学び!と美術

学び!と美術

年間指導計画の役割
2014.07.10
学び!と美術 <Vol.23>
年間指導計画の役割
奥村 高明(おくむら・たかあき)

 「図画工作の評価に困ります」「言語活動をどうすればいいですか」など、よくある質問のほとんどは「年間」という視点を持つことで解消します。今回は、年間指導計画の役割について考えてみましょう。

1.はじめに

 子どもには得手不得手があります。平面は得意だけど立体は苦手、大胆に筆を動かすのは好きだけど精密な描写は嫌いなどです。先生も同じです。どんな題材でも授業がうまくいくわけではありません。絵の指導は得意だけど、工作の指導に困ってしまうという人はいるでしょう(※1)。
 それでいいのです。それが人間です。だから、1年間で絵や立体、工作、造形遊び(※2)など、いろんな題材が経験できるようになっているのです。一つの題材だけで図画工作を語ってはいけません。うまくいったり、いかなかったり、でも年間通せば、案外うまくいっているものです。「1年間で図画工作科」そうとらえることがはじまりです(※3)。

2.評価を年間で考える

 「みんなよく頑張ったから全員Aでもいいですか?」
 気持ちは理解できますが、ちょっと短絡的です。4観点で分析的に評価するのが現行の制度です。
 でも、一つの題材で、全ての観点を評価するのは難しいことです。例えば、2時間で終了する題材の場合、すべてを見ようとすると4観点×40人=160の個別データが必要となります。まず、物理的に不可能です。また、一つの題材で全ての能力を伸ばせる「万能題材」はありません。「発想や構想の能力」に重点をおく題材、「創造的な技能」が活性化する題材など、それぞれに特徴があるのです。
 そこで「1年間かけましょう(※4)」「いろいろな題材を関連付けながら、能力を伸ばしましょう」となります。「ある題材ではB、でも次にはA」などのように、継続的に子どもを見つめ、評価していくことも必要でしょう。それを担保するのが年間指導計画です。

3.手立てを年間で考える

 「相互鑑賞は、本時のどこに入れればいいですか?ワークシートに書かせなくていいですか?」
 なぜ1時間だけで考えようとするのかなと思います。そもそも題材は2時間、4時間、6時間などのまとまりで出来ています。その全体を通して、発想や構想、鑑賞の能力などを育てます。相互鑑賞や書く活動などの手立ては、題材の中で、それが最も効果的なタイミングや方法があるはずです。1時間単位で手立てを考えるのではなく、題材全体を見通して位置付けることが適切でしょう(※5)。
 それでも、単独で見れば題材の手立ては不完全です。相互鑑賞の必要がない題材、話し合う活動が必要な題材など、それぞれに特徴があります。そこで、題材同士を関連させ、手立てをバランスよく配置する必要がでてきます。それを実現しているのが年間指導計画なのです。

4.おわりに

 どの時間、題材でも「最善を尽くす」のは当たり前です。でも、「あーダメだったなあ、」「あー意欲なくしているなあ」が実際です。「全部成功させる」「子どもに万能を求める」のは無理なのです。でも、年間指導計画が私たちを支えてくれるでしょう。「よし!次は先生頑張る」「次はいい顔見せてくれるはず」そう考えれば楽になりませんか?
 年間指導計画は、様々なノウハウを個人ではなく組織やまとまりとして維持・保全する優れた方法です(※6)。それは、先生や子どもの能力の違い、評価活動が本来持つ不十分さ、手立てのバランスなどを補ってくれます。1年かけて子どもを伸ばすという視点をもって、安心して目前の題材に取り組みたいものです。

 

※1:「国語の物語文は好きだけど作文指導は苦手」「算数の図形は得意だけど計算指導が苦手」と同じだろう。
※2:平成20年の指導要領の改訂で「造形遊び」は正式な用語となった。教科書でも明示してほしい。
※3:「造形遊びが分からないからしない」「絵が好きだから工作を減らす」はやめてほしい。
※4:そもそも「関心・意欲・態度」は1学期や複数の題材など、ある程度の幅を持って評価する観点である。
※5:国語や算数でも「全単元で毎回計算練習が入る」「判で押したように作文を書く」はない。
※6:端的に具現化しているのは教科書だ。日本の教科書は、何もかも詰め込んだ海外の教科書とは異なり、年間の指導を上手く体現している。