学び!とESD

学び!とESD

ESDと気候変動教育(その9) 本格化する気候変動教育
2022.02.15
学び!とESD <Vol.26>
ESDと気候変動教育(その9) 本格化する気候変動教育
永田 佳之(ながた・よしゆき)

 2021年11月に開催された第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(以下、COP26)では各国の首脳や著名人が登壇する場面か、グレタ・トゥーンベリさんらの若者が会場周辺の街をデモする様子がメディアで頻繁に取り上げられていました。しかし、前号(「学び!とESD」Vol. 25)で「気候アクションのための教育(Teaching for Climate Action)」についてお伝えしたように、世界中の学校の先生たちも教育で何ができるのかをアピールした国際会議でもあったことは注目に値します。今回は、メディアにはほとんど取り上げられなかったけれども、ESDにとってもこの上なく重要な、もう一つの教育イベントについてお伝えします。

格上げされた教育セッション

 COP26は環境保護のドキュメンタリー作家として世界的に知られるデイビッド・アッテンボロー氏の他、ボリス・ジョンソン英首相はじめ各国の首脳や大統領が登壇し、華々しく開催されましたが、教育についても本格的に議論されました。これまでは教育はどちらかというと脇役で、議論の場もメイン会場ではなくサイドイベントでした。26回目にして初めて教育大臣と環境大臣が一堂に会する画期的なセッションがメイン会場で開かれたのは画期的な出来事でした。国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)として初めて教育をテーマにしたセッションが本会議の一環として組まれ、開催地である英国のグラスゴーに対面で集った環境大臣らのみならず教育をつかさどる大臣もオンラインで繋がり、合同のセッションが設けられたのです。
 これは、主に環境担当の大臣らが参加するCOPでの審議の結果はなかなか教育政策・施策に反映されないという積年の課題を打開しようとする刷新的な前進だと言えます。こうした出来事の背景には、ユネスコ/日本ESD賞の受賞者など、ESDを牽引してきた活動家がお膳立てをしたという力学が働いており、ESDが果たす歴史的な役割も垣間見られると言えます。

注目されたイタリアの教育改革

 「明日のために共に:教育と気候アクション」と名付けられた上記のセッションは英国政府及びイタリア政府、ユネスコが主催し、さらには気候変動に関する若者中心の活動組織であるMock COP26及びユース・フォー・クライメートも参画しました。全体の司会を務めたのは「国連ESDの10年」時代からESDの国際的な推進役を担ってきた論客のダニエラ・ティルベリー氏(ジブラルタル大学)です。英国およびイタリアの教育大臣のスピーチで始まり、日本を含めた各国の気候変動施策の紹介を行うパネル・ディスカッションも開かれました。
 最初の登壇者であるナディム・ザハウィ教育大臣(英国)は、COP26の開催地であるグラスゴーでしくじったら、まだ生まれていない子どもたちから残念な結果として評価されるであろう、というジョンソン首相の開会式での言葉を引用し、気温上昇を1.5度以下に抑えて希望につなぐには教育が重要な役割を担っていることを強調しました。ちなみに、COP26では、バルバドスのミア・モトリー首相が温暖化の上昇を抑えるための「1.5℃目標は生き延びるために必要であり、2℃目標はもはや死刑宣告である」と表現して話題になりました。

イタリアのビアンキ教育大臣

 各国の大臣やメディアが注目したのは、イタリア政府を代表して登壇した教育大臣、パトリツィオ・ビアンキ氏でした。彼は義務教育段階のすべての学年に気候変動を教え、知識・行動・構造・機会という観点から学校を再生していくというラディカルな改革について熱弁をふるったのです。これは単に気候変動について教える単元を設けるという次元を超えて、気候危機の時代には学校教育は根幹から変わらなくてはならないという意思表明であり、ナショナル・カリキュラムに気候変動教育を本格的に統合していく試みとしてESD関係者にも注目されています。
 続いて、ユネスコのステファニア・ジャニーニ教育担当事務局次長は「教育こそ最も力強い武器である」というネルソン・マンデラの言葉を引き、現代ほど人間と地球へのケアが求められている時代はなく、そのために教育を根本から変革していく必要性を「ESD for 2030ベルリン大会」(「学び!とESD」Vol.18)の成果を強調しつつ訴えました。

ユネスコのジャニーニ事務局次長

気候変動に関する意思決定に若者を!

 終盤の登壇者として注目されたのが若者代表として気候変動教育の重要性を訴えたフィービ・ハンソンさん(20歳のランカスター大学学部生)でした。彼女は力強く「理科や地理で気候変動を教えたと言うのは危険極まりないメッセージ。全ての若者が問題解決の一部とならなくてはならないのであり、気候変動はあらゆる科目に織り込まれるべき」と訴えました。気候変動教育は理科(科学)教育に留まらず、学校での教育活動全般に浸透されるべき総合的かつ統合的な教育であるという認識はイギリス等の若者にも支持されるに至り、ホールスクール・アプローチ(「学び!とESD」Vol.202122)は国連をこえて、次世代にも支持されるに至っています。

各国の大臣に語りかけるP. ハンソンさん

 さらにMock COP26から各国の教育大臣への要求として次の3点が伝えられました。

  • 先生が自信をもって気候変動について教えられるようにすること
  • 「若者のために」気候変動教育を推進するのではなく、彼(女)らと共に、そして若者を通じて推進すること
  • カリキュラム全体に気候変動教育を統合すること

 ハンソンさんは「すべての生徒が持続可能性を心得た若者にならなくてはならない」という力強いメッセージでスピーチを締めくくりました。グレタさんが気候変動対策の不十分さを訴えるためにスウェーデンの国会前で1人で座り込みをしてから3年半近くになりますが、気づけば、グレタさん以外にも希望をもたらす若者が世界中に現れ、希望に向けた活動を展開し続けています。気候変動に関する意思決定を未来の当事者である若者抜きで行うことは時代遅れとなったと言えましょう。