学び!と共生社会

学び!と共生社会

理科と共生社会
2022.08.25
学び!と共生社会 <Vol.31>
理科と共生社会
大内 進(おおうち・すすむ)

 今回は理科教育について取り上げます。

学習指導要領の記述

 理科における障害のある児童への対応については、通常の学級においても,発達障害を含む障害のある児童が在籍している可能性があることから、他の教科と同様に「【理科編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説」(*1)に次のように記されています。

 理科の目標や内容の趣旨,学習活動のねらいを踏まえ,学習内容の変更や学習活動の代替を安易に行うことがないよう留意するとともに,児童の学習負担や心理面にも配慮する必要がある。
 例えば,理科における配慮として,実験を行う活動において,実験の手順や方法を理解することが困難であったり,見通しがもてなかったりして,学習活動に参加することが難しい場合には,学習の見通しがもてるよう,実験の目的を明示したり,実験の手順や方法を視覚的に表したプリント等を掲示したり,配付したりするなどの配慮が考えられる。また,燃焼実験のように危険を伴う学習活動において,危険に気付きにくい場合には,教師が確実に様子を把握できる場所で活動できるようにするなどの配慮が考えられる。さらには,自然の事物・現象を観察する活動において,時間をかけて観察をすることが難しい場合には,観察するポイントを示したり,ICT 教材を活用したりするなどの配慮が考えられる。

 また、各学校においては、こうした点を踏まえ、個別の指導計画を作成し、必要な配慮を記載し、翌年度の担任等に引き継ぐことなどが必要であると念押しされています。

通常の小学校での取組

 発達障害等、特別なニーズのある児童の増加傾向は留まることがなく、各学校においては、理科教育についてもさまざまな工夫が求められてきているわけですが、渡辺(2021)は、東北地区の学校を対象にその実態を調査しています(*2)
 その調査では、「障害のある児童が在籍している通常の小学校の先生方も障害の状態に応じた配慮や工夫を行いながら理科教育を行っていること」、しかしながら、「障害のある(又は疑いのある)児童への指導を難しいと感じていること」ことを明らかにしています。
 具体的には以下のような結果が示されていました。

障害のある児童たちが教科として「理科」を行っているかどうかについて
  • 同じ特別支援学級に在籍していても情緒障害のある児童は理科を行っている一方で、ダウン症のある児童は行っていないなど、障害によって異なっている。
  • 普通学級に在籍している障害のある児童は全員理科を行っていた。
  • 理科を学んでいる児童は普通学級に在籍している児童と一緒に授業を受ける児童や、実験活動のみ一緒に受ける児童がいて、障害のある児童のみで理科を行うケースはなかった。
障害のある児童が理科を行ううえで配慮していることや工夫していること
  • 指示が通りにくかったり、分からなかったりすることがあるために、端的な指示や図や絵を用いるなど分かりやすい発問や指示を心掛ける。
  • 二人目のチームティーチングの方についてもらう。
  • 個別に声掛けする。
指導するうえで課題と感じている点
  • 習熟に時間がかかることや指示が通らなかったり、分からなかったりすることによって学習意欲の低下に繋がってしまう。
  • 教材をどのように工夫すればいいか分からない。

 この調査は東北地区が対象でしたが、発達障害等の特別なニーズのある児童が増加し続けている現状から、こうした傾向が全国的に認められるのではないかと推察されます。

少ない実践事例の報告

 渡辺は、理科教育の教材や実践事例を紹介しているサイトにおける特別支援教育に関わる小学校理科教育の教材や実践事例の掲載状況についても調査しています。令和元年12月末現在で37件と公表件数が限られていました。現状では、教員を含めた一般の人がインクルーシブ教育に関わる理科の実践について知る機会が限られていると言えます。報告では、その理由について、「障害の状態により個々に対応が異なる児童に対し,指導法や教材が一般的に確立しづらく,公表しづらいことは容易に予想される」と記されています。
 理科教育には、観察・実験、飼育・栽培などの指導が伴い、専門的な知識や指導技術等が求められます。また、小学校は担任業務や他教科の教材研究等も多く、他の教科に比べ準備や後片付けに時間がかかってしまうという傾向もあります。また、高学年になると、より専門性が必要な学習内容となり、実験で多くの器具や薬品を扱うようになります。そのため、理科は指導しにくいと感じる先生方も少なくないようです(*3)
 こうしたことも公表件数の少なさに影響しているのかもしれません。

 理科には、特有の指導のしにくさがあり、それに加えてさまざまなニーズのある児童にも配慮していくとなると、理科を指導する先生方の苦労は並大抵のことではありません。より根本的な対応が必要なのかもしれませんが、現状を少しでも打破して理科の充実を図っていくためには、より積極的に日々の実践事例を公表し、互いに共有し合って、状況改善を図っていくことが何よりも大切なことのように思われます。

*1:【理科編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説
https://www.mext.go.jp/content/20211020-mxt_kyoiku02-100002607_05.pdf
*2:渡辺 尚・櫻井美月 渡辺特別支援教育における理科の実態~小学校理科へのインクルーシブ教育導入を目指して~.宮城教育大学紀要,第55巻,2020.
https://mue.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=1201&item_no=1&page_id=13&block_id=66
*3:群馬県総合教育センター 小学校理科教育に関する研究についての実態調査報告(平成26年度実施)
https://center.gsn.ed.jp/wysiwyg/file/download/1/1780