高等学校 情報

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情報Ⅰ (1)情報社会の問題解決、情報Ⅱ (1)情報社会の進展と情報技術「人工知能の『学習』を通して、人工知能と人間との関わり方を考える[他教科連携]」(第2学年)
2022.11.07
高等学校 情報 <No.006>
情報Ⅰ (1)情報社会の問題解決、情報Ⅱ (1)情報社会の進展と情報技術「人工知能の『学習』を通して、人工知能と人間との関わり方を考える[他教科連携]」(第2学年)
田園調布学園中等部・高等部 村山達哉

1.はじめに

 これからの社会では、自動運転のみならず、医療、軍事、政治など、人間でさえ判断に迷う場面を、人工知能(AI)がサポートするようになると思われる。このとき、利用者であるわたしたち自身は、そのAIがどのようなデータを「学習」して、どのようなアルゴリズムで動いているのかなど、その仕組みや傾向を知っておく必要がある。
 「AIに仕事を奪われる」、「AIに意思決定を支配される」といった懸念が示される世の中で、生徒自身がAIに振り回されるのではなく、「人が得意な分野」と「AIが得意な分野」を切り分け、互いの良いところを出し合えるようになることが望ましい。当実践はこのような視点を養うことを目的として、公民科(倫理)との他教科連携授業(教科横断型)として実施したものである。
 本時の内容は、内閣府、文部科学省、経済産業省が協力して制定した「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)」へのつながりを意識したものであり、内閣府発信の「AI戦略2019」において、中等教育に求める内容ともいえる。
 本校では、2021年度まで1コマ65分の授業展開を行っており、情報科の授業は高等部第1学年で週1、第2学年で隔週の実施であった。高等部第1学年では「情報Ⅰ」を見据えた授業を、第2学年では「情報Ⅰ」を掘り下げた内容に加え、「情報Ⅱ」へのつながりを意識した題材を取り上げている。本事例紹介は2021年度に高等部2年生を対象に65分授業で実施したものである。生徒同士のディスカッションや実習機会が多いことから、授業時間数に余裕がある場合には2コマにかけて実施をしても良いと考えている。

2.単元名

「(1)情報社会の問題解決」(実施学年:第2学年)

3.単元の目標

【知識及び技能に関する目標】

  • 情報技術の発展の歴史や、情報技術の発展による社会の変化について理解する。
  • 情報技術の発展による情報社会の進展について考え、情報社会が抱える問題や、それらの問題を解決していくことの重要性について理解する。

【思考力、判断力、表現力に関する目標】

  • 情報と情報技術の適切かつ効果的な活用と、望ましい情報社会の構築や在り方について考える。
  • 情報システムが人の知的活動に与える影響について考える。

【学びに向かう力、人間性等に関する目標】

  • 情報社会の問題解決を通して、望ましい情報社会の構築に寄与しようとする。

4.単元の評価規準

ア 知識・技能

イ 思考・判断・表現

ウ 主体的に学習に
取り組む態度

・情報技術の発展の歴史や、情報技術の発展による社会の変化について理解している。
・情報技術の発展による情報社会の進展について考え、情報社会が抱える問題や、それらの問題を解決していくことの重要性について理解している。

・情報と情報技術の適切かつ効果的な活用と、望ましい情報社会の構築や在り方について考えている。
・情報システムが人の知的活動に与える影響について考察している。

・情報社会の問題解決を通して、望ましい情報社会の構築に寄与しようとしている。

5.単元の指導と評価の計画
(※人工知能に関する学習単元のみ抜粋[1コマ65分換算])

(ア:知識・技能/イ:思考・判断・表現/ウ:主体的に学習に取り組む態度)

学習内容

学習活動

評価の観点

評価の方法

1

・AI概論

・AIの分類、AIの定義付け(専門家による定義に違いがあること)について知る。
・人工知能研究の歴史(探索、推論、知識表現、判断、チャットボット[人工無能]、強いAI・弱いAI 等)について理解する。
・機械学習・ニューラルネットワーク・ディープラーニングの違いについて理解する。
・トロッコ問題、動物裁判(*1)、アシロマAI 23原則(*2)(アシモフ「ロボット工学3原則」)について知る。
・MITモラルマシン(*3)に取り組み、他の人の結果と比較する。

