学び!と社会

学び!と社会

こんなときどうしよう?⑦ 見学活動ができないときはどうしたらいい?
2022.05.30
学び!と社会 <Vol.09>
こんなときどうしよう?⑦ 見学活動ができないときはどうしたらいい?
日本文教出版 小学校社会編集部

(1)現地での見学ができない場合の方法

 「社会科が好き・楽しい」という児童の多くは、「見学できるから」、「体験できるから」という理由をあげています。フィールドワークは児童の意欲を高め、より主体的に、そしてアクティブに学習を展開することができます。
 主体的・対話的で深い学びを実現していくためにも、見学や調査・聞き取りなどの体験的な学習にできるだけ多く取り組ませたいと願う教師は多いと思います。
 しかしながら、学ぶべき内容が盛りだくさんなのに比べて、指導時間数が限られていること、感染症対策等のために行動が制限されていることなど、現地での見学・体験的な学習ができないことが現状です。

 では、現地での見学活動ができないときはどうすればよいのでしょう。ここにいくつかの方法を紹介します。
 ただし、どの方法にもあてはまることですが、その場での思いつきでの活動や時間つなぎの活動にならないようにしましょう。指導計画を作成し、授業のどの段階・場面で、何を目的として、どのような内容を取り上げるのかを明確にするなど、学習を意図的・計画的に進めることが大切です。また、学習内容や時間設定など見学先との連絡・調整をしっかりとしておく必要があります。そして、お礼の手紙や成果物を送付するなど、受入側にも「協力してよかった」と感じていただけるような心がけを忘れないようにしましょう。

1.自主教材の作成(事前取材・撮影など)

 教師の世代交代が進み、デジタルカメラやスマートフォンを自在に使うことのできる人が増えています。鮮明な映像や音声が記録できるだけでなく、簡単に編集することができるなど、高性能で使いやすくなり、授業に活用している方も多いのではないでしょうか。
 学習への動機づけや知的好奇心を高めるためにも、また、とらえさせたい内容や認識を深めるためにも、教師が意図的に作成した写真資料や動画は大きな力を発揮します。見学先と十分な連絡・調整が必要ですが、事前に教師が取材し、目的に応じた写真や動画などを撮影し、授業で活用しましょう。授業者の意図に沿った取材ですので、比較的短時間で資料を作成することができます。とはいえ、時間のゆとりは必要ですから、長期休業日や学年研修の時間などを利用しましょう。
 取材のときに、児童向けのパンフレットやポスターなどをもらっておくと、授業に役立てることができます。また、見学を受け入れている企業の多くは、オリエンテーション用に動画資料を作成しています。これまでの受け入れ経験から児童向けに作成されているので、そのデータを授業でも活用できるようお願いしてみましょう。双方の時間の節約にもなります。
 ところで、教師が個々に取材したり動画を編集したりすることは、いくら簡単にできるようになったとはいえ、研究授業でもない限り気軽にできるものではありません。また、大きな市町では、見学先の担当される方には相当な負担となります。そのような場合、特に3・4年生の地域学習においては、隣接する学校や地域の社会科担当者会などで協力して作成されることをおすすめします。
 姫路市小学校社会科教育研究会(以下姫小社研)では、Googleサイトに姫小社研のコンテンツ(姫路市教育委員会内限定のサイト)をつくり、そこに副読本「資料ひめじ」に掲載している写真をアップしています。児童はタブレットを用いて教室や家庭などからアクセスし、学習に活用することができます。そのコンテンツの中に、例年であれば見学に行くことのできていた姫路市内の施設について、姫小社研のメンバーが分担して取材し、児童が実際に見学に行っているかのように撮影した動画がアップされています。

姫小社研がアップしているコンテンツ例
3年生:「わたしたちの住んでいるところ」「かまぼこ工場のしごと」「スーパーマーケットのしごと」
4年生:「ごみのしょりと活用」「くらしをささえる水」

2.バーチャル見学

 教科書に掲載されているような企業は、児童向けの広報活動にも力を入れています。
 見学したい企業のホームページを見てみましょう。「バーチャル見学」「こどもサイト」などのグローバルナビやコンテンツが見つかります。適切なサイトが見つからない場合は、「バーチャル工場見学 企業名」などで検索し、目的にあったサイトを見つけましょう。多くの企業が魅力的な動画を掲載しています。また、動画ではありませんが、写真資料で丁寧に説明しているものもあります。(ただし、期待するサイトが閉じられている可能性もあります。)

