学び!と社会

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こんなときどうしよう?⑥ 「主体的に学習に取り組む態度」はどうやって評価したらいい?
2022.05.02
学び!と社会 <Vol.08>
こんなときどうしよう?⑥ 「主体的に学習に取り組む態度」はどうやって評価したらいい?
東京都足立区立皿沼小学校校長 加藤雅弘

(1)主体的に学習に取り組む態度の評価は「難しい」?

 「これは難しい!」
 多くの人の感想ではないでしょうか。
 『「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料 小学校社会』(東洋館出版 国立教育政策研究所、以下『参考資料』と表記)を読んだ時に感じたことです。
 社会科を極めている先生は「できる!」「なるほど!」と感じるのかもしれませんが、初任者、いや経験年数の長い先生にとっても、これは「難しい!」のではないでしょうか。
 何が、難しいのか?それは『参考資料』の事例に掲載されている二つの授業場面です。

1 「予想や学習計画を立て、解決の見通しをもっているか」
 指導に生かす評価場面とするか記録に残す評価場面とするか、事例によって違いはありますが、どれもこの場面を「主体的に学習に取り組む態度」の評価として扱っています。主体的に学習に取り組むには、自分なりの予想をもっておくことは大切です。しかし、現実問題として、学習問題を立てる場面は社会科を専門とする教師にしても、簡単にはできません。まして、若手教員にとって、子どもが「このことを本気で調べてみたい!」と思わせる学習問題に導くことは至難の業です。この「本気の調べたい」に至っていない状態で予想を立てても、それは、ここで目指している「主体的に学習に取り組む態度」につながるのか、難しいところです。
2 「学習を振り返り、さらに調べるべきことを見出し、見通しをもって追究しようとしているか」
 これを実現するには、まず、指導計画自体に「見直す」時間を設定しておく必要があります。加えて、子どもにある程度学びのハンドル(調べる内容や方法)を任せておかなければ、評価することができません。クラス全体で、教師の指導の下、一斉の追究活動をしていた場合、この評価は全員同一になってしまいます。つまり、子どもの学びの評価ではなく、教師の授業評価となってしまいかねないのです。
 では、誰にでもできる評価として、これらの課題をどう解決していけばよいのでしょうか。事例を基に考えていきます。

(2)これならできる!「主体的に学習に取り組む態度」の評価

1.「1時間ごとのめあてに対する」振り返り

図① 実際の授業場面における板書(左側「メタ認知」と表記された下が、振り返りの内容です。)

 単元のどの段階であっても1時間ごとに「めあて」を立てることでしょう。その「めあて」に対して、振り返りをするのです。何を振り返るのか、それは次の3点です。

① めあてに対して、何が分かったのか(できたのか)
② なぜ、分かったのか(できたのか)
③ 次に生かせそうなこと

 ①は「めあて」が提示されている授業で、獲得した知識・技能があれば書けるでしょう。
 ②は難しいですが、もし書ければ、その学習活動で働かせた「見方・考え方」の自覚にもつながります。
 ③は、学習内容、学習方法の両面からのアプローチが考えられます。また、生かす場面として、以後の社会科学習、他教科、今の自分の生活や今後の人生など様々な場面が考えられます。

2.児童の振り返り記述と指導コメント

 実際の授業で、どのような振り返り記述があり、それを教師がどのようにコメントしていったのか、3年生の第1単元「自分たちの市のようす」の例で見ていきましょう。

学習活動

児童の振り返り記述

指導者のコメント

教師の意図

 学区域の周囲の様子について、分布に着目して調べる。

 なぜ、駅の所に商店がいっぱいあって、なぜ●●小のあたりに住宅が多いのかのところがむずかしかったけれど、友達や先生に教えてもらってわかってうれしかった。

 難しくてもあきらめずに考えたから分かったのですね。(波下線は、それを強調するため)