・ワークシート
・行動観察

2

・人工知能の「学習」を通して、AIと人間との関わり方を考える。
[他教科連携授業]

・日常生活でAIに任せても良いこと、人間が行っておきたいことについてグループで考え、意見をまとめて発表する。
・「AIを用いた人事採用」について、事例をもとに考え、自分の意見を述べる。
・機械学習における「学習」・「推論」について理解する。
・機械学習における「教師あり学習」をTeachable Machine(*4)を用いて、体験的に理解する。
・AI技術が引き起こす社会課題・無意識のバイアス(アンコンシャス・バイアス)について知る。
・AIと人間との関わりについて、授業を踏まえて再考し、自分の意見を述べる。
【使用ICTツール】
・Teachable Machine
・Google Jamboard
・ロイロノート

・ワークシート
・行動観察
・振り返りフォーム(Google Forms)

3

・死後デジタル労働「D.E.A.D.(Digital Employment After Death)」(*5)について考える。

・テクノロジーの発達によって個人データを利用して故人を疑似的に復活させることの是非について考え、自分の意見をまとめる。
・各班、メンバーの意見をまとめ、班ごとに発表を行う。

・ワークシート
・行動観察
・振り返りフォーム(Google Forms)

用語説明
*1 動物裁判……中世ヨーロッパなどにおいて行われた裁判。人間に危害を加えるなどした動物を事件の被告として法廷に立たせ、法的責任を問うために行われた。
*2 アシロマAI 23原則……2017年、全世界からAIの研究者や経済学・法律・倫理・哲学などの専門家がカリフォルニア州アシロマに集まり、「人類にとって有益なAIとは何か」を議論の上、発表されたガイドライン。 人工知能が人類全体の利益となるよう、倫理的問題や安全管理対策、研究の透明性などについて23の原則としてとりまとめたもの。
*3 MITモラルマシン……トロッコ問題の考え方をもとに2014年にMITメディアラボの研究者が考案した、究極の選択をする実験Webサイト。クイズ形式で全13問のお題が出題され、自動運転車を用いた人工知能の道徳的な意思決定に関して、人間の視点を収集するプラット・フォーム。
*4 Teachable Machine……Googleが提供する、簡単にAI(機械学習)のモデルを作成できるサービス。Teachable Machineでは「画像プロジェクト」「音声プロジェクト」「ポーズプロジェクト」の3種類のモデルが作成可能。
*5 D.E.A.D.(Digital Employment After Death)……自身の死後、個人のデータとAIやCGなどのテクノロジーを駆使し、デジタル上で「復活(蘇生)」することを許可するか、しないか、意思表明ができるプラットフォーム。

6.本時の目標【2限目】

 クラスでの対話や、Teachable Machineを用いた「教師あり学習」の体験、その他AI技術が引き起こす社会課題を通じて、「人工知能(AI)と人間との関わり」について、自分の考えや意見をもつことができるようになる。

7.本時の流れ【2限目】

時間
(65分)

学習活動・内容

指導上の留意点

評価

導入
5分

・本時のテーマ共有
「人工知能の『学習』を通して、人工知能と人間との関わり方を考える」

・前時の授業スライドを提示しながら、学習内容の確認を行う。

ア.行動観察

展開1
18分

・日常生活でAIに任せても良いこと、人間が行っておきたいことについてグループごとに考え、Google Jamboardに自由に記述する。
・AIに任せるのか、人間が行うのか、各班話し合った内容を、その判断基準とともに、クラス内で共有する。

・AIか人間か、意見を左右に分け、発言者がわかるよう、付箋の色を使い分けるように指示する。

・生徒が発表する際には、当該班のJamboard画面を教室前方のスクリーンに映す。

・各班の発表の中から、AIに意思決定・判断を委ねる意見に触れ、AIによる判断・意思決定に恐怖や懸念がないか問う。

ア.行動観察
イ.ワークシート
(Google Jamboard)

