中学校 美術
中学校 美術

1.題材名
「ミニチュアの世界で表現する『思い出のワンシーン』」(第3学年/9時間)
2.題材設定とねらい
ミニチュア写真家である田中達也の作品をみると、日常には面白いものがたくさん溢れていることに気づかせてくれる。普段と視点を変えることで生まれる新たな世界や、見立ての面白さを生徒たちにも味わってもらいたいと考え、題材を設定した。自分なりに見つけた造形的なよさや面白さ、感動を、自分の作品づくりや鑑賞活動にもつなげることができれば、表現活動の幅も広がると考えている。中学3年生にふさわしく、自分の身の周りだけではなく、他者や社会との関わりを意識したりこれまでの経験を関連付けたりして、主題を生み出せるようにしたい。
3.準備(材料・用具)
4.評価規準
知 形や色彩などの性質や、それらが感情にもたらす効果、造形的な特徴などから全体のイメージや作風などで捉えることを理解している。
技 素材の特徴や表現効果を理解し、意図に応じて工夫し創造的に表している。
発 お互いの思い出の場面やその時の気持ちなどを共有する中で、自分自身の内面と重ねて主題を生み出し、感じ取ったことや考えたことを自由に工夫して構想を練っている。
鑑 見立てによるミニチュアの世界の造形的なよさや美しさを感じ取り、作者の心情や表現の意図と工夫などについて考えるなどして、見方や感じ方を深めている。
態表 態鑑 自然物や人工物を別のものに見立て新たな世界を表現することの喜びを味わい、素材がもつ造形的な美しさやおもしろさなどを基に表現したり鑑賞したりする学習活動に取り組もうとしている。
5.本題材の指導にあたって
本題材は、ミニチュア写真家である田中達也の見立てによるミニチュアの世界を味わい、その世界の中で自分自身の中学校3年間の思い出の場面を表現するというテーマで主題を生み出し、表現する活動である。学習指導要領では、A表現(1)ア(ア)について、[第2学年及び第3学年]は「対象や事象を深く見つめ感じ取ったことや考えたこと、夢、想像や感情などの心の世界などを基に主題を生み出し、単純化や省略、強調、材料の組合せなどを考え、創造的な構成を工夫し、心豊かに表現する構想を練ること」が求められている。主題設定の場面では、お互いが感じていることを自由に語り合いながら、3年生としてこれまで培ったものや、仲間と共に頑張ってきたこと、努力や葛藤そして未来への期待や憧れなどを表現できるような主題を考えさせたい。また、グループで見立てのアイデアを出し合う中で、新たな発見をしたり、それぞれの思い出を尊重しながら話し合ったりすることで、生徒の内面から主題を引き出していきたい。
見立てや全体のイメージなどの構想を練る場面では、主題の中心となるものをどのように表現するのか、素材や色彩、撮影場所などを十分に話し合わせ、構成を試行錯誤しながら表現の組み立てを工夫させたい。その際、スケッチブックに自分の感じたことや考えたことを自由にアイデアスケッチすることで、構想を練ることができるようにする。
ミニチュアの人形を成形する際、紙粘土や針金の他に様々な材料や用具の特性を生かして具体的な形を成形させたい。また、温かさ、優しさ、激しさなどの感情にもたらす効果も考えながら、自分の意図に合う表現方法を模索し、創造的に表現できるようにしたい。
鑑賞の場面では、「見立て」「色彩」「構成」などのいくつかの鑑賞の視点を設定し、造形的なよさや美しさを感じとれるようにする。見立ての工夫や材料の使い方などの表現の工夫にも着目しながら鑑賞し、お互いの作品のよさや美しさなどの価値を、生徒同士で発表し批評し合い、新たな発見を導くなど、深い鑑賞活動につなげたい。
6.題材の指導計画
時 |
学習活動の流れ |
◆:指導上の留意点 ◎:評価方法 |
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1 |
○PCやタブレット端末で、田中達也の「MINIATURE CALENDAR」(ミニチュアカレンダー)を鑑賞する。 |
◆鑑賞の際には、見立てに着目するよう促す。 |
2~3 |
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○アイデアスケッチをする。 |
