学び!と美術

学び!と美術

誰でも簡単!ポップアップで紙工作
2020.05.11
学び!と美術 <Vol.93>
誰でも簡単!ポップアップで紙工作
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 紙は折るだけで立体になり、ずらすだけで動きが出るなど、いろいろな面白さがあります。本稿では、紙を使ったポップアップ紙工作を紹介します。

「飛び出す絵本」との出会い

 ポップアップ紙工作は以前からよく教科書に題材として掲載されています。図画工作や美術の先生であれば、一度はその飛び出す仕組みを調べたことがあるでしょう。
 私も子どもの頃から「飛び出す絵本」が好きでした。カトリック系の幼稚園だったので、クリスマスになると「受胎告知」や「東方の三博士の来訪」などの場面が園内に展示されていました。人物や背景が前後するだけの簡単な仕組みでしたが、奥行きに惹かれて、のぞきこんでいた記憶があります(※1)

洋書を集めて、サブダに驚く

 大人になってからは、「飛び出す絵本」を少しずつ購入しました。
 1980年代、「飛び出す絵本」はそれほど多く出版されていなかったので、本屋さんで見かけては和書や洋書を購入していました。「飛び出す絵本」といってもいろいろな種類があります。飛び出すだけでなく、めくることで絵が変わったり、舞台になったりするものもあります。内容は、童話や物語を題材とするものと(※2)、科学や歴史を解説するものに大別されます。ナショナルジオグラフィックのAction Bookシリーズは仕掛けが巧妙な上、解説も興味深く、我が子と一緒に読んだものでした(※3)

 1990年代には、ポール・ジャクソンの“The Pop-Up Book”に出会いました(※4)。シングルスリット、ダブルスリットなどポップアップの仕組みが分かりやすく解説されていて、実技講習会でずいぶん活用させてもらいました。デビッド・カーターの“The Elements of Pop-Up”も便利でした(※5)。飛び出す、回る、音が出るなど「飛び出す絵本」で用いられるほとんどの仕組みが実際に動くしかけで紹介されており、夏休みの自由研究で娘と一緒につくった思い出があります。

 2000年代になると、ロバート・サブダが、次々と高度な「飛び出す絵本」を発表します。“Encyclopedia Prehistorica”シリーズは、ページを開くたびに大きな恐竜やサメが飛び出してくるので驚きました(※6)。彼のクリスマス・シリーズは、デザインや動きが洗練されており、その美しさに魅了されました(※7)。彼の本は、「飛び出す絵本」を研究する学生がよく参考にしていたものです。

 2010年代は、コンピュータの発達でペーパークラフト自体の技術水準が上がり、様々な紙工作の設計図がWeb上に掲載されるようになりました。ポップアップの作り方も数多く公開されており、誰もが簡単に、おしゃれで高度なポップアップを楽しめる時代になったようです(※8)

ポップアップに挑戦

 みなさんも、ひとつ挑戦してみましょう。必要なのはハサミと紙だけ。例題は、ポール・ジャクソンの“The Pop-Up Book”の表紙作品「鳩」を小さく簡単にしたものです。数十秒程度でできあがります。
 イメージするのはカモメです。

<1>
まずA5版の紙を半分に折ります、色画用紙程度の厚みであれば十分ですが、コピー用紙でもOKです。

<2>
クチバシからハサミを入れます。「折り目」と平行になるくらい小さい角度で切り込むのがコツです。角度が大きいと、開いたときに野太いクチバシになってしまい、カモメにはなりません。

<3>
クチバシから、頭にかけてふくらませます。あまりふくらませすぎると大きな丸い頭になって鳥らしくありません。開いたときには倍の幅になりますから、それを想像しながら細目に切ること、頭よりも首の方をほんの少し太くすることがコツです。

<4>
首まで切ったら、90度程度紙を回して、羽を切ります。カモメですから長い羽にしましょう。ここは「長すぎるかな」と思うくらいでちょうどいいでしょう。

<5>
大きな波を描くように先端まで切ったら、クルリと紙を回して、胴体まで戻ります。先ほど描いた曲線に呼応するように波型に切っていきます。

<6>
羽の終点は、「折り目」からの距離が「首とほぼ同じ幅」のところです。そこからクルリと紙を回して、雲を切り出します。二、三度ふくらませれば雲になります。

<7>
雲の端までいったら、クルリと紙を回して、「折り目」までもどります。このとき「折り目」に直角に進むのではなく、斜めに進みます。立てたときに安定する角度になります。「折り目」の先まで切り落としましょう。

