高等学校 美術/工芸

高等学校 美術/工芸

デザイン:サインのデザイン ―季節に関する行事のマークをデザインする―(第1学年)
2020.07.13
高等学校 美術/工芸 <No.003>
デザイン:サインのデザイン ―季節に関する行事のマークをデザインする―(第1学年)
東京都立一橋高等学校 定時制課程 主幹教諭 西田昌弘

1.題材名

デザイン:サインのデザイン

生徒作品。梅を中心に配置し,背景の色を変えることによって昼夜の長さが同じことを表現している。生徒作品。満月と中国の建物をモチーフに月見を表現している。生徒作品。海を土台に植物と花火が配置され,中心の大きな太陽は昼が長いことを表現している。

2.サブタイトル

季節に関する行事のマークをデザインする

3.目標

【知識及び技能】
造形的な見方・考え方を働かせて,社会で使われているマークの特徴から役割や働きを読み取り,学んだことを自らの作品を通して美しく表現している。

【思考力,判断力,表現力等】
日本で四季折々に行われてきた行事について知り,その特徴から主題をとらえて創造的な表現の構想を練っている。

【学びに向かう力,人間性等】
造形的な見方・考え方を働かせて生活や社会の中の美術の働きを理解しようとしたり,主体的に主題を示しつつ表現や鑑賞の活動に取り組んだりしている。

4.準備(材料・用具)

教師:アクリルガッシュ,ケント紙(B4サイズ)
生徒:鉛筆,消しゴム,定規

5.評価規準

【知識・技能】
社会におけるデザインの役割や働きについて理解し,自らが構想したマークを丁寧に表現している。

【思考・判断・表現】
日本で四季折々に行われてきた行事の特徴から自ら主題を作り,個性豊かなマークのデザインを構想している。

【主体的に学習に取り組む態度】
生活や社会の中のデザインの働きを考察したり,そこから学んだことを自らのデザインに主体的に取り入れ表現したりしようとする。

6.本題材の指導にあたって

ア 指導上の工夫
 生徒たちが,絵の具を扱うために必要な技能を身に付けた上で,本題材に取り組めるようにカリキュラムを工夫した。
 前題材では,春夏秋冬から発想・構想し,自らがイメージした通りに色を塗る活動を通して,色彩について学んだ。授業では,それぞれの季節から感じる温度や匂いや雰囲気,その季節だからこそ出会える植物や食べ物等からイメージを広げるように指導した。
 本題材では,形について学ぶことを目的とする。生徒にはコンセプトに沿った1色のみで塗ることを求めたり,形を工夫したりすることで,自らの意図を示すように指導した。

前課題「春夏秋冬からイメージした配色」前課題のワークシート

イ 生徒の実態
 本校は単位制普通科の昼夜間定時制課程である。美術が好きで多くの支援がなくとも取り組めてしまう,不登校経験があり十分に学べていない,外国で学び美術の授業すらなかったなど,多様な生徒が在籍している。それゆえに生徒によって高等学校の美術に必要な学力の習得段階に違いがある。美術Ⅰではそれらの生徒全てに対して美術の楽しさを教え,美術Ⅱ及び美術Ⅲで必要となる基礎的な能力を育むことを重視している。

ウ 題材設定のねらい
①丁寧に取り組む姿勢の育成【知識及び技能】
 本校の生徒は定規を用いて決められた長さを測り曲がらないように線を引く,絵の具を自分が意図した通りに混色しムラなくはみ出さずに塗る,字体の見本を見ながら正しくレタリングするなど,基本的な作業でつまずいてしまうことがある。しかしこれらの方法を理解し丁寧に取り組む姿勢があれば,よりイメージに近い作品を仕上げることができる。本題材は創造することの楽しさを味わうとともに,必要な技能を養うことをねらいとした。

