学び!と社会

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こんなときどうしよう?⑤ 自らの学びを調整するとは?
2022.03.30
学び!と社会 <Vol.07>
こんなときどうしよう?⑤ 自らの学びを調整するとは?
東京都中野区立美鳩小学校校長 佐藤民男

(1)教室で見える主体的に学ぶ子どもの姿

 ある学校の6年社会科の授業風景です。
 黒板には「聖武天皇の大仏づくりは、どのように進められたのだろうか」と本時の問いが書かれています。「では、始めなさい」。簡潔な教師の指示で、子どもたちは一斉に調べ始めました。この後、静かになった教室で、実に興味深い光景が展開されました。
 教科書で調べる子、資料集で調べる子、タブレット端末を用いてインターネットで調べる子……。一人一人異なった方法で調べ始めました。子どもたちは集中し、しばらくして調べたことをノートにまとめ始めました。これまた一人一人まとめ方が違うのです。クラゲチャート、コンセプトマップ、ウェビングマップ、関係図……。それまで学習してきた様々な思考ツール を用いて、自分なりに考え、子どもたちはまとめていました。

図1 さまざまな思考ツールを用いてまとめたノート

 これらの姿から、子どもたちは学習の課題(問題)をしっかり把握し、何をどうやって調べれば課題(問題)を解決することができるのか、見通しをもって学んでいることがよくわかります。
 この教室で展開された子どもの姿は、まさに「主体的に学ぶ」子どもの姿です。

(2)「主体的な学び」と問題解決的な学習

 ここで、「主体的な学び」について考えてみます。
 「主体的な学び」とよく言われますが、みなさんはこの言葉にどのようなイメージをおもちでしょうか。多くの方は、「主体的」=「興味・関心・意欲」でしょう。しかし、「主体的」は興味・関心・意欲だけではありません。平成28年12月の中教審答申 では、「主体的な学び」について、次の四つについて言及しています。

① 興味や関心をもっている。
② 見通しをもっている。
③ 粘り強く取り組んでいる。
④ 自らの学びの振り返りができる。

 これら四つは、バラバラに存在しているのではありません。一連の問題解決的な学習の中で互いに関連しあって存在しているのです。興味・関心をもったある課題(問題)に対して、解決のための見通しをもち、それに基づいて調べたり実験したり試したりして、その課題(問題)を解決していく。つまり、問題解決的な学習に取り組むことが、「主体的な学び」になるのです。

(3)「主体的な学び」の中にある「自らの学びを調整する力」

 最近、学校内外のあちこちで「自己調整」「自己調整力」という言葉を耳にします。今まで小学校教育には身近になかった言葉だけに戸惑われている方も多いことでしょう。いったい「自己調整力」とは何なのでしょうか。
 やや遠回りしますが、「自己調整力」という言葉が出てきた背景から説明します。
 学習指導要領の改訂により、観点別学習状況の評価がこれまでの4観点から3観点に変わりました。それは「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の三つです。
 この中の「主体的に学習に取り組む態度」について、文科省は次の二つの側面を評価するよう強調しています。

① 知識及び技能を獲得したり、思考力、判断力、表現力等を身に付けたりすることに向けた粘り強い取組を行おうとしている側面
② ①の粘り強い取組を行う中で、自らの学習を調整しようとする側面
という二つの側面を評価することが求められる。
〈文部科学省 国立教育政策研究所 教育課程研究センター『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料』東洋館出版社・P.10〉

 よく言われる「自己調整」の本来の意味は、上記②にある「自らの学習を調整しようとする」という言葉です。しかも大事なことは、「自らの学習を調整しようとする」活動は「粘り強い取組を行う中で」実行するということです。
 その「粘り強い取組」をあえて一言でいえば、問題解決的な学習、主体的な学びということになります。つまり、問題解決的な学習の過程の中で、主体的な学びをしていけば、子どもたちは自らの学びを調整するようになるということです。
 この「自らの学びの調整」は問題解決的な学習の過程では、二つの段階で考えられます。
 一つは、調べ学習の段階。もう一つは、学びの振り返りの段階です。前者は、見通しをもって調べている子どもが、これでは課題(問題)が解決しないと考え、別の調べ方やまとめ方をするなどした場合です。後者は、単元全体を振り返り、今後の学習の改善に生かす場合です。

図2 問題解決的な学習の中の「学びの調整」

(4)自らの学びを調整する子どもの姿

 冒頭の6年生の授業に戻ります。
 担任の先生は、授業後、このような話をされました。
 「最初、ベン図でまとめていた子が、ベン図は適さないと判断し、コンセプトマップに書き直しました。また、今まで学んだ思考ツールは自分には合わないと考え、全部文章にした子もいました」
 ベン図は適さないと判断しコンセプトマップに変更した子。このような姿こそ、課題(問題)解決の見通しをもって学習し、自らの学びを調整した子といえるでしょう。