<8>
切り取った紙を持って、尾羽の切り込みを入れます。「折り目」から切り始め、途中で「く」の字に曲がります。カモメは尾羽が短いので、比較的胴体から近い位置から切り始めます。

<9>
切り込みの終点は、先ほどの羽の終点(雲のスタート地点)よりも、少し「折り目」に近いところです。

<10>
「尾羽の切り込みの終点」と「羽の切り込みの終点」をつないだ直線が胴体となります。ここを、手前に折ります。

<11>
最後に、雲を一枚だけ向こう側にもっていって、雲の部分を山折りすると…。

<12>
できあがり!
※慣れないうちは下描きしてから切るとよいでしょう。もちろん下描きなしに一気に切っていく方がかっこいいですよ(^^)。

 クチバシや頭の形、羽や尾羽の長さを変えることで、いろいろな鳥ができあがります。
 生物は基本的に左右対称ですから、同じ方法で、ウサギやクマなどの動物、蝶やカマキリの昆虫なども制作できます(※9)

 ポップアップのような紙工作は、一見簡単に見えますが、設計図通りにつくらねばうまくいかなかったり、仕組みが複雑で慣れるまで時間がかかったりします。すぐに「図画工作や美術の学習に取り入れられる」というものではありませんが、もっと注目されていいジャンルかもしれません。

※1:写真はメリーゴーラウンド・えほん「クリスマスのおはなし」大日本絵画(1985)。
※2:写真はJ.M.バリー作 角田光男訳「ピーターパン」西村書店(1985)と、ルイス・キャロル著 うえのかずこ訳「ふしぎなくにのアリス」大日本絵画(1988)。
※3:大日本絵画から『熱帯雨林の探険』『クジラ―力持ちの海の巨人たち 』『恐竜―大むかしの生物』などが翻訳出版されています。宇宙や人体をテーマにしたものもあります。ジョナサン・ミラー、デビッド・ペラム著 大利昌久訳「ヒトのからだ 立体・人体構造図」ほるぷ出版(1985)等。
※4:写真はPaul Jackson , Paul Forrester “The Pop-Up Book : Step-By-Step Instructions for Creating Over 100 Original Paper Projects” Henry Holt & Co(1994)。『ポップアップの作り方』(大日本絵画)として翻訳出版されています。
※5:写真はJames Diaz , David A. Carter “The Elements of Pop-Up” Little Simon(1999)。『実物で学ぶしかけ絵本の基礎知識ポップアップ』(大日本絵画)として翻訳出版されています。
※6:写真はRobert Sabuda , Matthew Reinhart “Encyclopedia Prehistorica : Dinosaurs” Candlewick(2005)。その他に “Sharks and Other Sea Monsters”(2006) , “Mega-Beasts”(2007) , “Gods and Heroes”(2010) , “Dragons and Monsters Pop-Up”(2011)などがあります。大日本絵画から『太古の世界 恐竜時代』『シャーク―海の怪獣たち』『絶滅した獣たち メガビースト』『神々と英雄―エンサイクロペディア神話の世界』などが翻訳出版されています。
※7:写真はRobert Sabuda “The Christmas Alphabet” Orchard Books (2004)。その他 “Winter’s Tale” Little Simon(2005) , “The 12 Days of Christmas Anniversary Edition” Little Simon(2006)など。大日本絵画から『クリスマス・アルファベット』『クリスマスの12日』『冬ものがたり』などが翻訳出版されています。
※8:洋書では美術をテーマにしたものが多く出版されています。写真はDavid A. Carter “White Noise”(2010)。
※9:ウサギはオリジナル。カマキリはペーパークラフト作家の北岡謙典さんの作品を参考にした記憶があります。口の切り込みを入れるだけで頭部と胴体が分かれるところが秀逸なアイデアです。(北岡謙典「ペーパースカルプチャー―新しい紙の造形 」三晃書房(1975)、北岡謙典「紙の芸術」日本文教出版三晃書房(1997)等)。