展開2
15分

・AIによる判断・意思決定することについて、「AI採用」を例に考える。
・サッポロビール、ソフトバンクなどの実例を参考に、「もし大学入試(推薦入試等)でAIが合否判定に関与する」となった場合、どのように考えるか、意見をロイロノートに提出する。

・AIを活用した採用では、基本的には、最終的に人間が関与していることを理解する。
・ブラックボックス化・説明可能なAIについて理解する。

・サッポロビール、ソフトバンクなどの企業を例に、採用選考過程にAIを活用している実態を紹介する。
※ここでは、あえて具体的な選考過程のプロセスに言及しない。
・採用側・応募者側双方の意見を勘案して回答するよう説明する。
・ロイロノートにカードを提出する際には、賛成は「青色」、反対は「赤色」、どちらともいえない場合(このような制度設計であれば部分的利用は良いなど)には黄色カードを用いるよう指示する。
・就活生が嫌がる「AIによる採用」(東洋経済記事)を紹介する。
・AIを活用した採用のカラクリ(最終的には人間が関与していること)について説明する。
・「AI採用」に関する記事内で、ソフトバンク採用担当者がブラックボックスについて触れている記事を紹介する。
・ブラックボックス・説明可能なAIについて説明する。

ア.行動観察
イ.ワークシート
(ロイロノート)

展開3
15分

・機械学習における「学習」「推論」のイメージ、教師あり学習、教師なし学習、強化学習について理解する。
・Teachable Machine(画像認識のモード)を用いて、機械学習(教師あり学習)におけるモデル作りを体験する。
<実習内容>
⓪画面上のClass1、Class2にモノA・Bの画像(3枚ずつ)を認識させる。
–以下ペアで作業–
①相手が用意したモノA・Bに関連する画像を画像検索で探し、認識させる(精度の確認)。
②モノAと誤認識を起こすであろうモノBの画像(またはその逆)を画像検索から探し出し、自分の端末の画面を相手の端末のWebカメラに向けて画像を認識させる。

・人間(0歳の赤ちゃん)を例に説明する。
・教師あり学習、教師なし学習、強化学習の違いについて具体的な事例を踏まえて説明する。
・あらかじめ、授業までに2種類の画像を3枚ずつ用意するよう周知しておく。
・②の実習を通して、自分自身がどのような観点で画像を収集したか考えさせる。
・ペア(相手)が選んだ画像(3枚)にはどのような関連性があるか(どのような要素が不足しているか)考えさせる。
・本来であれば、モデル作りには膨大なデータを用いるが、この実習では、1つのモノに対して「画像3枚」という少ない枚数の画像を用いて学習させる。
データの「量」と「質」の重要性に気づかせる。

ア.行動観察
イ.作業データ
(Teachable Machine)

展開4
8分

・AI技術が引き起こす社会 課題について認識する。
・「データの偏り」で起きる社会的影響として、Googleフォトの誤タグ付けや、AmazonがAI採用を取りやめた事例があることを理解する。
・無意識のバイアス(アンコンシャス・バイアス)について理解する。

・悪用と誤情報、公平性と差別、個人情報とプライバシー、人間の尊厳、アクセス不平等、安全とセキュリティ、軍事利用などAI技術が引き起こす社会課題には様々な側面があることを説明する。
(本時の授業内容では、悪用と誤情報・公平性と差別・人間の尊厳などと関連していることを意識させる)
・データの偏りで起こる社会的影響、AI採用を取りやめた事例について説明する。
・データの偏りには、「無意識のバイアス(アンコンシャス・バイアス)」が働いていることを理解させる。

(公民[倫理]・情報ともに、次回の授業につなげる説明を行う)

ア.行動観察

まとめ
4分

○まとめ・振り返り
人間と人工知能(AI)との関わり方を再考する。

・当日中にGoogle Formsに授業の振り返りを入力するよう周知する。

ア.行動観察
イ.ワークシート
(Google Forms)