例)
機械工業:トヨタ自動車、三菱自動車、HONDA、日産自動車など
食品工業:ヤマサ蒲鉾、ロッテ、森永製菓、カゴメなど

 その他、市役所・水道・消防署などについて調べる場合、自分たちの市町村のホームページに目的とするものはなかなか見つけることはできません。しかしこの場合、どこの市町村であっても内容はほぼ共通しているので、目的にあったサイトを見つけて活用することができます。

例)
市役所:よなごキッズページ
https://www.city.yonago.lg.jp/kids/
水 道:和歌山市キッズページ
http://www.city.wakayama.wakayama.jp/suido/1032420/1033063/index.html
消 防:大阪市中央消防署 キッズルーム
https://www.city.osaka.lg.jp/shobo_chuo/category/3968-0-0-0-0-0-0-0-0-0.html

 バーチャル見学を授業で活用する場合、教師はあらかじめ動画を視聴し、内容と時間を確認しておきましょう。そして、どの場面をどのように視聴させると効果的かを考えましょう。また、動画の多くは「どのように作られているのか」「どのような仕事をしているのか」などが紹介されていることが多く、「なんのために」「どんなことに気をつけているのか」などには触れられていないことがあります。それも含めて、児童から出てくるであろう疑問や質問について、どうすればよいかを考えておきましょう。
 例えば、企業のホームページの「企業理念」「社会貢献」などを閲覧し、関係するページや問いに対応する回答に該当する記述を把握しておきましょう。また、ホームページへの問い合わせが可能か、その場合どれくらいで回答がいただけるか、もしくは、質問事項をあらかじめ問い合わせておくことができるかなど、担当の方と確認できればなおいいですね。

3.リモート見学

 展示物の見学が主な歴史博物館や民俗資料館などの場合、学芸員の方にライブ映像を送っていただきながら、必要に応じて質疑応答ができると、学習が深まります。もちろん、生産工場やごみ処理場など一般的な見学でも高い学習効果が期待できます。
 この活動の最大のメリットは、案内する方との距離によって説明が聞こえる、聞こえないという差がないことです。一般的な見学では、前方の児童は説明をうなずきながら聞いているけれど、後ろの児童はただぞろぞろついて歩いているだけという状況が課題ではないでしょうか。個々人で視聴できるタブレットを活用したこの方法であれば、見学する人数に関係なく、どの児童も同じレベルで説明を聞くことができます。また、実際に見学地を移動するのは案内する方一人で、見学先の関係者ですから、普段の見学では入れないような場所も見学することができるかもしれません。
 しかし、なんと言っても見学先の担当者の方の協力が必要です。学校と近ければ、教師が事前に見学し、授業に即した見学ができるように打ち合わせておきたいものです。学校から遠くて実際に伺うことができない場合は、授業のねらいや見学したい場面、知りたい内容などを丁寧に伝えるなど、しっかりと打ち合わせをしておきたいものです。
 そしてこの場合、担当の方の手間と時間を多くいただくのですから、児童の対応が大切となります。もちろん、本コラムで紹介しているどの方法をとったとしても大切なことですが、気持ちのよい挨拶やていねいな言葉づかいができるように、事前指導をしっかりとしておきましょう。できれば、後日、お礼の手紙や成果物を届けるなどすると、授業へ協力したことの喜びを味わっていただけます。

4.デジタル教科書・教材の活用

 例えば、日本文教出版のデジタル教科書・教材には、アイコンをクリックすると動画が視聴できる資料などが掲載されています。また、ホームページにデジタルコンテンツが掲載されています。(https://www21.nichibun-g.co.jp/2020dc/sha/
 3・4年生は、それぞれの地域教材を学習するので、そのままでは授業に使えないことが多いのですが、自分たちの地域と比較したり、見学の視点づくりに活用したりすることができます。
 5・6年生では、日本の産業や国土の様子、政治や歴史事象など、タイムリーに動画資料を活用することで、児童の学習意欲を高めたり、理解を深めたりすることが期待できます。

○日本文教出版の場合(令和2年度版『小学社会』指導者用デジタル教科書(教材)より抜粋)

