学び!とESD

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ESDと気候変動教育(その10) ユネスコの報告書から読みとく気候変動教育の課題
2022.03.15
学び!とESD <Vol.27>
ESDと気候変動教育(その10) ユネスコの報告書から読みとく気候変動教育の課題
奈良 明日香(永田研究室大学院生)

図1 出典:UNESCO(2021a) 『すべての学校を気候変動に備える: 各国はいかに気候変動の課題を教育に統合しているか』(Getting Every School Climate-ready: How Countries Are Integrating Climate Change Issues in Education)という気候変動教育の報告書が、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)にてユネスコより公表されました(図1)。これまでにも触れてきたように(「学び!とESD」Vol. 24 25 )、この報告書では、気候変動教育の様々な現状と課題が明らかにされています。
 本号では、報告書が伝える気候変動教育の現在、カリキュラムと教え手の備えの、2つの観点から紹介します。

気候変動教育を、全ての国の、全ての学年、全ての学習分野の中核に

 気候変動に関する知識、スキル、価値観、そしてアクションは、学習の分野や学年を超えて、カリキュラムに組み込まれることが必要です。上記の報告書が最初に伝えているのは、調査した100か国のナショナル・カリキュラム(学習指導要領)のうち、気候変動について言及しているのは53%だということです。またナショナル・カリキュラムのうちの40%については、言及はあってもその度合いが最小限だと評価されています。
 気候変動に関する内容の地域差についても報告があります。図2が示すように、オセアニアやサハラ以南のアフリカといった気候変動の影響を受けやすい地域の国々は、その内容を広く盛り込んでいます。一方で、二酸化炭素(CO2)を多く排出し気候変動の原因に強く加担している国々は、大きく遅れを取っていることも明らかになりました。

図2 各地域のナショナル・カリキュラムに気候変動の内容はどの程度含まれているか
出典:UNESCO(2021a)Figure3

 さらに、気候変動教育が行われるのは初等・中等教育が中心であり、TVET(技術・職業教育・訓練)、高等教育、教員養成ではさして見受けられない傾向も分かりました。
 ちなみに、今回の報告書に日本への個別の言及はありませんが、この報告書が土台としている別の調査(UNESCO 2021b,p.33)は、文部科学省の計画や学習指導要領で使われている環境問題関連の用語から、日本の環境教育を評価しています。具体的には、「環境」「持続可能性」「生物多様性」「気候変動」に関わる用語を抽出し、抽出された用語全体を100%とした場合に各分野の用語がどの程度の割合で登場するかを明らかにしています。例えば「環境」分野では「環境(environmental)」、「エコシステム(ecosystem)」などの用語が、「気候変動」分野では、「温室(greenhouse)」、「地球温暖化(global warming)」、「気候変動(climate change)」などの用語が取り上げられました。この調査の結果によると、日本は「環境」に関わる用語が79%である一方、「生物多様性」は14%、「持続可能性」は7%であり、「気候変動」は0%です。日本はSDGsや環境問題を取り扱う中で、気候変動への比重が極めて小さいと評価されたことになります。

気候変動教育への教師の備え

 報告書では、教師へのアンケートの結果、95%近くが気候変動を教えることの重要性を認めているものの、それを教えることに自信がある教師は40%に満たないことが明らかになりました。さらに、身近な地域への影響を説明できると考える教師の割合は、約3分の1に留まります。また、気候変動の知識(認知的側面)を教える自信のある教師は40%いる一方で、行動的側面(例えば、どのように自分のカーボンフットプリントを減らすか)を説明できるのは約20%であるという結果も出ています。
 気候変動を教えられないのは、適切な教え方を知らないこと、どの科目で教えたら良いのか分からないこと、このテーマを教える時間が無いこと、必要な知識やスキルが無いことなどが要因のようです。実際に、気候変動や持続可能なライフスタイルに関する教員養成や教員研修を受けたという回答は、半数強(55%)で、学校に気候アクションを起こす計画があるという回答は、半数を満たしていません。
 このような課題を踏まえると、気候変動教育を全ての教科、全ての教員養成・教員研修に組み込み、学校全体で取り組むために、知識や効果的な教授法、ツールを提供する必要があります。また、アクションに重きを置いた学習への取り組みも重要です。

これからの気候変動教育に向けて

 以上のことを踏まえ、これからの気候変動教育に向けて次のような提案を報告書は提示しています。

  • 気候変動教育を、すべての国でカリキュラムの中核に据えること。
  • 気候変動の問題に最も責任のある国に関してはその国の教育課程で気候変動の内容に焦点をより当てること。
  • 気候変動教育をあらゆる学年、あらゆる学習分野に組み込むこと。
  • 教師が気候変動を教えられるように備えること。(*)
  • 頭も心も身体もバランスよく重視した形で気候変動教育を行うこと。
  • 気候変動教育を各国の政策やプログラムの多様な側面に織り込むこと。
  • 文部科学省と環境省が気候変動教育を推進するために協力すること。

 日本のESDや気候変動教育の取り組むべき課題を共有し、対話を重ねていくうえで、今回の報告書は世界の現状を踏まえた様々なヒントを与えてくれると言えるでしょう。

*英国の若者たちは政府に対してこの要請をつとにしている。詳細は次を参照。
https://climate-empowerment.com/globaltrend/若者による政府への要請文/

【参考文献】

  • UNESCO(2021a)Getting Every School Climate-ready: How Countries Are Integrating Climate Change Issues in Education.
  • UNESCO(2021b)Learn for our planet: a global review of how environmental issues are integrated in education.