 分かった理由やあきらめない姿勢という「プラス面」の学びの状況を価値付けた。

 学習問題について、予想を立てる。

 予想を書くのがちょっと失敗しちゃったけれど、楽しかったです。

 「教室は間違う所」。初めからできる人はいません。次の予想で頑張りましょう。

 人は誰でも失敗する中で成長していくことを伝え、励ました。

 鉄道の分布に着目し、集中している理由を考える。

 「なぜ、そうなのか」のところの理由がうまくできたと思いました。

 せっかく素晴らしい考えが書けていたのに、発表してもらうのを忘れてしまいました。ごめんなさい。

 友達の見本になる素晴らしい考えであることを伝え、自信を醸成させたかった。

 商店の分布に着目して調べ、なぜ、そこに多いのかを考える。

 「なぜ、そうなのか」がすごくいっぱいかけて嬉しかったです。なぜ、そうなのかがちょっと簡単でした。なぜ、かんたんだったかというと、前にやってやり方が分かって、前の学習をふり返ったから、かんたんでした。

 いろいろな立場をよーく考えていますね。また、「人が笑顔になる」という考え方が素晴らしい!人は何のために生きているかにも繋がる大切な考え方です!!

 多い理由を店経営の視点からも捉えたこと、及び双方の幸せにつながるという「まとめ」に感動したことを伝えた。

図② 表「自分たちの市のようす」 ある児童の振り返り記述の抜粋
※抽出児:振り返りをしっかり行い、思考力も態度も大きく進歩したと考えられる児童

 取り上げた児童以外の振り返り記述で、①~③を表している例を紹介します。
①めあてに対して何が分かったか(できたのか)

  • 自分のまとめはよくできたかはわかんないけど、まとめはさいごまでかけた。
  • みんなで使う場所の所に人が多いとか、何があるか予想をつけて考えて、何があるかどこに人が多いか考えることも大事だと知った。

②なぜ、分かったのか(できたのか)

  • 「なせ、そうなのか」がこんなにできたのは、実さいに商店の人になって書いたから書けた。
  • 分布に目をつけたから、どこに多いのかわかった。

③次に生かせそうなこと

  • はじめて地図ちょうを使えてうれしかったです。また、使いたいです。
  • なぜ、できたのかは、前に勉強したことをふりかえったからです。もっと書きたくなって、いっぱい書いた。また、こういうことをやりたいです。
3.1時間ごとなら「難しくない!」➡いずれ、単元のまとまりで

 1時間単位の「振り返り」を書かせ、それを価値付け、広めることが「主体的に学習に取り組む態度」を育てる指導に当たります。それを毎回繰り返していけば、徐々に書けるようになります。「全てを自分でできなくても、ここまでは、できた」と振り返ることで「自らの学習状況を把握」(メタ認知)することができていると言えます。「できない」ではなく「できた」方にフォーカスして振り返れば、自己肯定感も向上しますから、プラスのスパイラルに入っていき、書くことにも前向きになります。これを継続的に行うことで、成長のプロセスも見取ることができます。これなら、多くの先生方が「できる!」のではないでしょうか。

 『初等教育資料』(東洋館出版 令和3年1月号)は、「見通しと振り返りを生かした指導の工夫」の特集でした。掲載されていた国語、社会、算数の子どものノート記述を類型化してみると(理科は、子どものノート例は掲載されていません)、「何が分かったか(できたか)」、「なぜ、分かったのか(できたのか)」、「次に生かせそうなことは」の三つに分けられます。先の実践例の有効性が確認されたと言えます。
 これらのことから、社会科に限らず、1時間単位の振り返りを書かせることは、誰にでもできる「主体的に学習に取り組む態度」の評価の一例として挙げることができます。これらを続ける中で、単元の学習問題をうまくつくることができたら、参考資料の例のように、予想する場面で評価できるようにしていきましょう。また、学びのハンドルを子どもたちに任せることができるようになった段階で、調べたことが十分かどうか見直すことにもチャレンジしていきましょう。大切なことは、指導者の授業状況や児童の学習実態に応じた評価を行っていくことです。