学び!とESD

学び!とESD

ユネスコの最新報告書 2050年に向けた「教育のための新たな社会契約」
2022.07.15
学び!とESD <Vol.31>
ユネスコの最新報告書 2050年に向けた「教育のための新たな社会契約」
安藤 穂乃佳(永田研究室大学院生)

これまでのユネスコの報告書

 2021年11月に国際教育科学文化機構(以下、ユネスコと表記)によって報告書“Reimagining Our Futures Together: A New Social Contract for Education”(『私たちの未来を共に再想像する:教育のための新たな社会契約』)が刊行されました。これまで、ユネスコによる報告書は約四半世紀に一度の期間で刊行されており、1972年の報告書“Learning to be”(『未来の学習』)と1996年の報告書“Learning: the treasure within”(『学習:秘められた宝』)に続く、重要な報告書として公表されました。
 “ESD for 2030”(*1)のように10年前後を想定した教育論が通例であるのに対し、より長期的な未来を見据えた内容であることや委員長としてアフリカ出身の女性が選ばれたこと、欧州中心主義から脱した脱植民地主義の価値観が反映されていることなどが報告書の興味深い特徴として挙げられます。

最新報告書『私たちの未来を共に再想像する:教育のための新たな社会契約』

 私たちの世界は、気候変動や感染症などの世界規模の諸課題によってさらに不確実性が増しています。そのような現実に直面している中で、どのように持続可能な未来を実現していく必要があるかを問い直す提案がされています。SDGs(*2)のその先の未来を視野に入れた2050年の教育について論じられており、すべての人たちが持続可能な未来を再想像するための対話の契機として位置付けられた報告書です。

図1 『私たちの未来を共に再想像する:教育のための新たな社会契約』表紙
出典:UNESCO Digital Library
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000379381

教育のための新たな社会契約

 では、報告書の副題である「教育のための新たな社会契約」とは何でしょうか。これは、「人との関わり」「地球との関わり」「テクノロジーとの関わり」という3つの関係性を再構築することを目的としています。この社会契約を支える原理原則として、「生涯を通じて質の高い教育の権利が保障されること」及び「公共の取り組みや共通善として教育を強化すること」の2つが示されています。

報告書の構成

 報告書は、次のような9つの章と3つのパートに分かれて構成されています。

第1部 過去の約束と不確実な未来のつながり

第1章 より公正な教育の未来に向けて
第2章 ディスラプションと立ち現れる変容

第2部 教育の刷新

第3章 協力と連帯の教育学
第4章 カリキュラムと進化するナレッジ・コモンズ
第5章 教師の変容
第6章 学校を守り、学校を変容させる
第7章 異なる時空を超えた教育

第3部 教育のための新しい社会契約への触媒

第8章 研究とイノベーション
第9章 グローバルな連帯と国際協力への要請

 第1部では私たちが置かれている世界の不確実性について、第2部では第1部で示された時代背景に求められる教育の諸課題や刷新などについて、第3部ではさらなる研究や変革、国際協力への提言などが述べられています。また、第2部以降の各章末では、その章の「教育のための新たな社会契約」における原理原則についてまとめられています。
 例えば、第5章では、教師が知識の生産者及び教育と社会の変革の重要な担い手として認められるために、さらなる教育の変革が提案されています。その原理原則として次の4点が挙げられています。

教師という仕事をコラボレーションとチームワークによって特徴づけること
教師が知識、反省、研究を生み出すこと
教師の自立と自由に向けた支援をすること
教育の将来についての公開討論や対話に教師が参加すること

3つの「根本的な問い」

 「教育のための新たな社会契約」をみんなで練り上げるということは、未来を再想像するための重要な一歩であると報告書では強調されています。そのため、「教育のための新たな社会契約」において提言されている2050年に向けて問われるべき3つの根源的な問いを最後に共有します。

What should we continue doing?
私たちは何を継続するべきなのでしょうか。
What should we abandon?
私たちは何をやめるべきなのでしょうか。
What needs to be creatively reimagined?
何を創造的に再想像する必要があるのでしょうか。

 この3つは答えを提示するためではなく、対話を促すための問いです。まずは、何を残し、何をやめ、どのようなことを新たに創造していくのかについての対話をしてみるのはいかがでしょうか。

*1:“Education for Sustainable Development: Towards Achieving the SDGs”(「持続可能な開発のための教育:SDGs達成に向けて」)の略称。2019年12月の第47回国連総会で採択された2030年までの枠組みであり、SDGsを実現するための教育としての位置づけをこれまで以上に強調されている。
*2:Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称で、2030年までに達成すべき17目標と169の指標からなり、持続可能な社会の実現を目指した世界共通の目標として位置づけられている。

【参考文献】

  • UNESCO (2021) “Reimagining our futures together: a new social contract for education”,
    https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000379381 (2022年6月29日閲覧)
  • 永田佳之, 国際理解教育学会編著 (2022) 「私たちの未来を共に再想像する:教育のための新たな社会契約」『現代国際理解教育事典 改訂新版』, 明石書店, 312-315頁.