
・うがいをしよう |
8月 |
・体を清潔にしよう |
2月 |
・外で遊ぼう |
9月 |
・早く寝よう |
3月 |
・1年間の生活を振り返ろう |
(3)教科等の学習活動に円滑な接続を図るための「スタートカリキュラム」
①「幼児教育を意識した授業の組み立て」
●なかよしタイム(学級で朝の会をやり,その後1時間目の後半2/3 30分間)
保育所・幼稚園では,遊びを通して体を動かし,体験を通して学んできた。その学びの形態から,一人ひとりにあてがわれた個人の机に座り,45分という小刻みの間隔で,意識しない限りあまりつながりのない教科学習の学びの形態へと変わる。それに不安を抱えずに移行していくには,小学校側としてどう工夫すればいいのかということである。
そこで,わたしは次のように手立てを考えた。
一日の始まりの時間を,保育所・幼稚園のようにゆったりと過ごすことで,今日一日の見通しをもって,意欲的に過ごすことができるのではないかと考えた。そうすることで,児童が必要以上に不安感を抱くことなく,小学校というところを受け入れられるのではないか,安心して意欲的に学校生活を送れるのではないかと考えた。
「なかよしタイム」として |
例えば,
例1「もうじゅうがりへいこうよゲーム」
児童の活動 |
留意点 |
---|---|
1.学年の歌を歌う。(始まりの歌) |
・振りを付けて,歌って踊る。 |
2.歌「もうじゅうがりへいこうよ」を歌う。 |
・新しく歌を教える。 |
3.ゲームのルールを理解する。 |
・笛の数の人数でグループをつくることを伝える。 |
4.ゲーム「もうじゅうがりへいこうよ」をする。 |
・元気よく動き回ってよいことを伝える。他クラスの児童とも仲 よく遊ぶよう伝える。 |
5.2時間目,算数の授業へ |
例2「歌をうたおう」
児童の活動 |
留意点 |
---|---|
1.学年の歌を歌う。(始まりの歌) |
・振りを付けて,歌って踊る。 |
2.教科書に載っている歌を当てながら,楽しく振りを付けてメドレーで歌う。 |
・楽しく歌う。 |
3.校歌を歌う。 |
・校歌を教える。 |
4.2時間目,音楽の授業へ |
例3「名刺交換」
児童の活動 |
留意点 |
---|---|
1.学年の歌を歌う。(始まりの歌) |
・振りを付けて,歌って踊る。 |
2.ゲーム「かもつれっしゃ」で遊ぶ。 |
・歌は何でもよい。 |
3.ゲーム「かもつれっしゃ」をアレンジして,じゃんけんの後,事前に準備しておいた名刺を交換する。 |
・あいさつしながら交換する。 |
4.2時間目,国語の授業へ |
例4「群読をしよう」
児童の活動 |
留意点 |
---|---|
1.学年の歌を歌う。(始まりの歌) |
・振りを付けて,歌って踊る。 |
2.教科書「あかいとり ことり」を音読する。 |
・大きな声で読ませる。 |
3.音読と群読の違いを教わる。 |
・1年生にわかるように教える。 |
4.「あるけ あるけ」を群読する。 |
・リズムにのって読めるように指導する。 |
5.2時間目,国語の授業へ |
例5「広場を大きなキャンバスにして」
児童の活動 |
留意点 |
---|---|
1.学年の歌を歌う。(始まりの歌) |
・振りを付けて,歌って踊る。 |
2.描いてよい場所を知る。簡単なルールを知る。 |
・大体の範囲を伝える。 |
3.コンクリートにチョークで絵を描く。 |
・仲よくチョークを使う。 |
4.みんなで絵を見合う。 |
|
5.2時間目,図工の授業へ |
②大単元構想
幼児教育においては,学習が分化されてなく,総合的に学んできている。「○○をしてあそぼう」という目標が決まったら,その目標に一人で準備したり,グループで話し合って準備したりする。そこには,小学校でいういわゆる「教科」が散りばめられている。数を数えたり,自分の思いを相手に伝えたり,思いを絵で表現したり,ときには歌を歌ったり体を使って踊ったりしながら・・・。しかし,小学校は「これから,国語のお勉強をします。」や「これから,算数のお勉強をします。」と,わけられてしまう。慣れない入学当時の児童にとっては,とてもわかりにくい慣れていない学び方なのである。
そこで,入学当初の間,総合的に学ぶカリキュラムをつくっていろいろな教科を盛り込み,自然な形で分割されている教科を学ぼうとするのがスタートカリキュラムの考えだ。
各教科が分割し,専門的にわかれている学び方に,慣れているわたしたち大人からすると,逆に理解しにくいことだが,入学当初の児童にとっては総合的に学ぶほうが自然の学び方になる。そして,少しずつ小学校の各教科のカリキュラムに移行していければ一番よいと考える。さらに,その大単元にあるのが,低学年の児童の特性を生かした教科,すなわち生活科という捉えが自然だ。
多くの小学校では,入学してしばらくの間,生活科で学校探検の単元を行うだろう。その際,生活科を中核に置きながら,国語科・算数科・音楽科・図画工作科・体育科などの内容を,合科的に扱い,大きい単元を構成することが望ましい。そして,これらの考えから,第1学年入学当初のカリキュラムを『スタートカリキュラム』として,別格に捉え編成することが必要とされている。
このように,スタートカリキュラムを編成し,総合的に学ぶ幼児教育の成果を徐々に小学校教育に生かすことが,小1プロブレムなどの問題を解決し,学校生活への適応を進めることになるものと期待されている。
大単元構想(合科的な指導)の例
・生活科「がっこう たんけん」を活動に他教科を取り入れる大単元構想
(4)考察
今年度手探りで「スタートカリキュラム」に取り組んでみて,成果できること,反省すべきことなどがいくつか出てきた。
成果できる点
①学年で取り組んだことで,学年の教師が他のクラスの児童もわかり,見取ることができたことだ。学年会等で一人の子に対して,理解を深めることができた。児童から見ても知っている先生が増えるのだから安心がもてるのではないかと実感する。
②学年便り等で,学校生活上において必要なことを共通確認してきたことで,保護者がクラス間の差を気にする様子もなく,安心してもらっているように感じる。家庭学習プリントも学年共通で毎日出しているのも功を奏していると思われる。
反省すべき点
認識が甘く,不勉強だったり,日々の忙しさに追われてしまったりして,「スタートカリキュラム」を大単元構想のもとで,計画的に取り組むところまで行かなかった。児童の思考を考えたら,毎時間ごとに分類される学習よりも,幼児教育で経験してきたつながりのある学習の仕方で,1か月間の学習を合科で捉えて取り組めたらよかったと反省している。そうすれば,児童の思考はさらにスムーズに学べただろう。
(5)今後の課題
①誰が受けもっても,スタートカリキュラムが職員間で当たり前のごとく実践できるように受け継いでいくための整理をしたい。
②「スタートカリキュラム」を,大単元構想でカリキュラム化して残していきたい。
③少しずつ始まったのだが,近隣の幼稚園・保育所の先生たちとも情報交換をして,連携をとっていきたい。そうすることにより,幼児教育と小学校教育双方の理解が深まり,お互いの教育の仕方がわかれば,より滑らかに移行できるようになるからだ。全ては子どものために,一人でも不登校児を出さず,小学校生活を楽しめるようにしていきたい。