8.まとめ

 授業を終えて、生徒の「振り返りフォーム」を見ると、ほとんどの生徒がAI(人工知能)との向き合い方について、自分自身の言葉で考えや意見を述べており、本時の目標は概ね達成できた。また、生徒の記述には、学習させるデータの「量」と「質」の重要性や、「説明可能なAI」の必要性について言及しているものも多く、これらの観点においても生徒に認識させることができた。今回は、隔週実施の65分授業であったため、1回の授業としてはボリュームのある内容であったが、本時限の内容を50分授業2コマで展開ができると、特に授業前半の「日常生活で人工知能(AI)に任せても良いこと、人間が行っておきたいことについての分類」部分などは、議論結果(班での見解)を各班ごとに詳しく発表させたり、教員と生徒・生徒(班)同士の対話を行ったりする時間として、「より深く」他者の考えを伺い知る機会になる。
 以下、高等部第2学年のあるクラス(受講者38名)の「振り返りフォーム」を例に、テキストマイニングを用いた分析結果と、生徒の感想をいくつか紹介する。(本文そのまま掲載)

※ユーザーローカルAIテキストマイニングによる分析
https://textmining.userlocal.jp/

  • 「AIは人間を助けられる場面もあるため、人間にとって利益になることもあるが、一方でAIに学習させる際にバイアスがかかると人間が不利益を被ることもあるのだと思った。バイアスがかかるという問題については、AIにデータを読み込ませる時に様々なバックグラウンドを持つ人が多く関わることが大事だと考える(例えば、特に性別や人種に対するバイアスに気づくという点などで)。AIに仕事を取られるという話をよく聞くが、どのように共生していくかを考えていく必要があると思う。」
  • 今回の授業の班の中での話し合いで、「人間の気持ちに関するようなことは人間が行うべきである」という考え方が皆の意見の軸として存在していたことがとても印象的でした。私は人間とAIの違いとして「心」というものを考えていました。いくら学習しようとも、人間が持つ心を機械のAIが超えることは出来ないのではないか、もしくはそのように私が「思いたい」のではないかと感じます。なぜ「思いたい」という表現を使ったのかというと、AIが発達するこの時代の流れに少なからず恐怖のようなものを感じているからです。AIという存在が完全な人間の代替物になってしまったらどうなるのか、様々な事が効率化されていき「無駄な時間」がこの世から消えたらどうなるのか、などといった未来の形に対する不安があります。授業内で推薦入試へのAIの導入に対して反対する姿勢を取ったり、用意する画像をわざと分かりづらいものを選んだりしたのも、このような考えが自分の中にあるからだと考えました。AIの技術の進歩を目の前にした時に、人間は「人間にしかできないこと」を無意識の内に模索しているのだろうと思いました。
  • 今回の授業中の生徒の意見だけでも、物事を分けるのにAI派と人間派でそれぞれ意見が違ったことから、何をもってAI化すると判断するのかは人によって基準が違うと思った。条件として、正確性やスピードなど様々なことが挙げられるが、人間が気持ちを込めて行いたい動作もそれぞれ違って、はっきりと正解がない話題である。ある人はこの動作は単純作業だからAI化したいと言うかもしれないし、一方で、ある人はしっかり気持ちを込めて人間の手で行いたいと言うかもしれない。また、”AIは果たして人間を超えられるのか”というのも1つ話題に上がることである。今回の授業中に画像を覚えさせるアプリを使ったときに、これからの未来私達人間はAIに支配されてしまうのではないかと恐怖を感じた。人間が作ったものとはいえ、力を制御出来なくなってしまう前に人間が想像しなければならないリスクはたくさんある。これからの未来を生きていく上で、あくまでもAIは人間の生活を便利にするもので、人間を管理するものではないということを念頭に置いて考えていきたいと思った。
  • AIの発展はこれからも続くと思うし、人間を大いに助けてくれる存在になると思った。今は人の手でやっていることも、AIに代用してもらえて世の中がもっと豊かになったり、生活が楽になる部分もあると思った。しかしその反面AIの普及は様々な問題も引き起こすことを改めて考えさせられた。今までに入れられたデータの分析から新たな作業をするというAIの最大の特徴が、思わぬ方向に働くこともあると知った。人間には、何をAIに学ばせるかという無意識のバイアスがかからないようにしなければいけないと思った。そのためには、AIに学ばせるだけで、様々なことを発展させようと丸投げにするのではなく、今後も人間が未知のことへも興味を持ち、深く多角的に学ぶことが大切だと感じた。

【関連資料】