学び!とシネマ

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GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生
2020.12.24
学び!とシネマ <Vol.177>
GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生
二井 康雄(ふたい・やすお)

© Ladybirds Cinema

 アフリカのケニアに、94歳になる小学生がいる。プリシラ・ステナイというおばあちゃんだ。現地の言葉で、ゴゴ(おばあちゃん)と呼ばれている。ゴゴは、3人の子どもに、22人の孫、52人のひ孫がいる。もとは助産師で、住んでいる小さな村で、多くの出産に立ち会っていて、今なお、現役の助産師である。
 一応はドキュメンタリー映画だが、「GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生」(キノフィルムズ配給)は、おそらく世界で最年長の小学生の日常に寄り添ったエピソードが続き、劇的である。
 ゴゴは90歳で、6人のひ孫といっしょに、小学校に入学する。女の子は寄宿舎に入るので、ゴゴもまた自宅から寄宿舎に入る。90歳を過ぎると、耳は遠くなるし、片目は見えない。もういっぽうの目も、はっきりとは見えないようだ。ゴゴは、小さいときから、牛や鶏の世話などで、そもそも学校には行ったことがない。
© Ladybirds Cinema ゴゴは、算数の授業で、かけ算に答えるが、耳が遠いので、先生とのやりとりも厄介だ。みんなが昼寝をしていても、ゴゴは一生懸命に教科書を読んでいる。ひ孫のチェプコエチは、ゴゴの復習を手伝っている。ゴゴは、子どもたちに昔話を聞かせる。子どもたちは、熱心にゴゴの話に聞き入る。映画は、ゴゴの学校生活をゆったり、淡々と描いていく。
 みんなで、1週間のバス旅行に出かける。平原の向こうはタンザニアだ。キリンやライオンに出会って、みんなは大喜びだ。
 卒業試験が近づいているある日、ゴゴは94歳の誕生日を迎える。サミー校長先生をはじめ、みんながゴゴを祝ってくれる。ゴゴも尽力していた、女の子用の新しい寄宿舎が完成を迎える。ゴゴの名前をとって、ゴゴ・プリシラ・ステナイ寄宿舎という。ゴゴは、お祝いのスピーチをする。
 さあ、卒業試験が始まる。果たして、ゴゴは合格するのだろうか。
© Ladybirds Cinema いまでは、ケニアの子どもたちは、ほとんどが教育を受けられるようになったが、年配のことに女性たちは、そもそも学校に行けなかった。ゴゴは、「世界じゅうに教育の大切さを伝えることができるなら」と、映画の出演を引き受けたという。映画のタッチは、どこかで見たことがあると思っていたら、2014年の4月に本欄で紹介した「世界の果ての通学路」と同じ、フランスの映画監督パスカル・プリッソンの作品だ。「世界の果ての通学路」は、ケニア、アルゼンチン、モロッコ、インドの辺鄙な場所に住む子どもたちが、長い時間をかけて通学する様子を描いた傑作ドキュメンタリー映画だった。
 パスカル・プリッソン監督のこの新作は、小学校の授業風景や、子どもたちの生き生きとした表情、そして、ケニアの村の様子を活写する。自ずと、小さい子どもたちにとって、教育がいかに大切かが伝わってくる。
 映画の資料に、ゴゴの言葉が紹介されている。「世界中の全ての子供たち、特に少女たちに伝えたい。学校に行くことはあなたたちの力になり、財産となります。だから突き進んで下さい」。また、ゴゴのいる寄宿舎のドアには「学ぶことに年齢は関係ない」という看板が掲げられている。その通りである。

2020年12月25日(金)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開

『GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生』公式Webサイト

監督:パスカル・プリッソン
2019年/フランス/英語・スワヒリ語/カラー/スコープサイズ/DCP/5.1ch/84分/原題:Gogo/字幕翻訳:長澤達也
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