5年生

6年生

サトウキビの収穫の様子
稲作の様子と生産者の話
自動車工場での生産の様子 など

三内丸山遺跡の出土物など
大正時代の東京のにぎわい
1964年東京オリンピックの入場行進などの様子 など

5.「NHK for school」などの学習サイトの活用

 見学してみたい企業や見たい産地そのものを検索できないこともあります。その場合、同じような企業の生産活動を見ながら、類推したり一般化したりすることが可能です。(ただし、期待するサイトが閉じられている可能性もあります。)
 文部科学省の学習支援コンテンツポータルサイト(子供の学び応援サイト)の「小学校 各教科」から「小学校社会における学習支援コンテンツ」(https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/mext_00041.html)では、学習指導要領の内容項目や使用している教科書に応じた「NHK for school ばんぐみ一覧」へと進むことができます。
 また、国立研究開発法人 科学技術振興機構のScience Portalサイトの中にも製造業の動画が収録されています。(https://scienceportal.jst.go.jp/featured/channel_kids.html)「THE MAKING 企業名(または製品名など)」で検索し、目的のものを探すことができます。
 ただし、コンテンツによって放映時間の長短があります。また、同じ素材を取り上げている番組が複数ある場合があります。あらかじめ、どの動画を視聴するか、何をとらえさせるかを明確にしておく必要があります。
 授業形態としては、電子黒板に投影して一斉に視聴し、意見を交換したりまとめたりする活動に向いています。また、教師が視聴する動画を指定し、児童が個別に視聴した上で考えをまとめ、その後、意見交流をしながら考えを深めていく活動も効果的です。

6.出前講座・教室、ゲストティーチャー

 例えば、姫路市では、市政や市民生活上の身近な問題などについて、市の職員を講師として派遣しています。小学生に向けては、「『ごみ』から『資源』へ」「みんなで減らそう 『食品ロス』」「クイズで学ぼう!『下水道のはたらき』」「水道教室 ~安全でおいしい水道水~」などの出前講座が用意されています。これらを学習場面に応じて活用することは、見学と同じように有意義な学習活動となります。また、電力会社やガス会社など、出前教室を実施している企業もありますので、それらを適宜活用したいものです。
 また、地域の方や専門家にゲストティーチャーを依頼してみましょう。3・4年生は地域素材の学習ですから、身近な人から教えられることもたくさんあります。5・6年生も、単元によってはふさわしい方がおられるかもしれません。学校や市町村によっては、学習を支援するための人材バンクを備えているところもありますので、学校の社会科担当や生活科担当などに確認してみましょう。
 さらに、Google‐MeetやZoomなどを活用することで、遠く離れたところのゲストティーチャーと繋がることも可能です。例えば、姫路市立城陽小学校では、5年生「情報を生かして発展する産業」の単元(令和3年2月)で、東京の「羽田市場株式会社」の担当の方とライブでやり取りをして、考えを確かめたり深めたりする実践もおこなわれました。

 さて、出前講座やゲストティーチャーなどに依頼する場合には、以下のことに留意してください。

1 学習のねらいや協力いただくことの意義や効果をきちんと伝えましょう。

2 学習の内容や指導計画について、ポイントを整理して伝えましょう

3 お話いただく内容や時間配分について、十分に打ち合わせておきましょう。

4 「皆さんのために」「喜んで」でも「お忙しい中」来てくださっていることを、児童にしっかりと意識させましょう。

5 学習を終えたら、お手紙や成果物などで感謝の気持ちを伝えましょう。

(2)まとめとして

 おおまかに六つのアイデアを紹介しましたが、どの方法がいいのか、どの段階で取り入れるのかなどについて、同僚に相談したり先輩のアドバイスをもらったりしましょう。そして、校長や教頭にも相談してみましょう。これまでの経験からの示唆はもとより、立場上培った幅広い人間関係もありますので、地域の人材やより専門性をもった人ともつながることができるかもしれません。
 また、実際に見学に行く場合は、児童に「見学する必然性をもたせる」「見たいこと・聞きたいことをはっきりさせる」など、事前指導を丁寧に行っています。同じように、諸事情により見学に代わる活動をとる場合においても、「何のために」「何を調べるのか」などの事前指導は重要です。そうすることで、社会的事象の見方や考え方を身につける問題解決的な学習とすることができます。
 そして何よりも大切にしてほしいこと。それは、児童の意欲を高めたい、楽しくて魅力的な授業にしていきたいなどの思いをもってこのサイトを見ておられるあなたの熱意です。思いをもつことは成長の第一歩です。そしてその思いは、自然と児童にも伝わります。児童の確かな学びを目指して前向きに頑張っておられるあなたは、素敵な先生です。

連載してきました「こんなときどうしよう?」は、今回で終了となります。次回の連載もお楽しみに!