学び!とESD

学び!とESD

橋を架ける教育 第11回世界環境教育会議(WEEC)の報告
2022.04.15
学び!とESD <Vol.28>
橋を架ける教育 第11回世界環境教育会議(WEEC)の報告
神田和可子(永田研究室 特別研究員)

 第11回世界環境教育会議(World Environmental Education Congress: WEEC)が2022年3月14日~18日の期間でチェコのプラハにてオンサイトとオンラインのハイブリッド形式で開催されました。WEECはユネスコや国連環境計画の政策決定のキーパーソンが登壇するパネル討議を仕掛けるなど、「ESDの10年」やその後のグローバル・アクション・プログラム(以下、GAPと略記)や‘ESD for 2030’(「学び!とESD」vol.18)の方向性を後押しし、教育運動の質を高めることに少なからぬ影響を与えてきたと言えます。本年は新型コロナウィルス感染症や世界情勢が危ぶまれる中での開催となりましたが、400以上のオンサイトでの参加者と170以上のオンラインからの参加者が集いました。特に、WEEC開催前から本会議のプラットフォームであるホームページ上ではウクライナ侵攻に関する声明を表明しており、会議の冒頭においても平和を求める声とともに環境教育やESDが担う役割の可能性についても言及されました。
 今号では第11回WEECの発表の中から具体的な実践研究について紹介します。

出典:WEECのホームページ

WEECとは?

 WEECは2003年に環境教育の領域に関わる世界各国の関係者をつなぐ会議として第1回目が開催され、本年で11回目となります(表1参照)。本会議には主に環境と持続可能性に関する教育に関心を持ち取り組んでいる世界各国の大学教授・政府関係者・国際機関・ジャーナリスト・政治家・企業・NGO等の研究者や実践者らが参加しています。2003年当初は年に一度開催されていましたが、2007年の第4回目以降は2年に一度開催されています。

表1:WEECのこれまでの開催日程およびテーマ

学校を超えたソーシャル・ラーニングとしての
ホールスクールアプローチ

 本会議では「気候危機の時代に橋を架ける」をメインテーマとし、環境教育やESDなど持続可能性に関する教育に通底する理論や実践が発表され、各分科会の発表後には発表者およびその発表を聴講している参加者との議論の時間が設けられました。
 特に「ESDの10年」後のGAPにおいて展開されてきたホール・インスティテューション・アプローチ(ホールスクールアプローチ:WSA)が本会議の13を超える分科会(*1)の一つのトピックとして設定され、実践および研究の双方で議論されていた点は注目に値します。国際的に標準化されつつあるWSAからは日本の実践でも参考になる知見が得られるでしょう。具体的には、ESDにおけるソーシャル・ラーニングの論客であるA. ウォルスによる基調講演にて紹介された以下の6つの要素は批判的にESD実践を考察する上で有効な視点となるでしょう(図1)。5つの要素(教育学と学習、カリキュラム、制度上における実践、地域とのつながり、キャパシティ・ビルディング)が花びらのように中心にあるビジョン、エートス、リーダーシップ、協調によって支えられています。

図1:持続可能性に向けたホールスクールアプローチの6つの要素
出典:A. ウォルスの基調講演およびホームページより抜粋

 6つの要素に関する詳細は下記の通りです(表2)。これらの考案された図表は、表2にある5つの問いを参考に、教師および生徒との対話を重ねながらビジョンやエートスなど学校の中核に据えられる在りたい姿を描き、5つの要素の視点を用いて自身の学校を振り返り、持続可能な学校および学校を超えた地域づくりに取り組むツールとしても活用できるでしょう。

表2:ホールスクールアプローチの具体的内容
出典:基調講演をもとに筆者作成

 今回は多くの講演と発表の中から一つの実践研究を紹介しました。その他にも5日間の会議では、気候危機の時代における複雑性を伴った課題を前に、限定的で閉ざされた学びや教育に対し、開かれた学びや教育へと働きかける研究や実践の重要性が指摘され、学ぶことと生きることが重なり合い、ともに社会を創造する橋渡し役となる教育について議論されました。また、環境教育の論客であるデイビッド W. オーが「環境教育は民主主義の復活と改善のための教育であり、持続可能性と社会正義の原則が組み込まれている」と言及されたように、これまで環境教育で蓄積されてきた知見から学び、新たな実践と理論を創造することが求められていると言えます。ホールスクールアプローチを通して、自己と他者(社会)との関係性に橋が架かる教育的営みを実践してみませんか。

【参照URL】

*1:本会議の初日はこれまで環境教育やESDなど持続可能性に関する教育分野の研究を牽引してきた研究者の基調講演から始まり、2日目以降は気候変動教育、場に根差した教育(Place-based Education)、就学前教育、環境シティズンシップのための教育、人新世時代における環境教育、アート・倫理・環境教育、持続可能性のための行動コンピテンシーおよびキー・コンピテンシー、環境および持続可能性に向けたホールスクールアプローチ、野外環境教育、持続可能な大学、ビジネスセクターと環境教育、地域における変容的超越的学習、ノンフォーマルにおける環境教育など13を超える分科会が実施されました。