学び!と共生社会

学び!と共生社会

インクルーシブ教育の構築と校長のリーダーシップ
2020.09.28
学び!と共生社会 <Vol.08>
インクルーシブ教育の構築と校長のリーダーシップ
大内 進(おおうち・すすむ)

 近年、複雑化・多様化した課題に対応するために校長のリーダーシップの発揮と組織的対応が求められています。そのことは、インクルーシブ教育システムの構築との関連においても同様です。
 インクルーシブ教育システムの構築の取り組みにおける校長のリーダーシップの発揮に関しては、すでに、2015年に答申された中教審初等中等教育分科会特別支援教育の在り方に関する特別委員会の報告の中で強調されています(*1)。「多様な学びの場の整備と学校間連携等の推進」の観点から専門家の活用の必要性を説明する文脈で「校長のリーダーシップの下、校内支援体制を確立し、学校全体で対応する必要があることは言うまでもない」と記されています。
 この一文は、この取り組みを学校経営方針にしっかりと位置付け、組織として共有していくことの重要性を指摘していますが、これは、校長が明確な方向性と組織的対応があってこそ成り立つものです。また、学校経営方針への明示は学校評価にも反映されることとなり、この取り組みが学校内外に可視化されてくることにもなります。
 ここで留意しなければいけないのは、インクルーシブ教育システムの構築が従前の特殊教育の単なる延長ではないという点です。これまでにも紹介してきたように、インクルーシブ教育システムの構築は、国連の障害者権利条約を批准したわが国としては、国として実現しなければならない重要課題です。現在の学校には、貧困状態にある子ども、不登校状態にある子ども、日本語指導の必要な子どもたちへの教育の保障なども大きな課題となっています。インクルーシブ教育システムの構築においては、障害がある子どもの教育のみならず、これまで義務教育で十分な処遇を受けてきているとはいえない子どもたちへの教育の保障も含めて「一人一人の子どもを大切にしていく」という視点が大切です。また、インクルーシブ教育をこのように広くとらえることによって、実際に指導に当たっている先生方のインセンティブも高まっていくのではないでしょうか。
 こうした状況下で、専門家の活用など新しいしくみも導入されてきているわけですが、導入の歴史が浅いだけに、専門家の視点と教育的な視点がかみ合わないといった課題が生じても不思議ではありません。こうした場面でも校長のリーダーシップの下での校内支援体制の確立が期待されることになります。2015年の答申には、「特別支援教育を充実させるための教職員の専門性向上等」の観点からも、「インクルーシブ教育システム構築のため、すべての教員は、特別支援教育に関する一定の知識・技能を有していることが求められる。特に発達障害に関する一定の知識・技能は、発達障害の可能性のある児童生徒の多くが通常の学級に在籍していることから必須」であって「学校全体としての専門性を確保していく上で、校長等の管理職のリーダーシップは欠かせない」と記されています。
 また、文部科学省では、今後の組織として学校の在り方として「チームとしての学校」という学校像を示し、それを実現していくための改善方策を検討しています(*2)。チームが機能するためにはベースとなる部分がしっかり共有されていなければなりません。「すべての教員は、特別支援教育に関する一定の知識・技能を有していることが求められる。」とはこのことに繋がります。的確な教育的ニーズの把握や具体的な授業改善を進めていく上でも、学校全体で一定水準の専門性を確保していくことは大変意義あることです。
 インクルーシブ教育システムの構築では、「障害の有無」に関心が行きがちですが、「一人一人の児童生徒を大切にする」ことが本質的なことです。教職員定数の算出が学級数や学校数に基づくというしくみが変わっていない現状において、校長のリーダーシップの基に組織的な対応をしていくことはいっそう大切なことだといえます。

*1:「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/044/houkoku/1321667.htm
*2:チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申)(中教審第185号)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1365657.htm