学び!と共生社会

学び!と共生社会

北欧諸国に学ぶインクルーシブ教育の本質
2022.01.25
学び!と共生社会 <Vol.24>
北欧諸国に学ぶインクルーシブ教育の本質
大内 進(おおうち・すすむ)

 今回は、北欧のフィンランド、スウェーデン、ノルウェー、デンマークの4か国のインクルーシブ教育への取り組みを取り上げます。障害のある子どもとない子どもが共に学ぶことが即インクルーシブ教育ではありません。小学校、中学校の先生方にはこのことを知っていただきたいのですが、北欧諸国の取り組みは「インクルーシブ教育の本質」を教えてくれます。(*1)

各国のインクルーシブ教育への取り組みの特徴

フィンランド

 フィンランドは、日本でいう特別支援学校は残しつつも、できるだけ多くの子どもが地域の学校で学ぶことができる仕組みを整えてきました。つまり、特別支援学校はあるもののニーズがあるからといって安易にそこへの就学を進めるのではなく、基礎学校(小・中学校)での支援を強化することに力を注いでいるのです。そのために三段階支援という仕組みやCo-teaching(協働による指導)という方法が用意されています。三段階支援は段階的にインクルーシブ教育を促進しようとするものです。まずは、「一般支援」として通常の学級の担任がすべての在籍児の困難に早期対応し(第一段階)、それが十分ではないと評価された場合は「強化支援」を行う(第二段階)、それでも十分でない場合は個別に「特別支援」を行う(第三段階)という仕組みです。Co-teachingというのは、複数の教員が協力し合って授業を行うという形態です。フィンランドは、PISA調査において優秀な成績を残していますが、こうした支援の積極的活用も功を奏してしているようです。

スウェーデン

 スウェーデンも特別支援学校はありますが、原則として場にかかわらず児童生徒一人一人のニーズに応じた教育内容を保障することを重視しています。特徴的なのは特別支援学校が知的障害のみを対象としていることです(*2)。それ以外の障害のある子ども(聴覚障害を除く)は、教員や補助教員の指導の工夫の下で原則として通常の学校で学び、コメディカルスタッフ(編集部注:医師・看護師以外の医療従事者)がそろった専門機関が支援するという形態をとっています。
 また、特別支援学校の多くが、通常の学校と敷地を共有している点も大いに示唆を与えてくれます。様々な形態で共に学習が生活をすることが可能となり、インクルーシブな教育環境となるように配慮されているといえます。

ノルウェー

 ノルウェーでは、イタリアと同様に特別支援学校が原則廃止されています。学習指導要領を一元化し、特別なニーズがある子どもは自治体の教育心理研究所の支援を受けて通常の学校で学んでいます。そのために常に教育環境を分析して、望ましい学習環境を開発していこうとする取り組み(LPモデル)に力が注がれています。一人一人の子どもを取り巻く環境(家庭・学校・教員・医療機関等)を組織的に整えることで、子どもの可能性を伸ばそうとしているのです。環境の中では教師の指導力が最も重要だということは言うまでもありません。
 また、「積極的行動とメンタルヘルス(PALS)」という、学校全体で取り組む研修・指導モデルもあります。積極的行動支援のために肯定的な言動や適切な行動の教示によってより良い学習環境を構築することをねらいとしたものです。

デンマーク

 デンマークには特別支援学校や特別支援学級もありますが、多様な形態で地域性を反映したニーズに柔軟に対応した教育が行われています。全ての子どもへ個別の配慮からスタートし、特別支援教育で対応するかどうかの判断は、教育心理研究所(PPR)の心理士、言語療法士、社会福祉士等の専門スタッフが行っています。子どものニーズを判定し、教員や保護者に学校や家庭での様子についても聞き取り、指導計画作成も行います。また、デンマークには、ペダゴーという指導員の制度があり、校内で特別な支援が必要な子どもの支援にあたっています。ペダゴーは教員同様に大学の専門課程で養成されていて、学校では、一人一人の子どもの生活支援や近年では学習の支援も行うようになっています。行動・情緒面の支援を専門に行う教員(AKT)も養成され、学校での重要な役割を担っています。ノルウェーのLPモデルやPALSも活用されています。

北欧のインクルーシブ教育から学ぶこと

 北欧諸国のインクルーシブ教育への取り組みの一端を紹介してきましたが、形態は異なっていても、特別支援からスタートするのではなく、すべての子どもへの支援という視点からスタートするところが各国で共通しています。インクルーシブ教育は多様な子どもが存在することを前提としているのであって、通常の学級が従来の形態のまま特別な支援を必要とする子どもを受け入れるということではないのです。
 また、学校がすべてのことを担うのではなく、学校内外の多職種の人材がチームで関わっているところも各国で共通しています。日本でも専門家との関わりの機会は増えてきています。専門的なところは専門家に任せ、小・中学校の教員であってもそれをしっかり活用できる力をつけることが大事だということを教えてくれています。
 最後に、参考にした書物からインクルーシブ教育の本質を突いている北欧の研究者の感想を紹介しておきたいと思います。

「日本の学校を訪問する機会があった。(中略)来客者にはスリッパが用意されていた。綺麗にされていて素晴らしいと思う反面、ワンサイズのスリッパしか用意されておらず、筆者もそして他の男性研究者も足が入らなくて困ってしまった。インクルーシブ教育を研究している者の視点では、『ある学校の中に一つのサイズのスリッパしかないのはインクルーシブ教育ではなく、いろいろな場面や設定に対して柔軟でなければならない。』」(*1)

 「思いやり」や「おもてなし」という心地よい響きとは裏腹に、日本のインクルーシブ教育が見逃しがちな一面(画一的、同調主義)を指摘しているようにも思えます。

【引用文献】
*1:今回の紹介に際しては、石田祥代・是永かな子・眞城知己編著『インクルーシブな学校をつくる 北欧の研究と実践に学びながら』を主に参考にしました。この本は、長年の現地調査の基づいた研究蓄積に加えて、北欧各国の研究者らも参加したシンポジウム報告などを基に刊行されたもので、信頼度が高いと判断したからです。
*2https://www.jiji.com/jc/v4?id=202008stsg0005
サリネンれい子「学びと発達の権利」とは? 福祉の国、スウェーデンの特別支援学校事情」