学び!とPBL

学び!とPBL

「よそ者」の視点
2022.04.21
学び!とPBL <Vol.49>
「よそ者」の視点
三浦 浩喜(みうら・ひろき)

1.高フェス、実行委員3人

 さて、話を時系列に戻しましょう。
 2018年10月、福島市の高校生チームは、見事に「福島市高校生フェスティバル2018」を成功させ、2019年3月の台湾・立人高級中學の学園祭へ、同年4月には「愛知県高校生フェスティバル」への参加も果たし、何もかもが順調に運んでいるように見えていました。
 2019年4月に新年度が始まり、昨年度高校生フェスティバルの成功をつかんだ3年生は、受験のため第一線を退き、新2年生に後を託しました。大人から見れば、一年目の活動を一緒に組み立ててきたのだから、新メンバーにかなりの部分を任せても大丈夫だろうと、高をくくっていました。
図1 新しいメンバーで会議 けれども、6月になっても具体的な動きが見えず、どうなっているのか気になり、久々に顔を出しました。すると、メンバーは前年度のまま、というよりも新しい顔ぶれはなく、中心でがんばっていた高校生3人だけになっていました。何があったのか、と尋ねると「やる気のある人は実行委員に残って」と言ったら、多くのメンバーがやめていった、というのです。高校生は、一般的に部活動のノリで同質性や団結力を強要してしまい、結果的に排他的になってしまうことが多々あります。それが部活動やサークルのように基盤がしっかりしていればいいのかも知れませんが、このFCN(福島市の高校生チーム)のように危うい基盤の上で活動しているケースでは、多様性こそが大切であり、コアメンバーはともかく、義理で協力してくれるメンバーも「ありがたく」協力してもらうことが必要です。裾野を広げるという意味で、「やる気のある人」に限定してしまえば、空中分解が起きてしまうことは容易に想像できます。

2.議論の無限ループ

図2 無限ループに陥らないように…… また、彼らはもう2ヶ月以上高校生フェスティバルの目的を議論し続けています。「昨年立ち上げたときに決めたんじゃなかったの?」と聞くと、それが全然ピンときておらず、自分たち3人でつくり直す、というのです。高校生フェスティバルの形だけ受け継いで実行するよりはいいのかも知れませんが、目的の議論を聞いているとまさに無限ループで、目的が決まらないから、新しい実行委員のメンバーを募集できない、そうしている間に打ち合わせに参加する高校生もどんどん減っていく、という状態だったのです。
 大人の論理で動かすのもどうかと思い、前年度の実行委員長らにも入ってもらい、議論を進めました。「実際にやらなければならない全体像がわかれば、今何をしなければならないのかわかるはず、やれることから具体的に動き出す。」「立派なことを考えても、賛同してくる高校生はどれだけいるか。自分たちで集まって楽しいことやろうよ、から始まっていいんじゃないの?」と、私が言いたかったことを、そのまま伝えてくれました。やっぱり苦労すると大人になるんだな、ととても頼もしく感じました。
 何はともあれ、興味のある人に集まってもらう、高校の先生にも働きかける、市内でいろいろな活動をやっている高校生にも声をかける、など、高校生の伝手をたどって人集めをすることが決まりました。

3.凝り固まらないように壊す

図3 常に新しい人たちと出会う 私は大学の授業でも15年ほど、PBLとも言える学習活動を続けてきました(<Vol.03>PBLのはじまり②、参照)。上記のような問題は、大学生の間でも毎年起こったことを思い出しました。先輩たちの苦労を横目に見ながら、自分たちの代になれば好きなことができると思い、実際にやってみたら「思い」だけが強すぎて空回り、という問題です。このことは、「自分たちのことは、他人に頼らず、自分たちで責任を持ってやり遂げたい」という肯定的な面もあります。これを私たちは「世代の自治」と呼んでいます。他方で、問題の解決は、異世代とともに、多様性の中で解決していくべき、というのが今日のトレンドです。
図4 東京の高校生や大学生たちと議論 内輪で閉じた空間をつくることは、高校生や学生だけでなく、日本人の特長かも知れません。その中で完結することをやるのであればいいのですが、対象が不特定多数であったり、社会全体であったりした場合、それが内輪ウケに見えてしまったり、偏狭な考え方の押しつけになってしまうことがよくあります。
 災害復興に必要な者は「若者、よそ者、馬鹿者」と言われましたが、「よそ者」の視点が常に必要と言えます。OECD東北スクールの時も、あえて東京や奈良のメンバーを加えたり、フランスの若者とコンタクトをとったりしました。活動を長期にわたって展開するためには、トリックスターのように、常に凝り固まらないように壊す人が必要なのかも知れません。