◆人形の詳細や、場面について、具体的にアイデアスケッチをさせる。 |
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4~7 |
○紙粘土で人形を作る。 |
◆針金や紙粘土の扱いを説明する。 |
8 |
○場所や素材と組み合わせて、撮影をする。
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◆撮影のアングル(角度)、人形や材料等の配置の工夫を話し合い、試行錯誤しながらより良い構成を考えられるようにする。 |
9 |
○ミニチュアの世界を発表する。 |
◆それぞれの思い出を表現するために、どのような工夫をしたか、具体的に発表できるようにする。 |
・発表を聞き、自分の感じたことや作品についての考えを書いたり述べたりする。 |
◆生徒がワークシートに自分の感じたことや作品についての考えを書きながら鑑賞できるようにする。 |
7.本時の学習
・素材の特徴や表現効果を理解し、意図に応じて工夫し創造的に表す。
・部分や全体に着目して構成の仕方を試行錯誤しながら表現の組み立てを工夫していく。
・何かを別の何かに見立てて新たな世界を表現することの喜びを味わう。
・活動の中で、その時の状況や感情を再現したり思い出を分かち合ったりする。
・素材がおりなす造形などを基に表現する学習活動に取り組もうとする。
主な学習活動・内容 |
◇指導の工夫や教師の支援 |
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○本時の内容の確認。 |
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・グループごとに写真撮影のための構成を確認する。 |
◇生徒がワークシートやスケッチブックを見て、全体のイメージを確認できるようにする。 |
○撮影場所へ移動し、構成を考えながら撮影する。 |
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・実際にミニチュア人形や材料を配置して構成を考える。 |
◇グループ内で思い出の場面をふり返り、テーマに近づくような材料、色彩の組み合わせや視点を話し合いながら、構成を決められるようにする。 |
・グループ内のメンバーの色々な視点を取り入れて、構成を工夫する。 |
◇色々な視点やアイデアを取り入れ、グループ活動の良さを生かせるようにする。 |
8.他の作品例
2023年度制作の生徒作品例(大槌学園にて)。学校内での一場面に限らず、修学旅行等の校外学習や休日の思い出など、より多様な場面を対象とした。
全員分の「コメント付き作品シート」をボードに張り付けて展示した。
展示にあたっては、田中達也の鑑賞画(日本文教出版発行)も活用している。
生徒のコメント
「ホチキスの針をビルに、シャープペンシルを東京スカイツリーに見立てて、東京の街並みを表現しました。東京スカイツリーを見に行ったとき、高所恐怖症で怖い思いをして一番思い出に残っているので再現しました。」
生徒のコメント
「青いペットボトルの光の反射を海に、綿を波に見立て、海岸で遊ぶ様子を表現しました。
夏休み、友達と海で遊んだことが思い出に残っているので、その場面を見立ての世界で表現しました。光がきれいに反射する位置を調整し、影を作ることを工夫しました。」
生徒のコメント
「ホチキスの針をビルに見立てて、東京の街並みを表現しました。修学旅行の夜に実際に見た東京の街並みが凄く綺麗で感動しました。その光景が心に残っているので、その場面を見立ての世界で表現しました。ホチキスの高さや位置を工夫してリアルにビルに見えるように再現しました。」
生徒のコメント
「クリップを新幹線の座席に見立てました。ほかにも、ホチキスの針をビルに、セロハンテープを窓に見立てました。新幹線の上から、見下ろしているという構図で撮りました。」
生徒のコメント
「定規を未来館のガラスの手すりに見立てて、真ん中に大きな地球を見上げているところを再現しました。入ってすぐ見上げると、巨大な地球型スクリーンがあり、初めて見た時の衝撃を遠くから見たような構図で表現しました。」