学び!とESD

学び!とESD

ESDと気候変動教育(その4) いざ、気候アクションへ!
2021.09.15
学び!とESD <Vol.21>
ESDと気候変動教育(その4) いざ、気候アクションへ!
永田 佳之(ながた・よしゆき)

大人に失望する若者たち

 持続可能な未来の基盤をつくるESDには、言うまでもなく世代間の理解や対話が欠かせません。ところが、近年、世界中で学校を休んでまで気候ストライキに参加する若者が急増し、次世代の多くが大人たちに失望していることも伝えられるに至りました。理由は、気候危機を自ら招きながら目先の利益ばかり追求して問題解決に本気で取り組もうとしないからです。
 そうした大人社会を批判する急先鋒とも言えるスウェーデンの環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんの次の言葉は一考に値します。彼女は、2019年9月に開催された国連での気候変動対策サミットにて各国の首脳に向けて次のように語りました。

私が伝えたいことは、私たちはあなた方を見ているということです。そもそも、すべてが間違っているのです。私はここにいるべきではありません。私は海の反対側で、学校に通っているべきなのです。あなた方は、私たち若者に希望を見いだそうと集まっています。よく、そんなことが言えますね。あなた方は、その空虚な言葉で私の子ども時代の夢を奪いました。(中略)あなた方は私たちを裏切っています。しかし、若者たちはあなた方の裏切りに気づき始めています。未来の世代の目は、あなた方に向けられています。もしあなた方が私たちを裏切ることを選ぶなら、私は言います、「あなたたちを絶対に許さない」と。

 各国の首脳が参加していたサミットで16歳(当時)の少女がこのように怒りをあらわにしたのは記憶に新しい人も多いでしょう。ただ、考えようによっては、気候変動という地球規模課題は大人にとって信頼回復のチャンスであると言えましょう。
 では、学校で大人たちは未来世代への「本気度」をどのように伝えることができるのでしょう。国際社会では、この問いに対する答えが本連載で繰り返し主張しているホールスクール・アプローチです。体系的に学校全体(まるごと)で持続可能性を実装していくことが未来世代の要望(潜在的な声も含めて)に私たちが誠実に応えていくこの上ない手立てとなるのです。

学校を気候アクションのモデルにする

 SDGsに関して「教室で教えることを校内から実践しよう!」…学校でできるアクションは明快です。「ESDと気候変動教育」の「その1」及び「その2」でいくつかの切り口と手立てを示しましたが、今回はテーマごとのアクションについて共有したいと思います。筆者が関わってきたユネスコの会議や事業の成果として、ユネスコはアクションの具体例を気候変動に関連するテーマごとに示しています。

表1 気候アクションのテーマと具体例

テーマ

気候アクションの具体例

生物多様性と自然

◆土着の花や低木、フルーツや野菜を植える
◆遊び場や野外の学び場、校舎に日陰を作る木々を植える

エネルギー

◆使っていない時には電気やコンピューター等の電気製品を消す
◆効果的に作動しているかどうかを確かめるために定期的に器具を点検する

責任を負う消費

◆地元の物を買う
◆責任を伴った労働や健康や安全に配慮されて作られた農園・農場・工場の製品を購入する

健康と幸福

◆校内カフェテリアで健康的かつ有機で地元産、さらに最低限の包装での食品提供を行う
◆定期的な手洗いを勧められるように流しと蛇口の維持管理をする

ゴミと屑

◆ゴミを出さないお弁当をもってくるように生徒と職員に促す
◆生徒と職員に対して正しい場所でのゴミ捨てを促すために要所にリサイクル用と堆肥用と容器用のゴミ入れを設置する

交通

◆生徒や学校職員に持続可能な交通を利用するように促す
◆新しい校舎を建てる場合は公共交通機関により容易にアクセスできる地域に設置する

◆利用していない時には水を止める
◆舗装された道路を大嵐の雨水を溜めておけるような自然素材の舗装に替える
◆全ての化学物質が適切に処分されているか確認する(単に排水口に流すだけでなく)

理科・技術

◆気候に影響を与える自然界及び人間による影響を調べる
◆よく使用されている化学物質の社会・環境・経済的な影響について評価する

職業・技術教育

◆男女の労働者の健康及び環境を守ることを目指し、職場の安全性を評価する諸々の手段を用いる
◆社会・環境的な課題解決にむけた技術的な手段は何かを明らかにする
◆製品やデザインに関する環境・社会的責任を採り入れる

出典)‘Modeling Climate Action’. UNESCO(2016, p.15) 訳:筆者

 気候変動や地球温暖化と聞くと、時間的にも空間的にもスケールが大きすぎて、どこから着手して良いのか途方に暮れる、とよく聞きます。しかし、表1を見ると、日常の身近なところからアクションを起こせる機会に満ちていることが分かります。表に示された例は授業に限らず取り組めるアクションです。総合学習や特別活動、校外学習、遠足(修学旅行)などの参考にもなるでしょう。こうした具体的なアクションと授業での学びを有機的に結びつけるなど、子ども達は地球とのつながりについて想いを巡らし、未来への希望を自ずと持つことができるようになるのではないでしょうか。
 校内環境は気候変動教育で大切にされるべき価値観そのものを反映したものでなくてはなりません。木を植えたり、コンポストを作ったり、エネルギーを効率よく使用したり、紙などの資源を節約したり、節水したり、昔からの施設・設備を修繕したりすることは、当然ながら経済的な恩恵をもたらしますし、何よりもそうした実践に挑む管理職や教師、さらには保護者や地域の大人たちの姿勢から未来世代が何にも代えがたい価値観を学ぶことでしょう。「国連ESDの10年」の当初より強調されてきたことですが、ESDは価値志向性の強い教育であり、気候危機の時代を迎え、その性格がより強調されるようになったと言えるでしょう。
 次回は、こうしたアクションが軌道に乗り、その営み自体が持続的になるような評価について考えてみたいと思います。

【参考文献】

  • UNESCO (2016) Getting Climate-Ready: A Guide for Schools on Climate Action.
  • 永田佳之(2019)『気候変動の時代を生きる:持続可能な未来へ導く教育フロンティア』山川出版社.