②自己肯定感の醸成【思考力,判断力,表現力等】
 生徒からよく聞く発言として「自分には才能がないから…」というものがある。美術教師であればこの言葉は誰もが聞いたことがあるのではないだろうか。本題材を通じて生徒が,一つ一つ手順を追って論理的に考えることで,自らの意図に沿ったデザインを発想・構想できることを経験し,生徒たちの自己肯定感を高めたいと考えた。近年,社会において「デザイン思考」の必要性が強く言われている。美術教育を通じて,社会で必要とされる思考力,判断力,表現力等を養うことを目的とした。

③社会への興味・関心【学びに向かう力,人間性等】
 最近は生活の中で日本の伝統を感じることが減りつつある。そのため,子どもたちは日本で四季折々にどのような行事が行われてきたのか知る機会が少なくなっている。また本校の場合は外国から来日して学んでいる生徒もおり、日本について知らないことがまだまだ多い。本題材を通じて,日本古来の風習や伝統文化について学ぶことにより,社会への興味・関心をもち,豊かな人間性を育むことをねらいとした。

7.題材の指導計画

授業数

学習活動の流れ

指導上の留意点,評価方法

評価規準,評価方法

1時間

導入①
マークについて学ぶ。都道府県のシンボルや有名企業のマークを活用した。
http://www.nga.gr.jp/pref_info/index.html
(全国知事会 都道府県情報)

① 団体や企業はマークを定めており,そこには意味や意図が込められていることを理解できるようにする。
② デザインには論理的な思考が必要なことを理解できるようにする。

「デザイン課題」見本書体(55.0KB)

【知識・技能】
【思考・判断・表現】
発言,態度

1時間

導入②
季節に関する行事について学ぶ。
<取り上げた行事>
正月,節分,七夕,お盆,月見,春分,夏至,秋分,冬至

① 日本の伝統的な行事は,どの時期にどのようなことが行われているのか,理解できるようにする。

「デザイン課題」(指導用)(36.5KB)

【知識・技能】
【主体的に学習に取り組む態度】
ワークシート,発言

4時間

展開① 発想・構想
マークのデザインを考える

① 取り上げた行事から1つ選び,使用する物やイメージすることを箇条書きにする。
② ①で箇条書きにした内容の事物の形を考える。
③ ②の形を組み合わせて新たなデザインを考える。形を工夫してコンセプトを伝えるために、使用できるのは1色だけとする。

① 手順を追って構想するように指導する。
② できる限り多くの物や事を箇条書きできるように支援する。思いつかない場合は,その行事について調べさせる等して理解を深められるようにする。
③ 1つの物や事だけを表現してもデザインにはならない。複数の要素をどのように組み合わせることができるか考えることが必要である。

マークワークシート(15.0KB)
板書計画(46.3KB)

【発想や構想】
【学びに向かう力,人間性等】
ワークシート,アイデアスケッチ

5時間

展開② 制作
① 枠線を引く。
② マークを描く。
③ レタリングをする。
④ コンセプトを書く。

評価について以下の3点を重視することを生徒に伝える。
① ムラなくはみ出さず丁寧に塗られているか。
② 個性豊かなデザインであるか。
③ デザインからコンセプトは伝わるか。

【知識・技能】
【主体的に学習に取り組む態度】
作品

1時間

まとめ
互いの作品を鑑賞する。

互いの感性の違いから生まれた作品を鑑賞し,よさを味わえるようにする。

【思考・判断・表現】
【主体的に学習に取り組む態度】
発言,態度

8.授業を終えて

 本題材は2学期に美術Ⅰで取り組む。興味深い点は,熟考した結果それぞれの生徒が,他者と異なるデザインをすることである。多様な生徒がいれば発想・構想もそれぞれ違う。以上からこの題材は生徒が他者との違いを楽しむことができる課題であると考える。
 前述したように本校の生徒は多様である。美術の授業を通じて多様性を受け入れ,自らの人生を幅広く豊かなものにできる生徒を育成したいと日々考えている。