中学校 道徳
中学校 道徳

1 はじめに
新学習指導要領では,「多様な感じ方や考えに接する」中で,考えを深め,「判断」し,表現する力などを育むことができるよう「言語活動の充実」が求められています。その際,様々な価値観について「多面的・多角的な視点」から「振り返って考える機会」を設けるとともに,「多様な見方や考え方」に接しながら更に「新しい見方や考え方を生み出していくことができる」ように,言葉を生かした教育の充実が図られなければなりません。
2 言語活動の充実
道徳科の授業では,教材の内容や登場人物の言動などについての授業者の問いに,生徒は自分の体験や経験を振り返りながら自分だったらどうだろうと考えます。そしてそのことを通して,道徳的価値の理解を基に人間としての生き方についての自覚を深めていきます。主人公が置かれている状況を把握するなどの基本発問,道徳的価値に関する本時のねらいに迫るための主発問,生徒の考えを深めるための切り返し・問い返しなどの補助発問を意図的に組み合わせることで,生徒の道徳的思考を深めていきます。
生徒の道徳的思考を深めるため,教材提示の方法,構造的な板書,デジタル機器の活用などの工夫をしてきました。特に道徳的価値に係る主発問については,役割演技を用いたり,ネームプレートや心情円盤・心情メーターなどの意思表現ツールや様々な思考ツールを用いたり,生徒の実態に応じて,ペア・グループ・学級全体で表現する活動を意図的・計画的に取り入れてきました。そして,自分と同じまたは異なる他の生徒の考えに触れ,自分の考えと比較し,多面的・多角的な視点から自分の考えを深め,考えを練り上げていくことを通して自分の生き方についての考えが深められるよう指導方法の工夫をしてきました。
自分の考えや思いを明確にさせるために,ワークシートや道徳ノートなどへ書く活動を取り入れてきました。自分自身の感じ方や考え方を言語化することにより,自ら考えたり見直したりしていることを明確にすることにつながります。自分の考えや思いをうまく表現できず,すぐには書けなくても,自分はどう考えるかと思い巡らすことが大切です。その後,他の生徒の考えに触れることで,再考し,自分の考えや思いがだんだんと明確になっていきます。
3 「ふせん」を使った話し合い活動
グループでの話し合い活動を充実させるための手段として,「ふせん」を使った話し合い活動の実践を紹介します。「ふせん」は書くスペースが少なく,短文や語句を記入する活動に適しています。そのため,文章を書くことが苦手な生徒でも記入しやすくなります。さらに,「ふせん」に記入した短文や語句を基に話し合い活動を行わせることでメモを見ながら文章で説明できる力を育成することにもつながります。
話し合い活動は【話し合いの進め方】に従って進めていきます。
【話し合いの進め方】
マグネットを用い,今,自分は①~④のどの活動をすべきか視覚支援によって明確にさせます。そして,生徒の話し合いのようすを観察しながら,時間配分と活動を指示します。日頃からタイマーを活用するなど時間管理の習慣化を図っておきます。そうすることで,合図とともに活動を始め,タイマーの音で次の活動へ移るという思考の切り替えが可能になります。このとき,③④に時間をとり,話し合いをしっかりと深めさせます。
4 実践例
『「自分」ってなんだろう』(中学道徳 あすを生きる2 日本文教出版)
人それぞれよさがあり,その発見と自己受容・自己理解に努め,自分らしさを発揮しようとする実践意欲と態度を育てる。【内容項目A-(3)向上心,個性の伸長】
学習活動(主な発問と予想される生徒の心の動き) |
指導上の留意点 |
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導 |
1 事前アンケートを発表する。 |
・自分の外にあるものが多いことに気付かせる。 |
展 |
2 『「自分」ってなんだろう』を提示する。 |
・「自信は得るもの?」を中心教材として扱う。 |
展 |
3 自分が「宝石になる」ために大切にしたいことを考える。 |
・まず,自分の考えを道徳ノートに書かせる。 |
【話し合いの進め方】 |
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展 |
○発問③「自分のよさを知ることで、これからの自分がどう変わっていきそうか、考えてみよう。」 |
・道徳ノートに書かせる。 |
終 |
4 教師の説話を聞く。 |
5 まとめ
「ふせん」を使った話し合い活動は,あくまでも手段であり,活動自体が目的にならないようにしなければなりません。そのためにも,ねらいや生徒の実態、教材や学習過程に応じて発問を工夫する必要があります。また,話し合い活動の具体的な目的を理解させておくことが大切です。
授業での生徒は,視覚的に「ふせん」を動かす活動をすることで,話し合い活動が活発になり,自分の考えや思いを伝えることだけでなく,他の生徒の考えを聞き,伝え合うようすが見られました。