中学校 美術

中学校 美術

「ミニチュアの世界で表現する『思い出のワンシーン』」(第3学年)
2021.08.27
中学校 美術 <No.014>
「ミニチュアの世界で表現する『思い出のワンシーン』」(第3学年)
岩手県大槌町立大槌学園 教諭 奥村理奈

1.題材名

「ミニチュアの世界で表現する『思い出のワンシーン』」(第3学年/9時間)

2.題材設定とねらい

 ミニチュア写真家である田中達也の作品をみると、日常には面白いものがたくさん溢れていることに気づかせてくれる。普段と視点を変えることで生まれる新たな世界や、見立ての面白さを生徒たちにも味わってもらいたいと考え、題材を設定した。自分なりに見つけた造形的なよさや面白さ、感動を、自分の作品づくりや鑑賞活動にもつなげることができれば、表現活動の幅も広がると考えている。中学3年生にふさわしく、自分の身の周りだけではなく、他者や社会との関わりを意識したりこれまでの経験を関連付けたりして、主題を生み出せるようにしたい。

3.準備(材料・用具)

教師:紙粘土、芯材(針金や紙など)、撮影用カメラorタブレット端末、電子黒板orスクリーン
生徒:筆記用具、スケッチブック、ポスターカラーorアクリルガッシュ、面相筆、校舎内外で見つけた見立ての素材

4.評価規準

知識・技能
 形や色彩などの性質や、それらが感情にもたらす効果、造形的な特徴などから全体のイメージや作風などで捉えることを理解している。
 素材の特徴や表現効果を理解し、意図に応じて工夫し創造的に表している。

思考・判断・表現
 お互いの思い出の場面やその時の気持ちなどを共有する中で、自分自身の内面と重ねて主題を生み出し、感じ取ったことや考えたことを自由に工夫して構想を練っている。
 見立てによるミニチュアの世界の造形的なよさや美しさを感じ取り、作者の心情や表現の意図と工夫などについて考えるなどして、見方や感じ方を深めている。

主体的に学習に取り組む態度
態表 態鑑 自然物や人工物を別のものに見立て新たな世界を表現することの喜びを味わい、素材がもつ造形的な美しさやおもしろさなどを基に表現したり鑑賞したりする学習活動に取り組もうとしている。

5.本題材の指導にあたって

 本題材は、ミニチュア写真家である田中達也の見立てによるミニチュアの世界を味わい、その世界の中で自分自身の中学校3年間の思い出の場面を表現するというテーマで主題を生み出し、表現する活動である。学習指導要領では、A表現(1)ア(ア)について、[第2学年及び第3学年]は「対象や事象を深く見つめ感じ取ったことや考えたこと、夢、想像や感情などの心の世界などを基に主題を生み出し、単純化や省略、強調、材料の組合せなどを考え、創造的な構成を工夫し、心豊かに表現する構想を練ること」が求められている。主題設定の場面では、お互いが感じていることを自由に語り合いながら、3年生としてこれまで培ったものや、仲間と共に頑張ってきたこと、努力や葛藤そして未来への期待や憧れなどを表現できるような主題を考えさせたい。また、グループで見立てのアイデアを出し合う中で、新たな発見をしたり、それぞれの思い出を尊重しながら話し合ったりすることで、生徒の内面から主題を引き出していきたい。
 見立てや全体のイメージなどの構想を練る場面では、主題の中心となるものをどのように表現するのか、素材や色彩、撮影場所などを十分に話し合わせ、構成を試行錯誤しながら表現の組み立てを工夫させたい。その際、スケッチブックに自分の感じたことや考えたことを自由にアイデアスケッチすることで、構想を練ることができるようにする。
 ミニチュアの人形を成形する際、紙粘土や針金の他に様々な材料や用具の特性を生かして具体的な形を成形させたい。また、温かさ、優しさ、激しさなどの感情にもたらす効果も考えながら、自分の意図に合う表現方法を模索し、創造的に表現できるようにしたい。
 鑑賞の場面では、「見立て」「色彩」「構成」などのいくつかの鑑賞の視点を設定し、造形的なよさや美しさを感じとれるようにする。見立ての工夫や材料の使い方などの表現の工夫にも着目しながら鑑賞し、お互いの作品のよさや美しさなどの価値を、生徒同士で発表し批評し合い、新たな発見を導くなど、深い鑑賞活動につなげたい。

6.題材の指導計画

学習活動の流れ

◆:指導上の留意点 ◎:評価方法
下線部:造形的な視点に関する事項

1

○PCやタブレット端末で、田中達也の「MINIATURE CALENDAR」(ミニチュアカレンダー)を鑑賞する。
https://miniature-calendar.com/about/
○身近にあるものを別のものに見立てて新たな世界をつくっていることに気づく。

