学び!とESD

学び!とESD

ESDと気候変動教育(その3) すべての科目で気候変動を!
2021.08.16
学び!とESD <Vol.20>
ESDと気候変動教育(その3) すべての科目で気候変動を!
永田 佳之(ながた・よしゆき)

急展開する脱炭素社会に向けた動向

 昨秋に菅首相が2050年までに「脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」と所信表明で伝えて以来、気候変動対策等のめまぐるしい程の展開が続いています。2021年3月には地球温暖化対策の推進に関する法律の改正が閣議決定され、我が国として2050年までに脱炭素社会の実現を目指すことが法律に明記されました。
 教育行政では「気候変動問題をはじめとした地球環境問題に関する教育の充実について(通知)(*1)」が本年6月2日に出されました。文部科学省総合教育政策局長と文部科学省初等中等教育局長と環境省総合環境政策統括官の連名で、各都道府県教育委員会教育長や各指定都市教育委員会教育長、各都道府県知事などに充てて出された通知です。「国民一人一人のライフスタイルを脱炭素型へと転換していくことが重要であり、持続可能な社会の創り手となることが期待される子供たちが、地球環境問題について理解を深め、環境を守るための行動をとることができるよう、地球環境問題に関する教育(以下「環境教育」という。)を今後ますます充実していく」ことの重要性が伝えられ、ESDにも言及されています。
 「ESDと気候変動教育(その1)」で指摘したように、気候変動に取り組む際に、ESDの知見を最大限に活かすことが求められ、特に「ホールスクール・アプローチ」は国際的に共通の重要課題です。ESD for 2030(「学び!とESD」Vol.18)でも強調され、上記の通知にもこのアプローチが言及されています。
 ここでは「その1」の表1で示した「学校全体のコミュニティを気候アクションに巻き込む」チャレンジに続いて、各教科で何ができるかについて考えます。

すべての科目で扱う気候変動

 「学習」は「ホールスクール」の一部と見なされるとはいえ、最も重要な気候変動教育の領域です。「学校まるごと」で臨むので、そこでは全ての科目で気候変動を扱うことが求められるのです。
 ユネスコはパリ協定の前から国際セミナー等でその重要性を訴えてきました。具体的には表1のようになります。

表1 科目ごとの気候変動教育の可能性

科目

実践例

農業/ガーデニング

◆校内菜園やコンポスト(堆肥)を設計し、維持する
◆農業に従事する地元の人(男性及び女性)をインタビューし、気候変動がいかに彼(女)らに影響を与えるのかを学ぶ

芸術(映像及びパフォーマンス)

◆気候変動の影響を示すポスターを創る
◆環境がテーマの歌やメッセージを分析する

生物

◆気候変動がいかにマラリアなどの病疫を広めるのかを調べる
◆地元の地域や校内で生物多様性に関する計測を行う

公民/シチズンシップ

◆地元の市役所職員に気候変動に取り組むアクションについてインタビューする
◆地元のビーチや公園での清掃活動を計画する

地理

◆街並みができた理由とその影響について調べるフィールド・トリップを行う
◆気候変動のせいで危機的状況にある世界の諸地域を示すマップを創る

保健・体育

◆学校周辺のトレイルをハイキングし、自然環境への敬意を示す
◆大気汚染などの環境問題を要因とする健康被害について調べる
◆アクティブ・トランスポーテーション* など、健康によい実践の環境的な利点をリストアップする

歴史

◆歴史を通していかに諸々の社会が環境課題に応え、困難を解消してきたのかを調べる
◆伝統的な生態系に関する知識を研究し、地元の持続可能な開発問題にいかに応用し得るかを考える

言語・文学

◆ローカルかつグローバルな問題について発表するのに必要なコミュニケーション技能を磨く
◆気候変動に関する写真やビデオに応答する詩や物語を書く

算数・数学

◆学校のエネルギー利用における変化を示すグラフを作成する
◆ローカル及びグローバルなレベルで見られる性差別や貧困、栄養失調に関する統計をもとに計算する

理科・技術

◆気候に影響を与える自然界及び人間による影響を調べる
◆よく使用されている化学物質の社会・環境・経済的な影響について評価する

職業・技術教育

◆男女の労働者の健康及び環境を守ることを目指し、職場の安全性を評価する諸々の手段を用いる
◆社会・環境的な課題解決にむけた技術的な手段は何かを明らかにする
◆製品やデザインに関する環境・社会的責任を採り入れる

訳注)*「アクティブ・トランスポーテーション」:健康増進にもつながる自転車通勤など、移動以外の価値も付与された移動手段。
出典)‘Teaching Climate Change in Every Subject. UNESCO(2016, p.12) 訳:筆者。

 表1はユネスコが作成した「全ての科目で気候変動を教える」の邦訳です。国際的に標準的な教科名が用いられているため、日本のカリキュラムでは馴染みのない名称がリストされているかもしれませんが、例えば日本の場合は「農業/ガーデニング」を総合的学習の時間として、「言語・文学」を国語として柔軟に捉えていただければと思います。
 表全体を見てみると、気候変動は理科や地理などで扱えば良いというわけではなく、ありとあらゆる科目で扱えるトピックであることが分かります。

 表1の実践例はあくまでも例示であり、各教科で何ができるのかについてはカリキュラム策定の担当者や現場の教師がそれぞれの現場に適した内容を自身で作成し、学年や学校全体に相応しい実践例を同僚の教職員や生徒たちと話し合って開発していくことが望ましいですし、そのプロセス自体が「ESDらしさ」だと言えます。
 来月号の「その4」では、エネルギーやゴミなどのトピックごとの気候変動アクションについて考えます。

*1:「気候変動問題をはじめとした地球環境問題に関する教育の充実について(通知)」(ESD-Jウェブサイトより)
https://www.esd-j.org/wp/wp-content/uploads/2021/06/ClimateChangeE-s.pdf

【参考文献】

  • UNESCO (2016) Getting Climate-Ready: A Guide for Schools on Climate Action.
  • 永田佳之(2019)『気候変動の時代を生きる:持続可能な未来へ導く教育フロンティア』山川出版社.
  • 『気候変動と教育に関する学際的研究:適応と緩和のためのESD教材開発と教員研修』(平成27-29年度科研費(挑戦的萌芽研究)研究課題 No.15K13239 研究代表者:永田佳之)2018年.(本稿の一部はこの報告書の記述に基づいています)