学び!とESD

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世界を変えるのは私たち! 各国で注目されるテラ・カルタの絵本
2022.09.15
学び!とESD <Vol.33>
世界を変えるのは私たち! 各国で注目されるテラ・カルタの絵本
永田 佳之(ながた・よしゆき)

世界が注目するテラ・カルタ絵本

 第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)のサイド・イベントで素敵な絵本に出会いました。
 「学び!とESD」Vol.24及びVol.25でお伝えしたとおり、COP26は教育が主要なテーマとして位置づけられた画期的な会議でした。メイン会場で行われる議論と平行して、学習や教育をテーマにしたサイド・イベントも積極的に開催され、その中にCOP26に合わせて刊行された絵本の紹介企画がありました。それが今回、ご紹介する『イッツ・アップ・トゥー・アス~自然と人々と地球のための子どものテラ・カルタ~』(原題 It’s Up to Us: A Children’s TERRA CARTA for Nature, People & Planet、邦題は仮訳)です。
 主題を直訳すると「私たちしだい」。つまり、世界を持続可能にできるのは私たち自身なのだ、という希望のメッセージを子どもたちに届け、実際にアクションを起こしていこうという思いのもとで創られた絵本です。すでにイギリス、オーストラリア、米国、トルコで翻訳・刊行されており、イタリア、オランダ、ギリシャ、クロアチア、スペイン、台湾、ドイツ、デンマーク、フランス、ベトナム、ベルギー、日本などでも発刊予定です。
 副題を見てわかるとおり、前号でお伝えしたテラ・カルタの重要性について描かれた絵本でもあります。著者はクリストファー・ロイドさん。子ども向けのノンフィクション作家であり、日本でも『137億年の物語』などの著者として知られています。世界各地から33人のアーティストが選ばれてイラストを描き、物語を読み進めると、ページごとに異なる表現の世界が広がる構成です。
 本文の目次は次の通りです。カッコ内は各部で扱われている主なトピックです。

第1部:自然
(動植物、微生物、空気・土・海、生命の星)
第2部:人々
(豊かさの両面、地球を汚す人間たち、絶滅する動植物)
第3部:地球
(地球の誕生と二酸化炭素、森林火災や洪水など地球温暖化がもたらす問題)
第4部:テラ・カルタ
(地球のための行動計画、再生エネルギー、生き生きとした動植物、賢い消費、先住民の叡智、自然を中心に考えるということ、「変えるのは私たち!」)

 以上の本文に続いてテラ・カルタの前文が再掲され、イラストを描いた世界中のアーティストの紹介ページもあります。
 第1部の直前にはチャールズ皇太子みずからが序文を寄せており、自然に対してユニークな好奇心を抱いている子ども時代のことや、私たち自身が自然の一部であるということ、そして「世界に必要とされていることは、各地の子どもたちがどんな未来を創りたいのかを想像してもらうこと」などが綴られています(関連のウェブサイトのビデオも参照)。

子どもに未来を描いてもらうということ

 ロイドさんも数々のインタビューで語っているように、特に若者をエンパワーするため、つまり地球温暖化など相当に厳しい状況にある世界情勢の中でも自分たち自身が世界を変えられるんだという思いをもってほしい、という願いのもとに、この絵本は作られました。
 ロイドさんもテレビ局のインタビューで語っているように、世界の持続可能性を実現するのに大事なのは、植樹や節水などのアクションにとどまりません。この世界はどのように成り立っていて、いかなる問題があり、またどう解決できるのかを子どもたちに伝えること、そして望ましい未来を共に想い描くことができるようにすることが重要であると言えましょう。
 確かに、絵本の第2部で描かれているような食料やゴミの問題、つまり世界の持続不可能な現実を園児や小学生に見せてしまうと、希望が持てなくなり、成長してから環境に関心さえ持たなくなるという主張もあります。しかし、この絵本の妙味は、世界の現実について説いても、不思議と希望へと導かれるところにあると言えましょう。おそらくその背景には、ロイドさんの文章や世界中のアーティストの優しい眼差しを通して彼(女)らの地球への愛が伝わってくることがあるのかもしれません。
 チャールズ皇太子は、絵本紹介のビデオで、ご自身も絵を描くのが好きであることに触れた上で、ひとつの提案をしています。「1枚の紙で、あなた自身が目にしたい未来の絵を描いてみてください」と。皆さんもいかがでしょう?!

*ここで紹介した絵本は本年度内に山川出版社より刊行される予定です。

【関連の英文ウェブサイト(ビデオ)】