◆鑑賞の際には、見立てに着目するよう促す。
◆自分が注目した作品について、グループ内で意見交流させる。
 「見立て」という言葉を用いて田中達也の世界を紹介することができる。
▶発問例「どのようなものを使って、どのような場面をつくっていますか。」「どのような視点で見ていますか。」「作品のタイトルやコメントにも注目してみよう。」
態鑑 自然物や人工物を別のものに見立てて新たな世界を表現することの喜びを味わい、学習活動に取り組もうとしている。
【ワークシート】自分が気づいた見立ての面白さの記述。

2~3

この時間からグループ活動
○テーマを決定する。
・3年間の活動を振り返り、お互いの思い出を自由に語り合う。
・ミニチュアの世界で表すテーマを決める。共有したそれぞれの思い出を合わせてテーマをつくることも考えられる。
○校舎内外を巡り、見立てができそうな場所や素材を見つけて話し合う。


◆お互いの思い出についてその場面や気持ちなどを共有し合い、尊重しながら聞くように促す。
【ワークシート】自分の思い出の整理。その後の話し合いの土台とする。

○アイデアスケッチをする。
・表現方法や仕上がりのイメージなどについて、構想を練る。
・スケッチブックにミニチュア人形の構想や見立てのアイデアなどを書く。

生徒のアイデアスケッチ。人形の配置や撮影における詳細など、具体的に記載している。

生徒のアイデアスケッチ。ジェットコースターを楽しむ場面。黒板の引き出し(チョーク入れ)をコースターに見立てている。

◆人形の詳細や、場面について、具体的にアイデアスケッチをさせる。
 思い出の場面を話し合い、人形の構想や見立てのアイデアスケッチをしている。

4~7

○紙粘土で人形を作る。
・針金や紙を心材にし、周りに紙粘土を少しずつ貼り付けながら人形を形成していく。
・人形に着彩する。

◆針金や紙粘土の扱いを説明する。
表現方法の工夫(色、形)を見つけることができる。
 材料や用具の特性を生かして人形を形成しようとしている。

8
(本時)

○場所や素材と組み合わせて、撮影をする。
・テーマに沿った場所や物を用意し、作った人形と合わせてミニチュアの世界を表現し、撮影する。

釜石で行われた「ラグビーワールドカップ」を観戦した思い出。
・昇降口の砂落としを芝生に見立てている。
・ゴールはストローで作成。

体育祭の「アピール応援」の発表場面。
・朝礼台の錆を土に見立てている。
・鉢巻や旗などは色紙等で作成。
・アングルや配置を工夫して撮影している。

撮影のアングル(角度)人形や材料等の配置の工夫を話し合い、試行錯誤しながらより良い構成を考えられるようにする。
臨場感の表現、人形目線などの工夫、その世界の中でどこにスポット(=ピント)を当てるか、など。
▶発問例「ミニチュアの世界に住む人形になったつもりで、目線やスケール感を変えてみよう。どのように印象が変わるかな?」「リアリティのある表現のためには、どのような目線で見れば良いかな?」

9

○ミニチュアの世界を発表する。
・グループごとに、完成したミニチュアの世界の写真を、モニターに映して発表する。

◆それぞれの思い出を表現するために、どのような工夫をしたか、具体的に発表できるようにする。

・発表を聞き、自分の感じたことや作品についての考えを書いたり述べたりする。

◆生徒がワークシートに自分の感じたことや作品についての考えを書きながら鑑賞できるようにする。
◎それぞれのグループの見立ての工夫や造形的なよさや美しさを感じ取り、作者の心情や表現の意図と工夫などについて考えるなどして互いの作品を深く味わおうとしている。

7.本時の学習

①目標
・素材の特徴や表現効果を理解し、意図に応じて工夫し創造的に表す。
・部分や全体に着目して構成の仕方を試行錯誤しながら表現の組み立てを工夫していく。
・何かを別の何かに見立てて新たな世界を表現することの喜びを味わう。
・活動の中で、その時の状況や感情を再現したり思い出を分かち合ったりする。
・素材がおりなす造形などを基に表現する学習活動に取り組もうとする。

②学習展開

主な学習活動・内容

◇指導の工夫や教師の支援
◆評価の留意点

○本時の内容の確認。
・本時の学習課題を確認する。


◇学習課題「場所や素材(自然物、人工物)と組み合わせて、写真を撮る。」を提示する。

・グループごとに写真撮影のための構成を確認する。

◇生徒がワークシートやスケッチブックを見て、全体のイメージを確認できるようにする。

○撮影場所へ移動し、構成を考えながら撮影する。

・実際にミニチュア人形や材料を配置して構成を考える。

◇グループ内で思い出の場面をふり返り、テーマに近づくような材料、色彩の組み合わせや視点を話し合いながら、構成を決められるようにする。

・グループ内のメンバーの色々な視点を取り入れて、構成を工夫する。

◇色々な視点やアイデアを取り入れ、グループ活動の良さを生かせるようにする。
◆構成を話し合いながら、その時の状況や感情を再現したり思い出を分かち合ったりする。
◆部分や全体に着目して構成の仕方を試行錯誤しながら表現の組み立てを工夫している。